ふたつの音声プラットフォームが台頭し、にわかにパブリッシャーは悩みはじめている。AmazonアレクサとGoogleアシスタントは一見よく似ているが、業界の観測筋は、大手媒体社や一流ブランドが両者を区別して扱うと予想。少なからぬパブリッシャーが、AmazonではなくGoogleを選んでいるのだ。
ふたつの音声プラットフォームが台頭し、にわかにパブリッシャーは悩みはじめている。
パブリッシャーらは、その規模の大小を問わず、Amazonの音声アシスタントであるアレクサ(Alexa)に、日々の時間とリソースをどう振り分けるべきか、まだ考えあぐねている。だが、今後そこに時間を割かなければならないだろうことは、誰の目にも明らかだ。
Googleが手がける音声プラットフォームのGoogleアシスタント(Google Assistant)は、Googleホーム(Google Home)はもちろん、新型スマートフォンのピクセル(Pixel)でも動作する。同プラットフォームは難なく、パブリッシャーに対し、Googleアシスタント向けのボットも作るべきだと認識させた。立ち上げてからほんの数週間のうちに、ハースト(Hearst)やハフィントン・ポスト(The Huffington Post)を呼び込んだのだ。さらに、ベンチャービート(VentureBeat)やジニアス(Genius)など、少なからぬパブリッシャーが、音声の領域に第一歩を踏み出すパートナーとして、AmazonではなくGoogleを選んでいる。
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アレクサとGoogleアシスタントは一見よく似ているが、業界の観測筋は、大手パブリッシャーや一流ブランドが、このふたつを区別して扱うと予想。「一流の開発企業は、各プラットフォーム向けにネイティブなものを作るだろう」と、ボイスラボ(VoiceLabs)の共同創設者であるアダム・マーチック氏は語る。ボイスラボは、音声プラットフォームの音声データを分析し、開発企業に提供している。「そうでなければ、没個性的なものを作ることになるが、それでは意味がない」。
両者の大きな違い
アレクサとGoogleアシスタントは、似ている点も多いが、実は大きな違いがある。Googleは2016年11月、サードパーティーのブランドやパブリッシャーが開発した「アクション」を30種類以上発表した。一方、Amazonのアレクサには、Googleのアクションに相当する「スキル」が、最後に数えた時点で5000以上ある。
プラットフォームが動作する環境の問題もある。アレクサはいまのところ、家庭向けデバイスのエコー(Echo)とオフィス向けデバイスのエコー・ドット(Echo Dot)上でしか利用できない。これに対し、Googleアシスタントは、Google ホームとピクセル、そしてGoogleの新メッセージングアプリであるアロ(Allo)でも使えるが、それにとどまらない。今後登場するAndroid OSの各バージョンや、車載OSとなるAndroid Autoでも利用できる可能性がある。
Googleのプラットフォームは、さまざまなデバイスに広がることにより、一気に普及する可能性がある。というのも、先述のデバイスのうち少なくともひとつは、ヒット商品になると見られるからだ。モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)のアナリストらによる予測では、ピクセルは2016年の最後の3カ月で300万台販売され、2017年もさらに200万~300万台売れるという。予測通りになれば、総利用者数の点で、ピクセルは一気にアレクサと肩を並べるまでになるはずだ。アレクサは、2016年末までに約400万台が売れると予想されている。
大差ないという見方も
こうした違いにもかかわらず、両プラットフォームに大差はないとみなすパブリッシャーも存在する。ボイスラボのマーチック氏は、多くのアクションとスキルが非常によく似たコードから作られている点を指摘。リーチの範囲をできる限り広げたいパブリッシャーにとって、両者は別々だが同様だとみなすメリットがあるのだ。
「両プラットフォームがかなり大勢のオーディエンスにリーチできる点を考慮して、我々は製品開発を拡張する体制を強化している」と、ハーストのコーポレートテクノロジーグループに在籍するクリス・パパレオ氏は明かす。
「一度アレクサ向けに開発し、Googleアシスタント向けに再び開発することは、必ずしも二度手間ではない」。
文脈に合うことが大事
だが、ほかのパブリッシャーたちは、プラットフォームがふたつあると、研究開発を担う体制も倍になると考えている。実際、ハフィントン・ポストは、アレクサでニュース解説を、Googleアシスタントでニュースにからめたクイズゲームをそれぞれ提供している。ただし、同メディアでプロダクト部門を率いるジュリア・バイザー氏にとっては、一方で学習したことはもう一方への移植が可能だ。
「我々はごく最近、消費者がこうしたデバイスでどのようにニュースを入手しているかを学ぶ段階に入ったばかりだ」と、バイザー氏は語る。「今後は、このプロジェクトから得た教訓を生かし、2017年には音声とAIを活用する取り組み全般を進化させるつもりだ」。
シンプルな事実は、消費者もパブリッシャーも同じように、音声アシスタントの最良の活用方法を見つけたがっているということ。そして、この事実が動機となり、誰もができる限りさまざまなことを試みている。「パブリッシャーにとって最良のプラットフォームは、消費者によって決まるだろう。コンテクスト(文脈)にうまく合うことが何より重要だ」と、ボット開発企業ガプシャップ(Gupshup)のCEOを務めるビールド・シェス氏は語った。
Max Willens(原文 / 訳:ガリレオ)