東洋経済新報社やJBpressなどは先月末、媒体社共同体「Japan Publisher Alliance on Digital(JPAD)」を発足した。JPAD はPubMatic(パブマティック)のプラットフォーム「SEVEN」を活用。媒体社がデジタルパブリッシングにより得られる収益を確立する試みがはじまった。
東洋経済新報社やJBpressなどは先月末、媒体社共同体「Japan Publisher Alliance on Digital(J-PAD)」を発足した。J-PAD はパブマティック(PubMatic)のプラットフォーム「SEVEN」を活用し、招待制のオークションである「プライベート・マーケットプレイス(PMP)」の提供を開始。媒体社がデジタルパブリッシングにより得られる収益をより確立されたものにする試みがはじまった。
パブマティック・プレジデント、カーク・マクドナルド氏、アジア太平洋担当バイスプレジデントのジェーソン・バーンズ氏はデジタル広告においてGoogle、Facebookがデュオポリー(2社による独占)を築いており、パブリッシャー(媒体社)は媒体社共同体の設立を拡大するとともに、データ環境の整備や入札方法の多様化など、さまざまな対応策を打つべきだと訴えた。
2社でデジタル広告費の成長分85%
Google、Facebookの2社はデジタル広告において他社を大きく引き離している。パブマティックがeマーケター(eMarketer)とモルガンスタンレーのリサーチを独自に分析したところによると、Google、Facebookはデジタル広告費の46%に当たる890億ドル(約8兆9000億円)を握り、54%に当たる1060億ドル(約10兆6000億円)を残りのパブリッシャーが分け合っている。しかも、2社でデジタル広告費の伸びの85%を占めている。
Advertisement
マクドナルド氏によると、両社は積極的なM&Aで優位性を拡張しており、「ウォールド・ガーデン(壁に囲まれた庭)」と呼ばれる、他社の介在を排した独占的なプラットフォームを築くことに成功した。ここに第三勢力として、AOLと米Yahooを傘下に置いたVerizon(ベライゾン)、タイム・ワーナーを買収する見通しのAT&Tの大手通信2社が参画している。「AT&TとVerizonは豊富なファーストパーティデータをもっている。それを媒体と広告プラットフォームと一緒にして、Google、Facebookに対抗しようとしている」
つまり、Alphabet(Google)、Facebook、AT&T、Verizonと世界時価総額ランクで上位に入る4社がこのデジタル広告費を争っている構図で、「それ以外」の媒体社には対抗策が必要になる。そのひとつが媒体社共同体(パブリッシャーアライアンス)だということだ。英国のパンゲアアライアンス、シンマキア、フランスのラプラスメディアなど、米国ほどの取引ボリュームをもたない国に先行例がある。
Google、アドサーバーで大差
Googleの優勢を支えるひとつの要因は、デジタル広告のインフラ部分であるアドサーバーでの優位性だ。「2000年代中盤〜後半に米Yahoo、マイクロソフト、Google、AOLがアドサーバー市場にいて市場を4分割していた。しかし、次第にGoogleが市場を支配しはじめた」。
そのリードは拡大する一途で、ビジネスインサイダーによると、Googleのアドサーバー市場シェアは63.9%に達しており、2位のSizmek(9.8%)に大差をつけている。劣勢だった米YahooとAOLは現在Verizon傘下で、マイクロソフトのアドサーバー部門のAtlas(アトラス)はFacebookにより買収された。だが、Atlasは市場に食い込むのに苦しんでいる。
Googleのアドサーバーにおける優位性は、パブリッシャーの在庫がGoogleのエコシステム内で取引される可能性が極めて高いことを意味する。マクドナルド氏は、実際には媒体社が在庫をどう扱うかの選択権をもっていない状況だ、と指摘する。その解決策として昨年から米媒体社と独立系ベンダーによりチャレンジされているのが、ヘッダー入札だ。
ヘッダー入札 VS Google
ヘッダー入札は在庫がGoogleのエコシステム内に入る前に、取引を成立させる方法で、米媒体社はGoogleの価格決定権にプレッシャーをかける方策としてこれを採用している。
これに対し、Googleはヘッダー入札がページ読み込み時間を引き伸ばしうると批判し、入札プロセスを独立系ベンダーに開放すると「宣言」した。しかし、マクドナルド氏はこの「宣言」に懐疑的だ。「Googleはそう『宣言』しただけだ。プロプライエタリー(独占的)な仕組みを築いているプレイヤーが、そこを自ら開放するとは考えがたい」と語った。
パブマティック・プレジデント、カーク・マクドナルド氏(左)、アジア太平洋担当バイスプレジデントのジェーソン・バーンズ氏
マクドナルド氏は同社「SEVEN」の主要ソリューションである「ユニファイドサーバー」などにより、ヘッダー入札や複数のヘッダー入札の管理を統合するサービスを活用できると話した。「ユニファイドサーバーは『独立』したアドサーバーだ」と語った。ヘッダー入札は米国では盛り上がっているが、現状日本の市場状況ではまだまだ先のソリューションといえる。
媒体社がどんなデータを保持すれば、価値が高まるか。マクドナルド氏は「ユーザーから『申告されたデータ』は価値が高い。日経IDのようにユーザーが自ら書き込んだ信頼性の高いユーザーデータは、在庫の付加価値を高める。Google、Facebookが強いのは彼らが豊富な『申告されたデータ』をもつためだ」と語った。
豪州に在庫価格上昇の先例
アジア太平洋担当バイスプレジデントのバーンズ氏は豪州ではリッチなデータを組み合わせることで、在庫価格が劇的に向上したと語った。豪州では広告効果の評価において、コンバージョン前のクリックだけを評価する「ラストクリックモデル」をとらなかったという。
アジア展開に関しては、中国市場はバイドゥ(百度)、アリババ、テンセントの寡占が厳しく参入の余地はないようだ。パブマティックはテンセントの中国外での広告在庫取引に関するパートナーになっている。バーンズ氏は「パブマティック経営陣はインド系米国人。インド市場はまだ洗練されていないが、大きな未来があるとみている」と語った。
Written by 吉田拓史
Photo by Thinkstock