何年にもわたり、パブリッシャーたちは可能な限りオーディエンスを拡大し、広告から収益をあげることに役立てようと、さまざまなツールやサービスをスタックにまとめてきた。現在、それらパブリッシャーの多くが、これらのツールが消費者収入源構築を目指す、彼らの計画にうまく適合していないと感じている。
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何年にもわたり、パブリッシャーたちは可能な限りオーディエンスを拡大し、広告から収益をあげることに役立てようと、さまざまなツールやサービスをスタックにまとめてきた。現在、それらパブリッシャーの多くが、これらのツールが消費者収入源構築を目指す、彼らの計画にうまく適合していないと感じている。
たとえば、キャンペーン・モニター(Campaign Monitor)やメールチンプ(MailChimp)といった多くのeメールサービスプロバイダーは、サブスクライバーとの関係を管理するためにパブリッシャーが使用しているプロダクトに簡単に接続できないことを彼らは知るようになった。サブスクライバーリストを特定の種類のeメールを受信するべき人々のリストと同期させられるようになるどころか、スタッフたちがそれらを手作業で入力しなければならず、つまらない仕事を余計に増やしている。
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技術における進化のギャップ
反対に、従来の印刷雑誌事業を持つパブリッシャーは、顧客に対する自分たちの存在意義が損なわれる可能性があるため情報を譲ろうとしないフルフィルメントプロバイダーのせいもあり、これらの業務を自身のデジタルインフラストラクチャーに接続することがいかに難しいかにイラ立っている。あるフルフィルメントプロバイダーは最近、クライアントが自身の印刷媒体の読者に関する情報にアクセスできるようにするAPIを構築するのに、9カ月以上もかけたと、オーディエンス開発コンサルタント会社トゥエンティファースト・デジタル(Twentyfirst Digital)の創業者、メリッサ・チョーウィング氏は述べた。
これらの課題は、これからの数年、デジタルメディアを悩ませる可能性がある問題を明確に示している。消費者収益スタックはまとまろうとしている途上で、パブリッシング業界にとって、こうした収益を効率的に追求するために必要な知識とツールの集積の開発には数年かかる可能性がある。
「ひとつの業界として、我々はいまだに消費者側から学んでいる」と、ローカルニュースパブリッシャー向けに価格やプロダクト取引の交渉を支援する業界団体、ローカル・メディア・コンソーシアム(Local Media Consortium)のプレジデント、フラン・ウィルズ氏はいう。「広告の技術スタックが時間とともに進化し、パブリッシャーが採用するベストプラクティスがいくつかあるように、コンシューマー技術スタックも進化している」。
不確実性とさらに多くの作業
デジタル広告のエコシステムは常に変化する一方で、影響力を持つ企業・団体とツールの内容はほぼ決まっているため、ベンダーは主なアドテクプロダクトとうまく機能するプロダクトを開発する必要がある。消費者収益スペースは異なり、パブリッシャーが消費者との関係を構築または管理する方法のルールを設定しているのは、わずか数社の巨大企業だ。
さらに、現在市場で販売されている選択肢の限られたエンドトゥーエンドソリューションは高くつく可能性があり、eメール、CRM、DMP、そしてその他のサービスにセールスフォース(Salesforce)を選択すると、1年間に50万ドル(約5500万円)以上の費用が必要になるだろう。消費者向け技術分野における企業の大半は、そのプロセスのひとつの側面だけを取り扱っている。パブリッシャーとベンダーが複数のプロダクトをつなぎ合わせることを検討するなか、それはより不確実性とさらに多くの作業の両方を生み出す。
「どのツールが連携して機能し、実際に互いをサポートするのかがわかるのは、まだまだ先のことだろう」と、ウィルズ氏は語る。
プラットフォーマーの動き
GoogleとFacebookはその間、パブリッシャーによるサブスクリプション促進を助ける一連のツールをそれぞれローンチした。しかし、両社ともいまだにテスト段階にあり、多くのパブリッシャーは、この2社にどのような形であれ顧客関係の管理を任せることに対して警戒をしている。
GoogleとFacebookのサブスクリプションプロダクトもまた、小・中規模のパブリッシャーたちにとっては非常に扱いづらいものであることには変わりがない。提携する17のパブリッシャーとともに「サブスクライブ・ウィズ・グーグル(Subscribe with Google)」をローンチしてから1年後、約48のパブリッシャーが業務へそのプロダクトの統合を始めているが、それを完全に実装しているパブリッシャーは20にも満たない。より規模の小さいパブリッシャーが消費者収益を求めることを支援するために、Googleは代わりにローカル・メディア・アソシエーション(Local Media Association)、ローカル・メディア・コンソーシアムおよびFTIコンサルティング(FTI Consulting)と提携してサブスクリプション・ラボを立ち上げた。
ほかのコンシューマテックベンダーは、パブリッシャーたちの抱える問題をもっと解決できるようにプロダクトの拡大を試みている。たとえば、ペイウォールテクノロジーとして始まったピアノ(Piano)はニューズメイト(Newzmate)というESPを2月に買収した。2019年初頭に、パブリッシャーによる読者のeメールアドレス取得を助けるために設計されたポップアップツールで起業したバウンスエクスチェンジ(BounceExchange)は、デバイスアイデンティティ・ソーリューションプロバイダーとして自らを売り込みはじめた。
「すべてがシームレスな体験でなければならない、というのが我々のビジョンだ」と、ピアノのシニアバイスプレジデント、マイケル・シルバーマン氏は述べている。
パブリッシャーたちの体質
しかし、既存のものに代わるツールの追加は、不完全で、誰もが注目するものではない。ほとんどのパブリッシャー、特に開発リソースが不十分なパブリッシャーは、あるシステムから別のシステムに切り替えることに消極的だ。プラットフォーム再構築、またはサードパーティーサービスの寄せ集めから他の単一の統合型システムへ移行させることに尽力しているある大手パブリッシャーは、数年を費やし、何百万ドルと費用がかかる可能性のあるプロセスに向けた準備をしている、と、FTIコンサルティングの技術、メディアおよび電気通信業務のマネージングディレクター、ピート・ドゥセット氏は述べた。
過去に価格の高さに驚いたことを振り返れば、こうした動きは価値があるかもしれないと、ドゥセット氏はいう。しかし、ほとんどの場合、パブリッシャーはそのような大胆な行動を起こすのに必要な柔軟性を欠いている。「パブリッシャーの大半は、戦略的な決定ではなく、漸進的な決定を下している」と、ドゥセット氏は語った。