コロナ禍のおかげで、パブリッシャーのイベント企画は一様に延期、変更、あるいはバーチャル化を余儀なくされ、スポンサーとの契約も世界の現状に合わせて調整する必要に迫られた。当面、オンラインでのイベント開催は続くとしながらも、皆バーチャルと対面のハイブリッドモデルが実現できそうな、今年後半に狙いを定めている。
昨年、世界中の恒例イベントが軒並み中止に追い込まれた。2019年と2020年のイベント事業を比較せよというのは、パブリッシャーにとっては少々酷な話かもしれない。
コロナ禍のおかげで、パブリッシャーのイベント企画は一様に延期、変更、あるいはバーチャル化を余儀なくされ、スポンサーとの契約も世界の現状に合わせて調整する必要に迫られた。だが彼らは、2021年を迎えるにあたり、観客やスポンサーをバーチャルイベントに巻き込むための新しい戦略を用意した。当面、オンラインでのイベント開催は続くとしながらも、皆バーチャルと対面のハイブリッドモデルが実現できそうな、今年後半に狙いを定めている。
対面からバーチャルへの移行
「2020年の前半は、さながら核の冬だった。どんなイベントも例外なく」。G/Oメディア(G/O Media)のジム・スパンフェラー最高経営責任者(CEO)は、コロナ禍による従業員の一時解雇や経済不安を引き合いに、そう語った。
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そこで、パブリッシャーたちは各種のイベント企画を対面からバーチャルに移行させた。そしてバーチャルイベントがニューノーマル(新常態)として受け入れられ、次第に勢いをつけはじめた。
たとえば、G/Oメディアが運営する、ブラックニュースとブラックカルチャーにフォーカスしたオンラインメディア「ザ・ルート(The Root)」は、「ザ・ルート100(The Root 100)」と「ザ・ルート・インスティテュート(The Root Institute)」というふたつのイベントを主催している。2020年はこれらのイベントをオンラインで開催したが、スポンサー収入の前年比割れは起こらなかった。ちなみに、両イベントのスポンサーは、それぞれGoogleとターゲット(Target)が務めている。
明るい兆しの見える事例
それでも、イベント事業全般としては振るわない年となった。グループナイン(Group Nine)の場合、2020年に開催したイベントの数は前年よりも少なく、よってイベント事業による収入(大部分はスポンサー収入)も前年比減となった。最高収益責任者(CRO)のジェフ・シラー氏は、具体的な数字にこそ言及しなかったが、「イベントの数が減れば、それだけスポンサー契約の機会も減る」と述べている。同社のイベントの多くはエンターテインメント業界とのつながりが深く、シラー氏によると、「エンターテインメント業界は新型コロナウイルス感染症で痛手を負い、我々のイベント事業もその余波で大きく落ち込んだ」。
グループナインは、業界や世界が対面のイベントを安全に開催できるようになるまで、イベント事業の完全な回復は期待できないと見ている。同社の広報担当者は、「安全な環境が戻り次第、これまでの損失を取り戻し、再びこの分野でトップに立ちたい」と語った。
明るい兆しの見える事例もいくつか見られた。たとえば、米誌タイム(Time)が新しく立ち上げたバーチャルライブイベントの「タイム100トークス(Time 100 Talks)」。世界でもっとも影響力のある100人を選ぶ同誌の看板企画「タイム100(TIME100)」のスピンアウトで、異分野のリーダーたちが集まり、世界が抱えるさまざまな問題について議論するイベントだ。
タイムスタジオ(Time Studios)の責任者、イアン・オレフィーチェ氏は、「『トークス』は2020年の3月には存在していなかったが、いまでは屋台骨を支える企画のひとつだ。当面、やめる予定はない」と語っている。2020年のタイム100トークスのスポンサーには、P&G、ステートファーム(State Farm)、シティ(Citi)、シーメンス(Siemens)、DBSらが名を連ねた。さらに、タイムはABC、CBS、NBC、ニッケルオデオンなど、主要なテレビネットワークとの連携強化にも注力した。オレフィーチェ氏によると、同誌の顔とも言える「パーソン・オブ・ザ・イヤー(Person of the Year)」と「キッド・オブ・ザ・イヤー(Kid of the Year)」のテレビ放送は2021年に再開されるという。
「新しい事業の創造だった」
一方、フォーブス(Forbes)は、バーチャルイベントのおかげで、より多くの人々にリーチし、オーディエンスとの関わりを深めることができたと言っている。2020年の下半期に、フォーブスは66件のイベントを開催し、188カ国から延べ5万人を超える登録者を集めた。毎年恒例の「ウィメンズサミット(Women’s Summit)」は昨年、8回目を迎えた。例年の参加者数は最大500人だが、参加費無料のバーチャルイベントに方向転換した結果、昨年は2万3000人が参加登録した。
フォーブスのCROを務めるジェシカ・シブリー氏は「単なる方向転換ではなく、新しい事業の創造だった。そしてこの事業はこのまま定着するだろう」と述べている。
