モバイル動画サービスのQuibi(クイビー)のサービス終了の発表により、有料の短尺動画市場に衝撃が走っている。これが短尺動画市場にとっての終わりとなるわけではもちろんないが、テレビ並の高品質短尺動画を提供するサービスが困難な時期を迎えているのも確かだ。
モバイル動画サービスのQuibi(クイビー)のサービス終了の発表により、有料の短尺動画市場に衝撃が走っている。これが短尺動画市場にとっての終わりとなるわけではもちろんないが、テレビ並の高品質な短尺動画を提供するサービスが困難な時期を迎えているのも確かだ。
2020年の4月ごろには、まだQuibiのローンチを前に、高価値(かつ高予算)の短尺動画への需要復活を期待するメディア企業幹部もいた。しかし現実にはそうはならなかったのだ。Quibiは10月21日にサービスの停止を発表。改めて短尺動画の難しさが浮き彫りとなった。
声明のなかで、同社の創業者ジェフリー・カッツェンバーグ氏は「Quibiの事業モデルは、もはや継続不可能」だと述べている。そもそも、短尺番組に高額の投資を行って、それが回収できるという時代は、これまでなかったといっても良い。
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短尺動画市場の問題は、収益性の低さだ。生活の隙間時間で試聴するコンテンツ市場には、すでにインスタグラムやTikTokがいる。そこで十分な収益を得るのは容易ではない。とはいえ、短尺の動画の収益化が実行不可能というわけではない。それにはコストに十分気を配り、直接的な収益を最終目標にしないことが重要だ。Quibiのサービス終了によって、有料短尺動画市場が後退するわけではないが、軌道修正は進むだろう。
あるメディア企業の幹部は「伝統的なパブリッシャーにとって、いかに最高レベルのクリエイティブを製作するかを考えることは大切だ。しかし同時に、いまよりはるかに安価に製作する方法を模索する必要もある。スマホやSNS向けコンテンツの制作に、莫大な予算が必要とは思えない」と指摘する。
1分あたり1万〜12.5万ドルのコスト
創業にあたって17.5億ドル(約18億3000万円)の資金調達を実施したQuibiは、これまで1分あたり1000ドル(約10万5000円)程度の予算が一般的だった同市場にあって、1分あたり1万ドル(約105万円)から12.5万ドル(約1300万円)の予算をかけてきた。同社はこの資金の回収を、広告なしで月額8ドル(約840円)、広告付きで5ドル(約530円)のサブスクリプション登録に頼ってきた。しかし、モバイルアプリ分析会社のセンサータワー(Sensor Tower)によると、サービス開始以来、QuibiをiPhone、およびAndroidにインストールしたユーザーからのサブスク収益は770万ドル(約8億円)程度にしかならないと推測している。
一方、初年度にQuibiに1億5000万ドル(約160億円)を投じると約束していた広告主、ゼネラルミルズ(General Mills)やタコベル(Taco Bell)などは、視聴数の少なさを理由に支払いの延期を求めていたと報じられている。
収益性で苦戦している有料短尺動画サービスはQuibiだけではない。2016年2月、YouTubeはオリジナル番組や映画の提供を開始したが、これを利用できたのは、月10ドル(約1050円)のサブスクリプションサービス、YouTube Redに登録したユーザーに限られていた。3年後の2019年、YouTubeはオリジナル番組を広告付きで無料配信することを発表している。それ以降、YouTubeやFacebookは、リアリティ番組やドキュメンタリー番組を除く制作費の高い脚本番組からは手を引いており、オリジナル番組への強い野心はもはや見えてこない。2人目のメディア企業幹部は、具体額は避けつつも「予算は確実に縮小した」と述べている。
短尺動画の収益化は「組み合わせ」が主流
高品質な短尺動画の需要がなくなったわけではない。しかし短尺動画は、動画という巨大市場の片隅に存在しているに過ぎないというのも、また事実だ。3人目のメディア企業幹部は、「有料の短尺動画に、それ専用のプラットフォームは必要なのだろうか?」と疑問を投げかける。
不要というのが、おそらく業界内における一般的な見解だ。少なくともいまのところ、高品質の短尺番組は、それ以外の動画コンテンツとともにさまざまなプラットフォームが提供している。たとえばYouTubeやFacebook、Snapchatなどもそうだが、いずれのプラットフォームにおいても、飽くまでユーザー生成コンテンツが主流だ。プルートTV(Pluto TV)など、無料で広告付きのテレビ番組配信を行うプラットフォームでも、長尺とともに短尺番組も配信しているが、追加されるコンテンツは昔のテレビ番組や映画が多い。
つまり、高品質な短尺動画は、ほかのコンテンツと組み合わせて提供するビジネスモデルが主流なのだ。オリジナル番組市場が拡大するなか、YouTubeやSnapchatにパイロット版の短編番組を投稿し、その後NetflixやHuluに、シリーズ番組を展開していくメディア企業が増えている。
そのほかの選択肢
短尺動画単体を収益化する手法は、ほかにもある。たとえば広告付きの24時間配信番組を提供しているA+Eネットワークス(A+E Networks)では、長尺のテレビ番組の合間に、FacebookやYouTube用の短尺動画を配信している。また、一部のメディア企業は、国際的なパブリッシャーなどに短編番組のライセンスを販売しており、年間収益は数億円規模になっているという。4人目のメディア企業幹部は「ライセンス販売の観点から見れば、非常に利益率の高いビジネスモデルだ」と明かす。
加えて、単純にYouTubeやSnapchat向けに高品質な短尺動画を製作、提供するという方法もある。しかし、その場合の制作費は予想される広告収益を考慮する必要があり、コンテンツの品質を落とさざるを得なくなる可能性もある。
5人目のメディア企業幹部は、次のように述べている。「YouTubeやFacebookは低予算向けだ。こうしたプラットフォーム向けの動画の予算は限られてくる」。
[原文:Quibi’s shutdown underscores economic challenge for big-budget, bite-sized shows]
TIM PETERSON(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)