2015年春から、英経済メディア「フィナンシャル・タイムズ(以下FT)」は、従来からのメーター制課金(ソフトペイウォール)を辞め、閉鎖型の課金制(ペイウォール)のトライアルを導入している。この課金制度変更に伴い、ユーザーが1ポンド(約160円)を支払えば、1カ月間すべてのコンテンツを閲覧できるようになった。
また、それと同時に、FTはソーシャルプラットフォームに対する方針も変更。GoogleやFacebook、Twitterなどから訪問してくるユーザーのために、多くの記事を無料化したのだ。記事の無料配信は、2015年11月からAppleのニュースアプリ「News」でも展開している。その結果、ソーシャル流入が1年で2倍、有料発行部数が過去最大になったという。
2015年春から、英経済メディア「フィナンシャル・タイムズ(以下、FT)」は、従来からのメーター制課金(ソフトペイウォール)を辞め、閉鎖型の課金制(ペイウォール)のトライアルを導入している。この課金制度変更に伴い、ユーザーが1ポンド(約160円)を支払えば、1カ月間すべてのコンテンツを閲覧できるようになった。
また、それと同時に、FTはソーシャルプラットフォームに対する方針も変更。GoogleやFacebook、Twitterなどから訪問してくるユーザーのために、多くの記事を無料化したのだ。記事の無料配信は、2015年11月からAppleのニュースアプリ「News」でも展開している。
自国外のユーザーに焦点
FTのB2Cグローバルマネージングディレクターであるジョン・スレイド氏は、同紙がこのような方針の変更を行った理由について、3年ほど前から続いている購読契約の低迷が原因だと語る。順調に成長を続けていたFTだったが、無料コンテンツの数を減らしてしまったため、購読契約数も激減してしまったのだ。
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「我々には『リーチしてリターンする』という戦略がある」と、スレイド氏。「今回の課金制トライアルは『リターン(結果)』を最大限に伸ばしてくれ、購読契約数の上昇につながった。そして現在、我々はリーチを世界規模で広げたいと考えている。現在の購読契約の3分の2はイギリス国外からであり、可能性はこれまで以上にあると思っている」。
ソーシャル流入が1年で2倍に
だからこそ、ユーザーに読んでもらえそうな記事を選ぶことよりも、Google検索でFTの記事にたどり着いたユーザーに対し、1日3本まで記事を無償で読めるように開放した。ちなみに、FacebookやTwitterなどを経由してFTの記事を読む場合は、1日1本までが無料となる。FTによると、このようなソーシャルプラットフォームからのトラフィックは、施策実施前よりも80%も上昇しているという。
トラフィック解析サービスのシミラーウェブ(SimilarWeb)によると、2016年1月、デスクトップからのソーシャルメディアトラフィックは月間でおよそ32万7000件だったという。2015年3月と比べると、16万件もの上昇だ。
しかし、FTがこれで満足しているわけではない。スレイド氏によると、現在FTは分散型コンテンツのテストを3つの主力プラットフォームで行っているという。Googleのモバイル高速化プロジェクト「AMP(アンプ:Accelerated Mobile Page)」とAppleの「News」は現在使用しているが、Facebookのニュースプラットフォームである「インスタント記事」は、4月の上旬から使用をはじめる予定だ。「より多くのユーザーに我々のジャーナリズムを経験してもらい、知ってもらいたい。そして、FTのコンテンツに触れることを習慣にしてもらいたい」と、スレイド氏はコメントしている。
過去最大の有料発行部数
また現在、Appleの「News」から分析情報を待っている最中だという。この情報がないと、どれほどの成果があったのかがわからない。しかし、購読契約者の認証やオーディエンスの計測方法など、Appleとのあいだでいくつかの問題があるようだ。
Googleの「AMP」は広告の提供ができるため、収益化の可能性をより強めてくれるが、Facebookの「インスタント記事」はオーディエンス開発ツールのようなものだと、スレイド氏は話す。現在、Facebookはいくつかのパブリッシャーに対し、「インスタント記事」内でニュースレター登録へのフォームを追加する実験を行っている。当然、FTもこれを試してみたいと考えているという。「Facebookがパブリッシャーの声をしっかりと聞いている証拠なので、これには勇気づけられる。もし有料の記事を載せられないのであれば、それはそれで構わない。このニュースレターの登録フォームは、我々にとっても最高のものだ」と語った。
2016年で創業128年目になるFTだが、経営コンサルティング企業、デロイト(Deloitte)によると、紙媒体とデジタルの両方において、有料発行部数がこれまでで最大に達したという。2015年と比べると8%上昇し、購読契約数は78万件になった。デジタル購読契約数も2015年と比べると12%上昇していて、56万6000件に達している。
求めているものは量ではなく質
もちろん、これ以上に成長するつもりではあるが、「スケールのためだけに、規模を拡大する」ことはしたくないと、スレイド氏はいう。「FTのコンテンツをすべて無料にして、一晩で大量のトラフィックを稼ぐことはできる。しかし、FTが求めているものはトラフィックの量ではなく質だ。我々が行うすべての行動はデータ分析によって裏付けされている。そして、ソーシャルプラットフォームでオーディエンスにリーチする際には、思いやりをもって接しなければならない」と、彼はコメントする。
このように、ソーシャルプラットフォームと協力しているFTだが、これ以外にもスレイド氏が行っていることは多くある。購読契約数を増やすために、デジタルマーケティング企業である電通イージス・ネットワーク社の元CEOであり、プログラマティック分野に長けた、アムネット・サチャ・ブナティアン氏を、グローバルB2Cマーケティングディレクターとして雇い入れたことも、そのうちのひとつだ。ブナティアン氏は、2016年3月上旬から入社しているが、買収、オーディエンス開発、CRM、eコマースと運営を担当することになっている。
「このような企業の中核にデータがあるということは、とても珍しい」と、ブナティアン氏。「FTの最高データ責任者が役員会にいることが、FTは顧客やデータを重要視しているという証拠だ。オーディエンスセグメンテーションを改善する環境も整っている」。
ブナティアン氏は、これからオーディエンスマネージメントとセグメンテーションを重視し、顧客とのコミュニケーションもそれぞれの顧客に特化した対応をしていく計画だと教えてくれた。「我々が発信するブランドメッセージから、クリエイターたち、メディアの買収方法、顧客とのエンゲージ、ソーシャルメディアプラットフォームやeメールに至るまで、すべてにおいてそれぞれのオーディエンスに特化させ、正しいタイミングでエンゲージを図っていきたい」と最後にコメントしてくれた。
Jessica Davies(原文 / 訳:BIG ROMAN)
Image via 米DIGIDAY