[ DIGIDAY+ 限定記事 ]ここ数年、社内コンテンツスタジオを拡大しているパブリッシャーたちの、競争は激化した。そのため、獲得率(Win Rates)や継続率(Renewal Rates)が圧迫されており、ブランデッドコンテンツの売り込みプロセスも改善が必要となっている。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]ここ数年、社内コンテンツスタジオを拡大しているパブリッシャーは、経済的な採算確保を維持するために、自社内の作業プロセスを改善し、収益を向上させる必要があった。しかし、ほかの問題点も浮上している。競争が激化したために獲得率(Win Rates)や継続率(Renewal Rates)が圧迫されており、ブランデッドコンテンツの売り込みプロセスも改善が必要となっているのだ。
パブリッシャーの幹部は、エージェンシーが、提案依頼書(ブリーフ)をたくさん送ってきて、そこからアイデアを探り、パブリッシャーとの関係を断って自社クライアントに売り込みをかけるというのは、この業界にはつきものだという。そういった提案依頼書を見抜き、賢明に時間配分して効率化することは、継続的に取り組むべき問題だ。その一方で、パブリッシャー筋によると、自社のアイデアを他社によって実行されたパブリッシャーも増加しているということだ。
「バカげた提案依頼書」(あるパブリッシャー幹部がこのように表現した)における注目すべき兆候は、異常に高い予算だ。イギリスでは、100万ユーロ(約1.2億円)の提案依頼書が疑惑を生んだ。また、そういうものは準備期間が通常よりもタイトであることが多く、オリジナルのアイデア1本につき3日以下で用意しなくてはならないこともある。
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メディア理解の有無を優先
「こういった提案依頼書を数多く受け取ることが確かに多い。これが疑わしい」と、イギリスのBuzzFeedでコンテンツ部門の統括者を務めるジェームズ・レイモン氏は述べた。同社は、このような提案依頼書を大体ひと月に2回ほど受け取るという。しかし、BuzzFeedから売り込みのアイデアが盗まれて実行に移されたことは、いまのところないと、彼は付け加えた。提案の要求に対しては、1ページ程度の回答で十分だと、彼はさらに付け加えた。
パブリッシャーのオーディエンスに正確に適合しない提案依頼書も注意が必要だ。対象とするオーディエンスが限られるメディア企業ならこういった提案依頼書を除外しやすい。
「このような提案依頼書に疑いを持つことが、まさに重要だ。スタイリスト(Stylist)に注力しはじめてから、我々にとって、こうした作業はより簡単になった。自社がどのような会社であるかをより明確化し、先方に自社が本当に最適な企業であるかを問うことができる」と、スタイリストでマネージング・ディレクターを務めるオーウェン・ワイアット氏は言う。女性に焦点を当てたパブリッシャーであるスタイリストは、自社にとってかなり高い獲得率が望めるプロジェクトにリソースを集中するために、5万ユーロ(約650万円)から10万ユーロ(約1290万円)の範囲に収まる提案依頼書を優先する。スタイリストが1週間に受け取る提案依頼書約10件のうち2件は、投機的で実際の予算を度外視したものであると、彼は付け加えた。
「我々は、効果的なコンテンツマーケティングへの投資を促進したいと考えている」と、ワイアット氏は付け加える。「我々は常に積極的なアイデアに取り組んでおり、予算を活性化するための提案依頼書には喜んで回答を提出する。だが、それは我々が適切なパートナーであることがわかっている場合に限られる。こういった投資は、常にあとで報われるからだ」。
別のパブリッシャーのコンテンツスタジオは、勝ち取れる可能性が高く、状況に応じてリソースを配分できる提案依頼書に対して、3階層のシステムを用意している。テンプレートの利用や1ページにまとめた回答は、時間を節約するうえで簡単な方法だ。最終的に採用されなかったアイデアは、のちに利用することが可能だ。
提携して提案を多角化
こういった状況でも、自社の仕事を他社が行った場合にこれを見抜くパブリッシャーは、「確実に増えている」と、ブランデッドコンテンツ向けのアドテク企業、ポーラー(Polar)でCEOを務めるクナル・グプタ氏は言う。「パブリッシャーのブランデッドコンテンツスタジオは、タダでアイデアが生まれるところだと見られている」と、彼は言う。「アイデアは、制作以上に貴重になっている。誰でもコンテンツを生み出せるため、制作は、コモディティ化している」。
