対面型イベントへの再開を控えるなか、パブリッシャーはバーチャルイベントを活用してサブスクリプション収入を増加させようとしている。たとえばワシントン・ポストやインフォメーションは、大物ゲストやジャーナリスト、購読者同士が互いに交流する機会を設けることで、有料読者にさらなる価値を提供できるとイベントに期待する。
対面型イベントの再開を控えるなか、パブリッシャーはバーチャルイベントを活用して、もうひとつの直接的な収入源、つまりサブスクリプション収入を増加させようとしている。
ワシントン・ポスト(The Washington Post)は2022年1月18日、印刷版とデジタル版の購読者だけを対象とした初のシリーズイベントを開始した。インフォメーション(The Information)もまた、2022年1月に購読者限定イベントをさらに追加し、法人購読者向けのプログラムも用意した。これらのイベントは、当面のあいだはバーチャルで行われる予定だ。大物ゲストやジャーナリストの話を聞き、購読者同士が互いに交流する機会を提供するイベントは、有料読者にさらなる価値を提供できると、両社の幹部は述べている。
購読者限定イベントは、「現在の購読者に価値を提供する絶好の機会であり、また新規購読者を引きつける成長の機会でもあり、さらにごく一部だが、お金を払って来てくれる参加者もいる」と、インフォメーションのブランドパートナーシップ担当バイスプレジデント、アン・マリノビッチ氏は話す。マリノビッチ氏は、別途参加費を払う人の数は明かさなかった。
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マリノビッチ氏は、購読者の総数に言及することを避けつつ、インフォメーションのアクティブユーザーは22万5000人だと述べた(インフォメーションの創設者で編集長のジェシカ・レッシン氏は2021年、米DIGIDAYに対して「数万人」だと語っている)。ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)によると、ワシントン・ポストの購読者数はおよそ300万人だが、政治ニュース記事に対する読者の関心の低下により、その数は頭打ちになっていると言われている。両社とも、中核となる報道分野以外により多くのリソースを投入している。インフォメーションは昨年、クリエイターエコノミーに関するバーティカルをローンチし、ワシントン・ポストは昨年8月に「ネクスト・ジェネレーション(Next Generation)」を創刊するなど、若い読者を引きつける編集方針を打ち出している。
ワシントン・ポストは購読者向けの「特別」プログラムの構築
ワシントン・ポストの新シリーズは、ニュースの重要人物へのインタビュー、書籍著者との対談、ワシントン・ポスト最大のプロジェクトに携わるジャーナリストとのディスカッションなどを予定している。さらに、購読者向けに最低でも月1回、バーチャルイベントを開催する予定だ。ワシントン・ポストの最高コミュニケーション責任者でワシントン・ポスト・ライブ(Washington Post Live)のゼネラルマネージャー、クリス・コラッティ・ケリー氏は、「この特集がすでに盛り上がりを見せていることから、さらに増やす可能性がある」と述べる。
購読者は、イベントに登場する人物に質問をすることが可能だ。書籍の著者イベントには、先着200名にその著書を無料で提供する。また、購読者は、プログラム終了後に配信される動画を視聴できる。このイベントシリーズは、購読者以外でも自由に参加できるイベントとは異なり、読者の質問に答える時間を増やすため、Q&Aコーナーを数問から15分以上にまで拡大した。質問はいまのところ事前に提出されているが、いずれワシントン・ポストはその機能を「オーディエンスとのより深いつながりを作るために、よりリアルタイムのインタラクションにする」とケリー氏は述べている。
シリーズ第1回目は、元ワシントン・ポストの記者で調査報道記者のカール・バーンスタイン氏とワシントン・ポストの全米調査報道記者のキャロル・レオンニグ氏が登場。このイベントには2万1000人以上が登録した。
昨年、ワシントン・ポスト・ライブは430以上のイベントプログラムを制作したが、そのすべてがバーチャルだった。2021年、ワシントン・ポストは制作したプログラムやイベントの数、入ってくるスポンサー収入を前年比で倍増させた。収益に関する具体的な数字は共有していない。「プラットフォームの大きな成長と人気を考えると、2022年は購読者のために何か特別なものを提供するのに適切な時期だと思える」とケリー氏は語る。
オーディエンスデベロップメント・エージェンシー、トウェンティ・ファースト・デジタル(Twenty-First Digital)の創設者で最高経営責任者(CEO)のメリッサ・チョーニング氏によれば、購読者限定イベントは「強力な」リテンション・顧客獲得ツールになるという。「このような戦略でもっとも魅力的な要素は、これらのイベントの背後にある独占的な感覚だと思う」と同氏は話し、特定のトピックやイベントに対する関心(または関心のなさ)など、パブリッシャーがオーディエンスから集めることができるデータは、「メディア組織がオーディエンスをより良く理解するのに役立つ」とチョーニング氏は語った。
ジャーナリストとの接点を増やすインフォメーション
ビジネスとテクノロジーをメインにしたこのサイトでは1月から、グループ・サブスクリプションとも呼ばれる法人購読パッケージを購入した人たちだけを対象に、四半期ごとにイベントを開催することになった。法人購読は、購読者ひとりあたり349ドル(約4万円)で(最低10人から)申し込める。これらのイベントは、「インフォメーションにより多くのコミットメントを行っている」企業に、そのジャーナリストへのアクセスを提供するものだと、マリノビッチ氏はいう。
1月25日に開催される1回目のイベントは、「2022 Tech Outlook: What’s Next?(2022年のテクノロジー展望:次は何が出てくる?)」だ。これは、メタバース、フィンテック、プラットフォームといったテーマを担当するインフォメーションの記者たちが、次の大きなトレンドや注目すべき企業についての予測を共有するものだ、とマリノビッチは話している。このイベントは、「外部から招いた業界の大物スピーカー」ではなく、「我々の編集部からのインサイト」に焦点を当てる、とマリノビッチ氏は補足する。
インフォメーションが主催するイベントの約4分の3は、参加者が購読者に限定されている。残りの25%は、チケット購入が必要なものと無料で参加できるものに分かれている、とマリノビッチ氏はいう。昨年は約30のイベントを開催した。マリノビッチ氏は、2021年のイベントのスポンサー収入は「2020年の3倍だった」と語ったが、正確な数字については言及を避けた。
購読者限定イベントは、パブリッシャーの購読者ベースやブランド周辺のコミュニティ構築にもつながる、とチョーニング氏は語る。「ユーザーは、たとえそれがバーチャルなイベントであっても、同じ考えを持つほかのユーザーとつながりたいと思うことがよくある。ここでもコミュニティの感覚が確立されている」。
[原文:Publishers use subscriber-only events to sweeten subscription pitches]
SARA GUAGLIONE(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:小玉明依)