パンデミックが勃発した当初、バーチャルイベントには「非常にネガティブなイメージ」があった。そう指摘するのは、ブルームバーグライブ(Bloomberg Live)のグローバルヘッドを務めるパトリック・ギャリガン氏だ。最初のハードルは、スポンサーやパートナーに、当面は「辛抱強く」推移を見守り、バーチャルイベントという考え方を受け入れてほしいと求めることだった。
「オーディエンスは変わる。いま現在、つながるための意味ある手段として、バーチャルイベントを前向きに受け入れてくれた」と、ギャリガン氏は話す。
実際、いくつかのイベントを成功させると、ブルームバーグが2020年に企画したイベントは、すべて7月までに完売した。ギャリガン氏は、具体的な数字には言及しなかったが、「バーチャルイベントの売上は当初予測の2倍近くにのぼった」と明かした。
ありきたりのイベントでは駄目
2020年が深まるにつれて、能力、投資、リソースなどが改善され、オーディエンスとスポンサーの双方にとって、より良いイベント企画が提供できるようになったと、この記事の取材に応じたパブリッシャーたちは、そう口をそろえた。
「一般論として、どんなスポンサーも『ありきたりのオンラインイベント』には興味を示さない。そのため、この1年でオンラインイベントを成功させてきたメディアは、オンライン配信を想定したイベント企画の形式や肌感の練り直しに注力してきた」。そう語るのは、エクスペリエンシャルエージェンシー、ホークアイ(Hawkeye)のジョー・デミーロCEOだ。「もっとも成功している協賛イベントは、スポンサーのブランドをイベントのインタラクティブな部分に統合しているケースに多い」。
グループナインが採用したアプローチは、スポンサー企業にバーチャルイベントのメリットを積極的に訴えるというものだった。たとえば、オンラインであれば、予定の開催期間後も効果が持続する。コンテンツを複数の異なるプラットフォームで配信することもできる。
「スポンサー企業からは、『イベント会場から離れたところで、それをどう体験すればよいのか』という大きな問いを突きつけられた」とシラー氏は明かす。グループナインの答えは、イベントのコンテンツをソーシャルプラットフォームで配信し、拡散させるというものだった。インフルエンサーがイベントのコンテンツをフォロワーと共有し、ブランドのコンテンツを拡散させるのと似たような手法である。シラー氏はさらにこう語った。「我々がアーンドメディアを戦略の中心に据えるのもこのためだ。ブランドが享受する価値をさらに高めることができるだろう」。
「オーディエンスが求めるものを」
多くのパブリッシャーは、開催するイベントの数を絞り、協賛企業の多い看板企画に経営資源を集中しているようだ。たとえば、米誌アトランティック(The Atlantic)は、2021年に開催するイベントを約半数の20件程度まで絞り込むという。2020年のバーチャルイベントで、前年の観客動員数を5割も上回る、延べ450万回の閲覧数を獲得したにもかかわらずである。
「すべてをやろうとするよりも、我々のオーディエンスが一番必要としているテーマやコンテンツに集中して、常に彼らの求める体験を提供したい」。アトランティックライブのジェネラルマネジャーを務めるキャンディス・モンゴメリー氏はそう語った。
同氏によると、2021年の収益目標は、アトランティックの収入全体の15%をイベント事業で稼ぎ出すことだという。2020年以前は、イベント収入が全体の最大20%を占めていた。
「どの事業も世界を襲ったこの激しい変化の影響を受けたが、バーチャル事業は収益の柱のひとつになると期待している」。
バーチャルと対面のハイブリッド
ほとんどのパブリッシャーは、2020年の前半はバーチャル中心のイベント活動を展開していたが、このさきしばらくは、バーチャルと対面のハイブリッドがいわゆる新常態になるだろうと見ている。
「これまでの対面イベントと、これからの対面イベントは、まったくの別物になるだろう」と、G/Oメディアのスパンフェラー氏は予測する。「これからは常に、そのときその場で参加できるオーディエンスのほかに、バーチャルで参加する人や、動画その他のアプリケーションを通じて後日視聴する人にまで、拡大して考えることになる」。
この記事の取材を受けたパブリッシャーの大半が、2021年には有料イベントの開催も検討していると述べている。
ひとつの案として、スパンフェラー氏は、VIP待遇やネットワーキングの機会が得られる対面イベントは有料、オンラインで視聴する場合の参加登録は無料という仕分けを提案している。
ほかのパブリッシャーがこの動きに追随する可能性は大いにあるが、ロジスティクスの面では大幅な修正が必要となるだろう。
「必要なのは、無限の柔軟性だけ」
フォーブスライブ(ForbesLive)のシニアバイスプレジデントを務めるシェリー・フィリップ氏もこう語る。「対面のイベントは参加者を絞って開催し、会場まで足を運びたくない、または会社が出張費用を出してくれないという人のために、大規模なオーディエンスを想定したバーチャルイベントを実施するなど、ハイブリッド型のイベントには将来性がある」。
「必要なのは、無限の柔軟性だけだ」。フィリップ氏は最後にそう言い添えた。
[原文:Publishers look for new opportunities in events businesses after a transformative 2020]
SARA GUAGLIONE(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)