ポーラーの調査によると、ブランデッドコンテンツから生まれる収益は増加しているが、これまでほどの速度ではないという。ブランドやメディアエージェンシー、インフルエンサーはみな、ブランデッドコンテンツ向けの予算を得ようと競争している。ポーラーの調査に協力したパブリッシャーによると、獲得率は3年前の40%~約20%まで下がったらしいと、グプタ氏は付け加えた。継続率も20%~40%までのあいだで下がった。こういったことが起こった結果、利益が圧迫され、ブランデッドコンテンツスタジオが簡単に火の車となってしまう可能性がある。
コンテンツをカスタマイズするプロジェクトは、通常、ディスプレイ広告よりも複雑で、より多くの費用を要し、より多くの人員が必要だ。エージェンシーはこのような状況下で生き残ってきた。エージェンシーのモデルは、さまざまな面で圧迫を受けてきた。それでも危機を乗り越えてこられたのは、印刷広告の販売は激減したものの、その結果としてコンテンツから得られる収益が多様化することとなったからだ。
「ブランデッドコンテンツは、働き者というより怠け者になった」と、グプタ氏は言う。「ディスプレイ広告は働き者だ。きちんと仕事をする。怠け者は、賞を取ることもあるかもしれないが、もっと努力や集中力を身につける必要がある」。残念ながら、怠け者はあまり応用が利かない。
提案依頼書(RFP)を作成してほかのメディアオーナーと協力すれば、パブリッシャーは提案を獲得する可能性が高まる。実際に、ガーディアン・ラボ(The Guardian Labs)が、音声配信社グローバルラジオ(Global Radio)と提携して提案に取り組んでいる。
「このように協力すれば、提案のリスクを低減することができ、クライアントは契約を締結しやすくなる」と、ガーディアン・ラボで販売および戦略担当のディレクターを務めるアダム・フォーリー氏は言う。
大きな勝利を狙わない
しかし、準備期間のタイトさによって、提携がうまくいく可能性が制限されるという、しばしば批判の的となる別の問題も残っている。「大きな予算とタイトな準備期間の提案依頼に対しては、クライアントは、『ほかのメディアオーナーと提携できると良いだろう』と提案する」と、レイモン氏は言う。「しかし、3日以内にどのようにしてほかのメディア主を見つけられるだろうか? 成功するはずがない。そういったことが相変わらず要求され続けているというのは、皮肉なことだ」。
パブリッシャーは、より少量にして大口のブランデッドコンテンツキャンペーンを好む傾向にある。しかし、ここ数年、ブランデッドコンテンツ収益を増やしてきているガーディアン・ラボは、少数の大きな稼ぎ頭となる案件の獲得ではなく、小口取引を大量に獲得することによって、収益を増やしてきた。これらには、固有のプロジェクト管理の問題があり、大量生産に見合う労力が必要となり得る。
「重要なオーディエンスからの評価を徐々に高めてくれる小口取引をうまく管理することには意義がある」と、フォーリー氏は言う。「クライアントに対して、自分たちはこんなことができるとアピールする良い機会だ。2度、3度とアピールしていくと、特定のクライアントあるいはエージェンシーの心の内に何かが起こるということを、我々はしばしば目にしてきた」。
提案を勝ち取る可能性を高める別の要因として挙げられるのは、提案依頼書がどこから来ているかを知ることだ。エージェンシーに対応するセールスチームを持つよりも、広告主に直接対応するクライアント向けのチームを持っているパブリッシャーの方が、マーケターと定期的に将来を見越した会話ができる。
長期のリレーションを優先
もちろん、常に提案が採用されてキャンペーンになるとは限らない。パブリッシャー幹部筋によると、自分たちが承認した30%~40%の提案依頼書が、まったく日の目を見ないこともあるということだ。幹部がいないときに予算の変更や土壇場での方向性の変更、承認遅れにより提案依頼書が変更された場合はそういうことがよくある。そして、最終的にタイトな準備期間とともに取り残されるのが、パブリッシャーだ。「とても嫌な感じのする」提案依頼書を長期的な提携のために破棄したいと考えているパブリッシャーは増えている。
「提案依頼書は、あらゆる人にすぐに知ってもらうには、効果的な方法だ」と、レイモン氏は言う。「さまざまな販路の管理に関する問題に答えが出る。しかし、提案依頼書は、真の意味でコンサルタンシー・スタイルの働きかけ方には劣る」。
Lucinda Southern(原文 / 訳:Conyac)