ユーザベースのQuartz、動画を「サブスク」拡大の原動力に

Quartz(クオーツ)は、ハイエンドな動画シリーズが会員からの主要な収入源になると期待している。

Quartzは2020年1月の最終週、同社のメンバーシッププログラムの登録者だけが視聴できる、新しい動画シリーズ「リスク(Risk)」のプレミア公開を知らせる電子メールを送信した。このプログラムは月額15ドル(約1650円)、または年額99ドル(約1万880円)を払えば会員になれる。

「リスク」は、メンバーシッププログラムの強化を狙ってQuartzが行った動画への大型投資の象徴だ。Quartzのエグゼクティブプロデューサーであるジェイコブ・テンプリン氏は、9人で構成されるQuartzの動画チームは2020年にメンバーシッププログラム登録者向けの動画シリーズをほかにも6本制作すると語り、少なくともそのうちの半分は年末までに完成し、公開されると付け加えた。新シリーズのなかには、中国が世界経済に及ぼす影響を検証する「ビコーズ・チャイナ(Because China)」のような既存番組の新シリーズもあれば、Quartzのほかの報道へと誘導する話題に焦点を当てた、まったくの新作もある。

Quartzが動画制作に投資をしているのは、動画が会員獲得や会員維持の重要な原動力になると経営陣が考えているからだと、同社のメンバーシップエディターであるウォルター・フリック氏はいう。2019年にコンテンツ経由で獲得した会員の25%は、動画由来だった。この割合は、大麻やブロックチェーンのような関心が高まりつつある話題のビジネストピックを記者が解説する読み物「フィールドガイド(field guides)」に次ぐ、2番目の大きさだとQuartzの広報担当者は述べる。

動画における費用対効果

だが、高品質なデジタル動画は制作費が高額であることが既知の事実であり、Quartzのシリーズもその例外ではない。Quartzの番組は、ひとつのエピソードが完成するまでに通常4~6週間かかると広報担当者は話す。各エピソードにはプロデューサーが1人または2人いて、制作スタッフは少なくとも4人、それに複数のフリーランサーが関わることもある。広報担当者は、各番組の平均制作コストの詳細は具体的に明かさなかった。

さらに、Quartzの登録会員全員が動画に関心を寄せているわけではない。Quartzの登録会員1万人のうち、動画を視聴しているのは27%で、毎月1本でも動画を見ているのはそのなかの10%程度だ。だが、さまざまな方法で動画コンテンツを収益につなげようとしている多くのパブリッシャーと違って、Quartzは会員売上が自社の最大の資金収入になると期待している。Quartzでは、一部のエピソードをYouTubeで公開し広告収入を得ているが、ほとんどの動画コンテンツはペイウォールの内側に置かれている。

フリック氏によると、これらの動画はQuartzのメンバーシップの価値や質を伝えるうえで大いに役立っており、そこへの投資はQuartzにとって価値あることのようだ。「ひとつのエピソードのための取材で記者たちがいくつもの大陸へ渡って行く様子をオーディエンスが見ている。オーディエンスは文字通り、制作に注ぎ込まれている投資を見ることができる」。

時とともに進化する動画戦略

Quartzは何年ものあいだ、小規模なチームで動画制作を行ってきたが、ほかのデジタルパブリッシャーと同様に、その動画戦略は時とともに進化してきた。動画は当初、メンバーシッププロダクトの中心要素ではなく、(Quartzでは)フィールドガイドや記者との電話会議、エンゲージしているメンバー同士が交流できるコミュニティなどの資産を強調していた。Quartzのメンバーシップチームは、2019年末までに2万人の購読者を集めるという野心的な目標を掲げていた。Quartzの親会社であるユーザベース(Uzabase)が2019年11月に出した第3四半期書類によると、獲得した会員数は1万人を超えている。Quartzは2019年、小規模なレイオフを2度行い、実質的な従業員の離職を経験した。

Quartzの戦略は一般的なものではないが、購読者向けのハイエンド動画に投資しているメディア企業はQuartzだけではない。アーキテクチュラル・ダイジェスト(Architectural Digest)が2019年に立ち上げたB2Bの購読者プロダクト「アド・プロ(AD Pro)」のチームは、月2本の動画を制作する予定でいる。

コンサルティング企業マニュフェスト(Manifesto)の北米担当エグゼクティブバイスプレジデントを務めるサム・ジョーダン氏は、「これは間違いなく、カスタマー・バリュー・プロポジション(CVP)としては非常に賞賛すべきことだが、(Netflix[ネットフリックス]以外に)それを実行できるところがあるとは思えない」と言い、「ほかの多く(のパブリッシャー)は低コストのコンテンツに集中している」と付け加えた。ジョーダン氏は、消費者向けプロダクトの設計・開発を専門にしている。

動画チームの情熱が決め手

Quartzのメンバーシップに焦点を当てた動画戦略は、2020年のデジタルメディアの標準と照らし合わせても、別の意味で通常とは異なる。テンプリン氏は、編集上の判断は、オーディエンスデータに純粋に頼るのではなく、どんな種類の番組を作るかについての決定を伝える傾向にあるという。動画チームは、フィードバックを頼りにするという発想を真剣に検討しているが、どんな番組を作るかを決める際に役立つようなオーディエンスデータは持っていない、とテンプリン氏は話す。

「我々には、本当に強い興味や情熱を持ち、それぞれの専門分野を持つ動画ジャーナリストのチームがいる。(一連のアイデアが)チーム内から出てくる時、最高のプロダクトができるとわかっている」と、テンプリン氏は語った。

Max Willens(原文 / 訳:ガリレオ)