1923年に英国で創刊された世界初の放送番組表雑誌「レディオタイムズ(Radio Times)」は、オンラインの若いオーディエンスの獲得に取り組んでいる。2011年の買収を機にデジタルシフトを加速させた。「我々のコンテンツは、大部分において、検索流入を飛躍的に伸ばしている」と、発行人のフォレスト氏は語る。
1923年に英国で創刊された世界初の放送番組表雑誌「レディオタイムズ(Radio Times)」は、オンラインの若いオーディエンスの獲得に取り組んでいる。
同パブリッシャーの主力は、以前からある週刊の紙媒体雑誌で、発行部数は78万8000部(そのうち約31%が定期購読者)、価格は毎号2.3ポンド(約300円)。しかし、紙媒体読者の平均年齢は57歳だ。
英国中のコーヒーテーブルに置かれたレディオタイムズという紙媒体の存在感は、依然として強い。とはいえ、次の100年も生き残るつもりなら、次世代をどこから呼び込めるのかを考えなければならない。問題は、いまや多様なメディアがテレビ番組表を提供していることと、テレビ視聴習慣が時代とともに進化していることだ。
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買収を機にデジタルシフト
レディオタイムズの発行元であるBBC(英国放送協会)傘下のBBCマガジンズ(BBC Magazines)は2011年、イミディエートメディア(Immediate Media)によって買収された。当時、レディオタイムズのサイトは、テレビ番組表を掲載するだけで、Googleアナリティクスによると、月間ユニークビジター数は200万をようやく超える程度。雑誌には数十人の記者たちが長い記事を書いていたが、それらがWebに転載されることはほとんどなかった。
買収後、13人体制のデジタル編集チームは、コンテンツを増やし、論評、要約、レビュー、リスト記事に、紙媒体よりもインパクトのある見出しをつけて掲載した。そして2015年、レディオタイムズは編集戦略を一層先鋭化させた。
「オーディエンスが知りたがっていることを、我々は一層戦略的に取り上げている」と、レディオタイムズのデジタル版発行人を務めるスチュアート・フォレスト氏は語る。詳しい統計値は避けたものの、「コンテンツはいまや、前年に比べて、1記事あたりで20%多いページビューを生み出している」という。コンテンツの量は、1日あたり35本の記事を堅持しており、SF、エンターテインメント、料理などのバーティカルコンテンツが中心だ。「我々のコンテンツは、大部分において、検索トラフィックを飛躍的に伸ばしている」。
圧倒的に強いのは検索流入
レディオタイムズのトラフィック供給源として、圧倒的に多いのが「検索」だ。アナリティクス企業シミラーウェブ(SimilarWeb)によると、同サイトのトラフィックの34%は検索からもたらされているという(レディオタイムズは、この推計値はひどく過小評価されていると主張したが、正確な数字は明かさなかった)。
8月からITVで放送開始した、ビクトリア女王の人気ドラマ「ビクトリア(Victoria)」について、編集チームはサービスコンテンツ(「放送は何時から?」、「見るべき?」など)や、史実の解説記事を制作。コンテンツは、歴史上の人物に対する視聴者の興味に合わせてある。具体的には、「本物の第2代メルバーン子爵ウィリアム・ラム」や「ビクトリア女王とアルバート王子のロマンスの実話」などだ。8月末のシリーズ放送開始日には、レディオタイムズの人気ニュース記事トップ10のうち、8本までが「ビクトリア」関連だった。
「レディオタイムズは、『グレート・ブリティッシュ・ベイクオフ(Great British Bake Off)』、『ダウントン・アビー(Downton Abbey)』、『ビクトリア』のような、伝統的で懐古的な英国の番組に関連した記事で実績をもつ」と、メディアエージェンシーのマクサス(Maxus)でデジタルプランニング責任者を務めるアレックス・スミス氏は指摘する。「この手のコンテンツはつねに検索結果のトップに浮上するし、そうした番組に対するオーディエンスの需要は非常に高まっている」。
25~34歳の読者が42%増加
レディオタイムズはまた、スポーツコンテンツを強化して、守備範囲を広げている。今年のオリンピック会期中、編集チームは検索メトリックスデータから主な検索ワードを抽出し、検索クエリが最大だったイベントを取り上げるランディングページを設けた。
検索最適化によって人気番組関連のトラフィックを集めることはできるが、このようなオーディエンスがブランドに対するロイヤルティを抱くようになるとは限らない。レディオタイムズもこの課題を認識している。「我々はテレビ消費習慣の変化に対応し、Netflix、『Amazonプライム(ビデオ)』、『マーベル(Marvel)』などをカバーしている」と、フォレスト氏は説明する。「また、番組表プラットフォームの利便性を高めている」。
番組表は、依然としてサイト全体のページビューの55%を占めている。BBCのオンライン番組視聴サービス「BBC iPlayer」と、Amazonとの非営利提携のおかげで、ネットユーザーは番組表を閲覧し、そこから直接番組に飛んで視聴できる。
さらに最近、英大手メディアのスカイ(Sky)とのサービス統合により、スカイのアカウントをもつユーザーは、番組表から直接セットトップボックスに録画予約やダウンロード予約を入れることが可能になっている。この人気サービスの利用者数についても、フォレスト氏は明かしてはくれなかった。
しかし、2015年、25~34歳のサイト訪問者数は42%増加。Googleアナリティクスによると、現在ではこの年齢層が、月間ユニークビジター800万人の21%を占める。ほかの年齢層は、サイト訪問者数の約16%ずつを占めている。

番組表から直接番組を視聴できる。
いまなお、発展途上にある
レディオタイムズはいまなお、発展の途上にある。「これまでの遺産に少しばかり頼ってやってきた、という印象がある」と評するのは、エージェンシーのトータルメディア(Total Media)でパブリッシング責任者を務めるジェイミー・ダンロップ氏だ。
「プロダクトは良質で、オーディエンスも優良だ。ファッションブランドやスポーツブランド、エナジードリンク、放送事業者が広告を出している。広告主のために多様な環境を創出しているのは明らかだ。ただし、レディオタイムズは、若いオーディエンスにも適していることを、エージェンシーにアピールしていく必要がある」。
発展の機会になりうるのが、ソーシャルだ。ソーシャルにおけるレディオタイムズのプレゼンスは希薄で、Facebookのフォロワーは17万5000人、Twitterのフォロワーは7万6000人にすぎない。ほかのパブリッシャーに比べ、ソーシャルトラフィックへの依存度が低いのはフォレスト氏も認めるところだが、そのおかげでFacebookの気まぐれなアルゴリズム変更の影響を免れてきた。それでもやはり、レディオタイムズもインスタント記事の可能性を探っている。
「Snapchat(スナップチャット)の『ディスカバー』にはすでに、Netflixで見るべき番組トップ10を教えてくれるパブリッシャーがいる」と、マクサスのスミス氏は指摘する。「Facebookのボットも、YouTubeのレビューもある。人々は広い範囲からコンテンツを探す。コンテンツがあれば、視聴者は必ず見つける。レディオタイムズに必要なのは、コンテンツをしっかり用意しておくことだ」。
Lucinda Southern(原文 / 訳:ガリレオ)
Image: courtesy of the Radio Times.