Googleは1月なかば、ChromeブラウザでのサードパーティCookieの利用を禁じる方針を明らかにした。しかし、パブリッシャーは広告業界全体でサードパーティCookieが段階的廃止に向かう動きを察知して、代替手段を導入し、サードパーティCookieへの依存度を下げる取り組みをここ数年行ってきた。
サードパーティCookieの終焉に備え、パブリッシャーたちはユーザーを特定してターゲット広告を表示する別の方法を検討している。
Googleは1月なかば、ChromeブラウザでのサードパーティCookieの利用を禁じる方針を明らかにした。全米広告主協会(Association of National Advertisers)や全米広告業協会 (American Association of Advertising Agencies:4As)などの業界団体は、事前通告なしのこの決定に反発している。Googleが決定に際して意見を聞いたウェブ標準化団体のワールドワイドウェブ・コンソーシアム(World Wide Web Consortium:W3C)の構成において、パブリッシャーやマーケターは少数派だ。しかし、パブリッシャーは実のところ、広告業界全体でサードパーティCookieが段階的廃止に向かう動きを察知して、代替手段を導入し、サードパーティCookieへの依存度を下げる取り組みをここ数年行ってきた。昨年12月、英国のパブリッシャー10数社はインタラクティブ広告協議会(Interactive Advertising Bureau:IAB)のテックラボと会合を行い、広告ターゲティングとオープンマーケットプレースでのリアルタイム入札において予想される影響について対策を検討した。
パーミューティブの試行錯誤
データ管理プラットフォームプロバイダーのパーミューティブ(Permutive)が現在テストしている方法は、コンテクストを利用してさまざまなオーディエンスセグメントをオープンマーケットプレイス上でマッピングするというものだ。セグメントへの区分はパブリッシャーのファーストパーティデータを利用して行われる。この原理は、Googleが提唱するコホートの連合学習(Federated Learning og Cohorts:FLoC)に似ていて、共通点のあるユーザーグループの閲覧習慣を機械学習によって抽出するものだ(FLoCは、サードパーティCookieなき世界で広告ターゲティングに対処するためにGoogleが用意したプライバシーサンドボックス[Privacy Sandbox]のツールのひとつだ。プライバシーサンドボックスには、Cookie後の世界で効果測定や広告不正防止のために利用できるその他のツールも用意されている)。
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出版・広告業界は、オーディエンスセグメントの名称を共通の分類基準に従って決めなくてはならないが、これにはIABデータ透明性ラベル(パブリッシャー、ベンダー、広告主がデータの質を可視化する際に利用できる標準ラベリング制度)などが参考になるだろう。
今後数カ月間で、IABテックラボの作業部会が提案に関する疑問をまとめ、テストキャンペーンを展開して、オーディエンスを共有するこの手法の効果測定を行う予定だ。業界標準を確立するのが目標だと、パーミューティブのマーケティングディレクター、アミット・コテチャ氏はいう。同氏によれば、有効な基準をつくるには、DSP(デマンドサイドプラットフォーム)とSSP(サプライサイドプラットフォーム)の両方が参加することが不可欠だ。
コンテクストマッピングによって業界標準を確立する方法のメリットのひとつは、Googleのテクノロジーの代わりの選択肢になることだ。Googleは、広告業界とパブリッシャーにデータのインプットを求めている。一方、業界はGoogleが未来のデジタル広告のあるべき姿を定める究極の権威になることに懸念を抱いている。
競合しているのはプラットフォーム
「全体として(Googleのプライバシーサンドボックスは)理にかなったものと受け止められている」と、ニュースUK(News UK)でオーディエンス・データ・コマーシャル担当責任者を務めるベディル・アイデミール氏はいう。「しかし、毎度のことながら、業界がGoogleの生み出すソリューションに頼りきりになると、彼らが広告エコシステムの核心を支配し、自在に操れるようになってしまうことが危惧される」。
これまでパブリッシャーは、大事なファーストパーティデータを共有しようものなら、ライバルに出し抜かれるのではと警戒していた。しかし、オゾンプロジェクト(The Ozone Project)などのパブリッシャーデータアライアンスが組織されたことで、競合への懸念は薄れていると、パブリッシャーのスタイリスト(Stylist)でデジタルオペレーション担当責任者を務めるデビッド・ヘイター氏はいう。同氏は先述の昨年12月に行われたIABテックラボのイベントにも参加した。
「パブリッシャー同士は信念をめぐって衝突はしても、マクロレベルでは互いと競合するのではなく、業界全体としてプラットフォームと競合している」と、ヘイター氏はいう。
しかしながら、パーミューティブの方法の詳細はまだ明らかになっていない。ヘイター氏によれば、パブリッシャーのファーストパーティデータのどの部分が他社にも閲覧可能になるのかは依然として不明瞭だ。「この方法を導入することで、自分たちのデータの価値を下げることになるかどうかを見極める必要がある」と、同氏はいう。「収益とフィルレートの上昇が見られたら最高だ」。
ファーストパーティデータを強化
Vox Mediaやワシントン・ポスト(The Washington Post)など、自社のファーストパーティデータ戦略を柔軟に練り直し、サードパーティCookieやその他の中間業者への依存度を下げるパブリッシャーはますます増えている。
「我々はサードパーティデータの利用を2年前にやめた。かつて利用していたデータはきわめて不正確だった」と、ヘイター氏はいう。「ファーストパーティデータに集中した方がずっと効果が見込めるとわかった」
新たなパーソナライズ手法は、「広告主とパブリッシャーを再び結束させ、オーディエンスを買う唯一の手段がパブリッシャーによるものでなくてはならない」と、コテチャ氏はいう。「ファーストパーティデータが新たな通貨となり、広告主は多くのパブリッシャーのなかのどこで大規模に広告を購入できるかを判断する」。
Vox Mediaの最高売上責任者、ライアン・ポーリー氏によれば、サードパーティデータ業者はパブリッシャーと広告主のあいだに入り込むことで、190億ドル(約2兆744億円)規模の産業を築きあげた。広告業界のこのセクションから、パブリッシャーが利益を得ることはない。
コンテクストマッピングの欠点
コンテクストマッピングの手法の開発には、すべての参加企業に標準を採用させるのが困難であるという欠点がある。原理からいって技術面では大きな課題はないものの、DSPプロバイダーがこうした入札形式を受け入れないかぎり効果は得られないだろうと、パブリッシャーとベンダーの関係者はいう。
「あと2年かそこらでサードパーティデータが姿を消すと知れば、(DSPプロバイダーは)代替手段を探しはじめるだろう」と、雑誌パブリッシャーのTIメディア(TI Media)でデータおよびインサイト担当責任者を務めるアドリアナ・テイラー氏はいう。「サードパーティデータ業者はDSPにかなりの売上をもたらしてきた。新たな枠組みがDSPにとって旨味があるものかどうかは定かではない」と、同氏は述べた。
Lucinda Southern(原文 / 訳:ガリレオ)