サードパーティCookieは間もなく廃止され、AppleもモバイルIDについて制限を設ける。そんななか、Vice Mediaはファーストパーティデータ戦略として、登録のプロセスを改善しつつ、コンテクスチュアル広告を強化ことを掲げている。
バイスメディア(Vice Media)が抱える全世界のユニークビジター数は、コムスコア(Comscore)によると5750万人となっている。だが、バイス自身による発表では、全世界におけるオーディエンス数は3億5000万人を超えるという。だが、このうちログインしていないユーザーのほうが多いようだ。サードパーティCookieは間もなく廃止され、AppleもモバイルIDについて制限を設ける。そんななか、バイスメディアはファーストパーティデータ戦略として、登録のプロセスを改善しつつ、コンテクスチュアル広告を強化することを掲げている。
広告主に対し、ファーストパーティデータを活用した広告ソリューションを提供するため、バイスメディアは消費者レポートを提供する調査企業エクスペリアン(Experian)とデータプラットフォームのインフォサム(Infosum)の新しいツール、エクスペリアンマッチ(Experian Match)を使用してきた。
両社によれば、パブリッシャーは同ツールによって、サードパーティCookieの使用や、ユーザーログインなしにオーディエンス分析が可能になり、広告主はより精度の高いターゲティングが行えるようになるという。
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バイスメディアのグローバルオーディエンスソリューション担当ディレクター、ライアン・シモーネ氏は「我々が是正したいのは、データを活用する際の解釈基準が多すぎることだ。たとえば広告主とのブリーフィングで、ターゲットとなるオーディエンスの定義を行なう際の基準などが挙げられる」と語る。「我々であれば、広告主から『こうしたグループをターゲットにしたい』と要望があった場合、サードパーティデータやそのほかの解釈基準を用いることなく、バイスメディア上だけで『製品Aはこのコンテンツを活用し、このオーディエンスをターゲットにして、競合商品Bとの差別化を図るべき』と提案できる。これは、プロセス全体を再構築する洗練された戦略といえるだろう」。
取り組みの中身
では、エクスペリアンマッチを活用した取り組みとは、具体的にはどのよなものなのか。バイスメディアは、ファーストパーティデータのIDやIPアドレス、タイムスタンプデータを提供し、エクスペリアンは、それらを独自のIPアドレスと世帯レベルの社会統計データと照合する。この最初の照合は、エクスペリアンマッチのマッピングファイルを作成するために使用されたあと、分散化されたデータ「バンカー(Bunkers)」に保存されます。そして、ここからの照合は、インフォサムの分散型システムが処理する。なお、パブリッシャーと広告主は、それぞれに安全性を確保した個別の「バンカー」を持つことができるため、顧客データがパブリッシャーと広告主間で共有されることはない。
バイスメディアのエージェンシー開発担当バイスプレジデントを務めるポール・ダビッドソン氏は、エクスペリアンマッチの利用にあたり、個人情報とセキュリティについては十分な検討を重ねたと述べている。それと同時に「データが企業間で移動することはないので、個人情報に関して懸念はない」という。
もちろん、課題もある。同社がユーザー登録時に集めるデータは、かなり基本的なものに抑えられており、登録時に受けられるユーザー特典についての説明もあまりない。こうした点について、バイスメディアは現在改善を進めているという。前出のシモーネ氏は「登録を促すための戦略は、今後強化していきたい。当社のユーザーのために、より大きな価値を創出していく」と語る。また、同社はニュースレターや、コロナ禍以前にリファイナリー29(Refinery29)が開催した体験型イベントなども活用し、ファーストパーティデータを収集している。
数よりも正確性を重視
バイスメディアは以前から、コンテクスチュアル情報プラットフォームのグレイプショット(Grapeshot)との提携を続けてきた。それも、グレイプショットがオラクルに買収されるよりずっと前からだ。グレイプショットは広告主に対し、ファッションや音楽といった主要分野に興味のあるオーディエンスの情報だけでなく、最近ではジュエリーといった、より細分化された分野への対応にも取り組んでいる。
「オーディエンス数が少ないという理由で、この取り組みを敬遠する広告主もいるようだ。しかし我々は、数よりも正確性を提供する方が重要だと考えている。エクスペリアンやインフォサムといった提携企業を通じて収集した、ファーストパーティのデータセットを活用することで、より正確な分析が可能になる」と、シモーネ氏は語る。たとえば、バイスメディアには高級ファッション関連のコンテンツはほとんどないかもしれない。しかし、我々が扱う政治やテクノロジー分野の記事を読みに来る人のなかには、ファッションに興味のある消費者も含まれている可能性がある」。
さらにシモーネ氏は、「コンテクスチュアル広告は進化している。サードパーティCookieが使えなくなれば、その重要性はさらに大きなものになるだろう」と続ける。
「基本に立ち返らねばならない」
メディアコンサル企業のADZストラテジーズ(ADZ Strategies)の創業者、アレッサンドロ・デ・ザンチェ氏は、パブリッシャーが持つ、広告主にとっての大きな魅力は、オーディエンスと広告が配信されるコンテキストにほかならないと述べる。
「パブリッシャーが今後も進歩を続け、制御できるシステムを本当に望むのであれば、基本に立ち返らねばならない。オーディエンスとの信頼関係を再構築し、透明性を保ち、同意が必要な理由もきちんと伝える。それが最初の一歩だ」と同氏は語る。
「技術的な変化や個人情報規制が進むなか、パブリッシャーがオーディエンスとの関係性を再構築しなければ、両者の関係性はつぎはぎだらけのいびつな形になってしまうだろう」。
[原文:‘Re-architecting the entire process’ How Vice is preparing for life after the third-party cookie]
LARA O’REILLY(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)