FUTURE OF WORK

オフィスの再開、米・パブリッシャーたちの見通しとは?: 「何よりも大切なのは柔軟な体制だ」

米メディア企業の多くはこの1年、出社勤務の再開をもくろみながら先延ばしにしてきた。今もなお、オフィスに人を戻せる見通しは立っていない。

コロナ禍で先が見えない状況下、メディア企業の経営幹部4人に自社の勤務体制方針について話を聞いたところ、各社とも今年中に一部の社員の出社を許可する意向だと答えた。ただし辛抱強く慎重な対応を重視し、社員によって異なるニーズと安心のレベルに配慮した柔軟な勤務体制が必要だとしている。

B2Bのデジタルメディア事業で成長してきたインダストリー・ダイブ(Industry Dive)はワシントンD.C.の本社が手狭になったため、2020年12月に数ブロック西へ移転した。とはいえCOOのメグ・ハーグリーブス氏は、すぐにスタッフ全員を出社させる予定はないと述べている。同社の従業員は250名で、うち約20%がコロナ禍以前から在宅勤務だった。しかし、もともとオフィス勤務のスタッフが安心して戻れる状況になっても、出社を義務づけることはないという。

「何よりも大切なのは柔軟な体制だ」と、ハーグリーブス氏は強調する。「我々としては全員を出社させなければならない理由がない。混雑したオフィスでは皆が安心して働けないし、ビジネスの観点からもその必要はない」。

全社一斉の出社は設定しない

タイム(Time, Inc.)は全米各地でロックダウンが敷かれる5カ月前、ニューヨーク市内のビルへ本社を移転しており、2021年夏にはオフィス勤務を再開させると社員に通知した。しかし、人事最高責任者のスー・スー氏によれば、全社一斉の出社再開日は設定しない意向だ。

「出社勤務に関する当局の許可を待つだけでなく、オフィス内の毎日の人の流れを予測しながら、『実用的かつ現実的に』ソーシャルディスタンスを保てる職場環境を整備する必要があるからだ」と、スー氏はいう。

また、スー氏は「何がなんでも社員を出社させようと急ぐ必要はない。慎重すぎるぐらい慎重に進めるつもりだ」とつけ加えた。「一度にオフィス勤務に戻す社員はごく少数にとどめる。在宅勤務でも業務がこなせていることを考えれば、拙速な判断を下すより、ひとまず事態を静観するほうが賢明だろう」。

正しいやり方の確信がもてない

マサチューセッツ工科大学が所有するMITテクノロジーレビュー(MIT Technology Review、以下MIT)はまもなく賃貸オフィスの契約期間終了をむかえるが、それによりやっかいな状況に直面した。社員が間隔を空けて座れるようデスクを配置し、増員の余地も残しつつ、ハイブリッド勤務体制を維持するためのスペースを確保しなければならず、計算が複雑になるからだ。

「非常に難しい課題だ」と、CEO兼パブリッシャーのエリザベス・ブラムソン‐ブードロー氏はいう。「社員の安全と健康を守るために何が正しいやり方なのか確信がもてないまま、オフィス面積をはじき出さなければならない」。

ブラムソン‐ブードロー氏によると社員の本社復帰は早くても2021年の秋になる見通し。その場合でも新オフィスは、相当数の社員が週に2、3日在宅勤務する前提で、会議スペースをより広くとった設計で必要面積を計算しなくてはならない。レイアウトはいわゆるオープンプランで、従来型の半個室に区切る形はとらないが、当面の対策としてデスク上部にガラス製パーティションを設置することになるだろう。

全社員の10%まで出社人数を制限

一方、インダストリー・ダイブのハーグリーブス氏によれば、同社は新オフィスの仕切り板やウェブ会議向けスペースに投資し、出社とリモートワークを併用する勤務体制に合わせた設計にする予定だ。まずは限られた人数ながら、社員が必要に応じてオフィススペースを予約できるシステムを取り入れる計画だという。

その種のシステムをすでに導入しているのがハーバード・ビジネス・レビュー(Harvard Business Review、以下HBR)だ。オフィス勤務を解禁したが出社は各人の自己判断で、予約制を採用し、全社員の10%までに人数を制限している。とはいえ、実際の出社人数はそれよりはるかに少ないと、HBR編集長のアディ・イグナティウス氏はいう。広めのオフィス面積確保のスケジュールを左右する大きな要因としては、健康と安全への配慮に加え、社員の家族が通う学校の状況がある。

「学校が臨時休校中は親の負担が大きく、社員間の平等の問題が生じる」と、イグナティウス氏は指摘する。「子どもの有無によって会社の対応に差が出るのは避けたい。そのためオフィス勤務再開は様子見になる」。

それぞれのメリット・デメリット

職場環境が安全になったあとのオフィス勤務復帰の意向をHBR社員に訊いてみると、希望は人それぞれのようだ。なかには在宅勤務で働きやすい環境が整ったスタッフもいる。しかし対面で仕事をすることの利点について、イグナティウス氏はこう語っている。「出社勤務は企業文化の醸成という点でメリットがある。特に若い社員にとっては、復帰に向けたモチベーションになるだろう」。

「わが社では1年近く前に採用しながら、私自身一度も会ったことがない社員がいる。対面による交流は組織の一員として活躍したい若い社員にとって重要であり、それこそ、我々がオフィスを必要とする大きな理由だ」とイグナティウス氏はつけ加えた。

「バーチャル環境では、従来に比べて新入社員育成に時間がかかる」と、インダストリー・ライブのハーグリーブス氏はいう。一方、リモートワークの可能性は同社の人材採用に変化をもたらした。全米各地に住む応募者を公平な条件で選考できるからだ。もはや居住地がワシントンD.C.でもカンザスでも、採用の妨げになることはない。

「最近は、リモートワーク業務のメリットもだいぶわかってきた」と語るのは、MITのブラムソン‐ブードロー氏だ。「当社は今後も、地理的条件でなく、経験、専門分野、能力を選考基準に人材採用活動を続ける。将来的にはさらに円滑に進められるようになるだろう」。

「お互いが共感できるように」

『タイム』誌は創刊から98周年になるが、独立系企業としてのタイムの事業活動は3年目に入ったばかりだ。スー氏によると同社は「インフラの構築と企業文化の醸成を進めている最中」だという。リモートで業務を回してきたこの10カ月間は、コミュニケーションと、力を合わせて何かを作り上げることの大切さをあらためて感じる良い機会になったようだ。

「リモートワークはある種の平等をもたらした」と、スー氏は語る。「以前は、会議の出席者の大半が会議室にいて、一部の人が外部からコールインしていた。今では全員がリモート参加だから、遠隔地からの接続でどう感じるか身をもって知ったし、お互い共感できるようになった」。

[原文:Publishers look to allay employee fears over a return to the office by offering additional flexibility

GREG DOOL(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU