米国では、マクロ経済の不安定化と記録的なインフレにもかかわらず、パブリッシャーの多くが、7月12日と13日に開催されたAmazonプライムデーの期間中、過去最高の売上を記録した。パブリッシャー各社のコマース部門長によれば、好成績の理由はふたつあるという。
米国では、マクロ経済の不安定化と記録的なインフレにもかかわらず、パブリッシャーの多くが、7月12日と13日に開催されたAmazonプライムデー(Amazon Prime Day:以下、プライムデー)の期間中、過去最高の売上を記録した。
ハースト(Hearst)、リーフ・グループ(Leaf Group)、フューチャー(Future plc)、USAトゥデイ(USA Today)傘下のレビュード(Reviewed)、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)傘下のワイヤーカッター(Wirecutter)といったパブリッシャーのコマース部門長によれば、好成績の理由はふたつあるという。第一に、物価が徐々に上昇するなか、節約志向の消費者がセールに飛びついたこと。第二に、パブリッシャーがプライムデー向けに策定したコンテンツ戦略とデータのインサイトが的確だったことだ。
プライムデーに参加するパブリッシャーは、自社サイト内に設置したリンクや広告を経由してAmazon掲載商品が売れた場合、売上に応じて手数料が入る成果報酬型の「アフィリエイトマーケティング」モデルで収益を上げている。手数料率は商品カテゴリーにより異なるが、本稿執筆にあたって米DIGIDAYが取材したパブリッシャー各社は、具体的な料率を開示していない。
Advertisement
「我々が対象とするオーディエンスはお買い得なセールを好み、Amazonでのショッピングを楽しむ人たちだ。経済環境にかかわりなく、彼らの購買意欲は衰えるどころか、むしろ高まっている」と語るのは、リーフ・グループが運営するハンカー(Hunker)でシニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーを務めるイヴ・エプスタイン氏だ。「インフレが進行中だからこそ、消費者はセールに敏感になっているのだろう」。
プライムデー期間中の手数料売上、好調
- プライムデー期間中のハーストの総売上は、前年比87%の伸びを示した。
- リーフ・グループ傘下のパブリッシャーでは、プライムデー期間中の売上がリビング・生活情報サイトのハンカーで前年比130%増、健康・生活情報サイトのウェル+グッド(Well+Good)で120%増、健康・ウェルネスサイトのリブストロング(Livestrong)で222%増を記録した。「これらのサイトでは、2021年の実績値が低ければ低いほど、2022年の増加率が高くなっている」とエプスタイン氏はいう。
- フューチャーのパブリッシャー部門の場合、プライムデー期間中の米国内売上高は2640万ドル(約34億3200万円)だった(前年比の数値は非開示)。同期間中、フューチャーが運営するサイト経由で購入された商品点数は34万7000に上ったという。2021年との比較でとくに伸びた商品カテゴリーはKindle端末および関連アクセサリーで104%増、次いでキッチン・食料品が96.4%増。テレビ・ホームエンターテインメント部門は490万ドル(約6億3700万円)、携帯端末、カメラ、アクセサリー部門が460万ドル(約5億9800万円)の手数料売上を記録した。
- レビュードとワイヤーカッターはプライムデー期間中の売上関連データを開示しなかったが、8月に発表される両社の収支報告には当該のデータも含まれるとみられる。
- レビュードのゼネラルマネージャー、クリス・ロイド氏によれば、同社は2022年のプライムデーにおいて小売部門の総売上で「過去最高の実績」を残したという。ただし、前年比増加率(%)は1桁台にとどまった。一方、ファッション部門では「顕著な売上の伸び」を示し、前年比で40%増加した。
- ワイヤーカッターの編集長、ベン・フラミン氏によると、同社はプライムデー開催中に「過去最多の購読者にリーチし、サービスを提供した」という。
売上増を牽引するのはインフレ?
プライムデー期間中、パブリッシャーのサイト経由の販売を後押ししたのは人気のApple製品や最新ガジェットが中心だが、2022年は2021年と異なる商品・サービスの購入傾向がみられ、ストリーミングサービスのサブスクリプション契約や、トイレットペーパー、スナック詰め合わせといった生活用品なども目立った。
「2年以上続いたコロナ禍のあと、生活費やガソリン価格の高騰などにより、商品ミックスに多少の変化があるだろうと我々は見ていたが、その予想がみごとに当たった」とレビュードのロイド氏は語る。「セールを利用するにあたって消費者は、いまは大型家電などで散財するより、日々の生活に必要なものは何かという観点から商品を選んで購入するようになった」。
インフレの加速と不況到来の可能性がささやかれるなか、消費者は「これまで以上にお買い得品を求めている」と、ワイヤーカッターのフルミン氏は述べている。「消費者はしっかりした金銭感覚をもっている。自分の金をどこに使うかに関して、ますます賢く、思慮深くなっていると思う」。
各社のコンテンツ配信
USAトゥデイが運営する商品レコメンデーションサイトのレビュードは2022年、プライムデー関連の記事掲載本数が2021年より少なかったにもかかわらず、売上が増加した。レビュードのサイトではここ数年、プライムデーの前後合わせて4、5日間で600~800本のコンテンツを公開してきたが、2022年の掲載コンテンツは8日間で200~300本にとどまった。
ロイド氏によるとレビュードは、「割引率の大きい注目カテゴリーについては、単発コンテンツを数多く掲載するのでなく、長めで質の高いコンテンツに絞り、それを何度も更新した」という。「量より質を重んじた結果、反応率もエンゲージメントも高くなった」。
ハーストでは2022年、プライムデー関連のコンテンツ公開日を「例年より前倒しした」と、コマース部門バイスプレジデントのエミリー・シルバーマン氏はいう。「当社サイトの読者が何に関心があるか、どんな商品カテゴリーに魅力を感じ、注目しているかを早めに把握するためだ」。同社が当該コンテンツを配信しはじめたのは6月で、これまでに比べ数週間早かった。「予定の前倒しにより、担当チームはプライムデーの2日間、効果の高いコンテンツの運用に集中して取り組めた。例年と違い、時間の余裕ができて助かった」。
それとは対照的にフューチャーは、売上好調の理由について、プライムデー関連のコンテンツを掲載したフューチャー傘下のサイトが増えたためとしている。同社のeコマース部門長、サイモン・ロール氏によると、たとえばSpace.comでは望遠鏡、VRヘッドセット、宇宙をテーマとするレゴセットなどのお買い得情報を掲載したところ、6500件を超える小売取引をもたらす成果をあげたが、これは2021年同時期の取引数の2倍以上の実績だという。
コマース以上のメリットも
Amazonプライムデーは、パブリッシャーのコマース事業にとってメリットが大きい。アフィリエイト報酬が入るだけでなく、商品の販売を通じて収集されたデータは、今後のアフィリエイトマーケティング用コンテンツの参考になる。
「我々はプライムデーのような大規模小売イベントに参加して、商品購入につながる検索用語は何か、どんなコンテンツがオーディエンスの反応をよく引き出すか、といったデータを入手する。そのデータを、次の大規模イベント、たとえばブラックフライデーのセールに向けて策定するコンテンツ戦略やSEO(検索エンジン最適化)の手法に活かしていく」とロール氏はいう。
ハンカーのエプスタイン氏は同社のプライムデーへの参加について、「コマース戦略であると同時に、オーディエンス開拓戦略でもある」と述べている。
[原文:Publishers see record Amazon Prime Day sales]
Sara Guaglione(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)