サードパーティCookieの終焉に備えるパブリッシャーたちにとって、ファーストパーティデータはプログラマティック広告の販売に、必要不可欠な要素となりつつある。
サードパーティCookieの終焉に備えるパブリッシャーたちにとって、ファーストパーティデータはプログラマティック広告の販売に、必要不可欠な要素となりつつある。「これまでファーストパーティデータは、変化に対応するためのひとつの方法という扱いだったが、広告主との取引において、それはいまやあって当たり前のものになっている」。あるパブリッシャーのスタッフは匿名を条件にそう語った。
ボックスメディア(Vox Media)やシーメディア(SHE Media)などのパブリッシャーは、ファーストパーティデータの開発に多くの年月を費やしてきた。また、この1年で広告主も、ファーストパーティデータを重要視するようになった。そして2021年、ファーストパーティデータはプログラマティック広告販売の柱となる可能性がある。
ボックスメディアは2019年12月、独自のファーストパーティデータプラットフォーム「フォルテ(Forte)」をローンチ。同社のライアン・ポーリー最高収益責任者はこう語る。「2019年、我々は一部のインプレッションで、ファーストパーティデータの活用を開始した。サードパーティデータに比べれば小さな規模ではあったが、今年は大いに成長した。来年は、我々のプラットフォームで配信するインプレッションの大部分で、ファーストパーティデータを活用することになるだろう」。
Advertisement
一方シーメディアでも、「来年から広告主に対する提案の大半に、ファーストパーティデータのオプションを組み入れる計画だ」と、同社のオペレーションを統括するシニアバイスプレジデントのライアン・ネイサンソン氏は述べている。「2020年は、広告主からのリクエストに応じてファーストパーティデータを提供していたが、今後はもっと積極的かつ標準的に提案していく考えだ」。
間近に迫るサードパーティCookieの廃止は、プログラマティック広告の販売において、ファーストパーティデータが優先的に提案されるようになったひとつの要因だろう。加えて2020年に入り、広告主側のファーストパーティデータへの関心が高まったことも、これを大きく後押しした。パブリッシャーたちも、広告主からの問い合わせが増加するなか、ファーストパーティデータがより大きな利益をもたらすであろうことに、気付きはじめている。
高まる広告主からの需要
匿名希望のパブリッシャースタッフによると、ファーストパーティデータというオプションを含むプライベートマーケットプレイス(以下、PMP)取引と、このオプションを含まないPMP取引を比べると、前者を選択する広告主の運用額は後者の2倍以上になるという。
また、この人物によると、ファーストパーティデータのオプションを含むPMPを選択した広告主の多くは、しっかり運用している企業が多いと説明する。対照的に、標準的なPMPの場合、設定したまま放置され、実際に予算が投入されないことがあるという。また、「[ファーストパーティデータを伴わない]このような案件では、ROIもはるかに低い。一方ファーストパーティデータを伴う案件で、広告主と取引関係を構築し契約に至れば、大抵の場合は実際の運用につながる」。
この点を考慮して、この人物が所属するパブリッシャーでは、ファーストパーティデータを伴う取引の成約に、奨励金を出すことにしているという。これは、一定の金額(数万ドル[約1000万円])を超える規模のファーストパーティデータを活用した広告取引を成立させた営業担当者に、特別手当を支給するというものだ。
パーミューティブ(Permutive)のデータマネジメントプラットフォームを利用しているシーメディアは、ファーストパーティデータの投入により、PMP取引だけでなく、純広告の販売でも業績を伸ばしている。「我々のファーストパーティデータ戦略に取り組みはじめてから、広告掲載オーダー(IO)の金額は大きくなっている」と、ネイサンソン氏は語る。なお、その増加率は20%前後という。
厳しくなるバイヤーの目線
とはいえ、パブリッシャーが「ファーストパーティデータ」と口にすれば、広告主の財布のひもが緩む、というわけではない。むしろ、ファーストパーティデータの重要性が高まる一方で、バイヤー側もデータの収集や管理に注視するようになっている。あるエージェンシー幹部はこう話す。「特にデータの調達手法や倫理的な観点で、バイヤーの目線は年々厳しくなっている。これは、ここ2年位で見られるようになった傾向だ」。ボックスメディアのポーリー氏によると、最新の傾向として、バイヤーたちは個々のパブリッシャーのデータの整合性のみならず、ほかのパブリッシャーのデータとの一貫性についても関心を寄せているという。
このように、広告主のあいだでファーストパーティデータへの関心が高まるにつれて、パブリッシャーたちは自社が保有するデータの、より一層の拡充を図っている。ネイサンソン氏によると、シーメディアでは、同社が運営する各種Webサイトで投票やアンケートを実施するなど、広告主から委託されたオーディエンス調査を増やし、その結果を同社所有のオーディエンスセグメントと連携させる予定だという。
一方ポーリー氏によると、ボックスメディアでは、ユーザーが自社Webサイトのページに至る遷移など、コンテクスチュアルデータの活用に注力するという。たとえば、ユーザーがGoogleでテクノロジー製品を検索し、そこから同社が運営するメディア、ザ・バージ(The Verge)に到達したことが分かれば、この情報に基づいて、配信する広告クリエイティブを決定することができる。「今後も継続して、ページ上のコンテンツ、ユーザーの流入元、広告クリエイティブ、時間帯、ロケーションなど、さまざまなコンテクスチュアルな要素の理解に、多くの時間と労力を投じたい」。
[原文:‘Table stakes’: Why publishers’ first-party data has become prerequisite to programmatic ad sales]
TIM PETERSON(翻訳:英じゅんこ、編集:村上莞)