2019年になって、さまざまなパブリッシャーがサブスクリプションビジネス強化のため、グロースマーケター、メディアストラテジスト、デジタルアドバイヤーを募集するようになった。パブリッシャーはいま、ますますコンシューマーブランドと同じような考え方や行動をするようになっている。
インハウス化のトレンドがパブリッシャーの世界にもやって来た。パブリッシャーはいま、ますますコンシューマーブランドと同じような考え方や行動をするようになっている。
2019年になって、さまざまなパブリッシャーがサブスクリプションビジネス強化のため、グロースマーケター、メディアストラテジスト、デジタルアドバイヤーを募集するようになった。アトランティック(The Atlantic)やニューヨーク・タイムズ(The New York Times)などの老舗パブリッシャーも、デイリービースト(The Daily Beast)といった新興メディアもだ。このような動きが突然増えた背景には、有料購読の時代がもたらした新たなニーズがある。それは、グロースマーケティングの手法を習得することだ。この種のマーケティングは、Facebook、インスタグラム(Instagram)、Googleなどの広告を利用した顧客獲得に依存しているD2C(Direct-to-Consumer:直販)ブランドでは、一般的に行われている。
互いに引き抜き合戦
ニューヨーク・タイムズは1カ月にわたって、有料購読者の拡大をサポートする新たなポストの求人広告を掲載した。料理、クロスワード、子育てなど新しい製品のマーケティング戦略やメディア戦略を担当するディレクターや、オーディエンス戦略のマーケティングを担当するマネージャーなどだ。このようなポストの増員は、ニューヨーク・タイムズにとってごく自然な成り行きといえる。同社はサブスクリプション収益に将来を託しており、サブスクリプション登録者の発掘や獲得では、ほとんどの競合他社よりはるかに先行しているからだ。
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このような人材の獲得は、デジタルマーケティング予算をより効率的に活用するうえで欠かせない。また、こうした人材は、自社プラットフォーム以外の場所でサブスクリプション登録者とコミュニケーションを取り、エンゲージメントの維持と解約の阻止につなげるために必要なノウハウを、これまで別の目的でマーケティングを活用してきたパブリッシャーにもたらしてくれる。そのため、パブリッシャーはエージェンシーの社員だけでなく、D2Cブランドや競合他社の社員を引き抜いてでも人材を獲得する必要に迫られている。
「我々はこれまで、中間管理職レベルでこのような人材をスカウトすることに注力してきたが、今後は対象を広げることになると思う」と、人材スカウト会社のグレース・ブルー(Grace Blue)で管理職スカウトの責任者を務めるメアリー・ギャリック氏はいう。「数年前まで、そうした人材はエージェンシーにいたため、誰もがエージェンシーを訪れなければならなかった。だがいま、彼らは互いに引き抜き合戦をしている」。
メディア投資の効率化
パブリッシャーの多くは、サブスクリプション収益を増やす取り組みに慣れていないものの、なかにはかなり前から消費者マーケティングのノウハウを蓄積し続けているパブリッシャーもある。たとえば、アトランティックでは、オーディエンス開拓、消費者マーケティング、データサイエンス、リサーチに取り組むグロースチームにメディアスペシャリストを配置しており、今後もスタッフを増やす計画だと広報担当者は述べている。スレート(Slate)は、メンバーシッププログラムの「スレートプラス(Slate Plus)」と「サポーティング・キャスト(Supporting Cast)」に向けた消費者マーケティングの大半を担うグループを設置しているが、メディアバイイングにはサードパーティを利用しているため、2020年までに自社のメディアバイイング能力をさらに高める計画だ。
ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)では、10人の専任スタッフから成るチームが、同社のビジネスニュースブランドのために、ソーシャルやディスプレイ、そのほかのメディアでの取り組みを管理している。このチームは、2年前にインハウス化を進める目的で結成され、2018年後半にいまのメンバーで固定された(ただし、大規模なキャンペーンを実施するときには、外部エージェンシーのザ・アンド・パートナーシップ(The & Partnership)にいまも協力を求めている)。
ウォールストリート・ジャーナルのメディアバイイングチームがもっとも力を入れているのは、サブスクリプション登録者の維持率を高めることだ。こうした戦略を優先するには、サードパーティでは難しいような対応も求められる。「いまの組織体制のおかげで、すばやく行動を起こしたり、詳しいデータを得たり、絶えず実験を行うことが可能になっている。これらは、メディア投資から最大のリターンを得るための鍵だ」と、ウォールストリート・ジャーナルでサブスクリプションおよびメンバーシップ担当GMを務めるカール・ウェルズ氏はいう。
エージェンシーの言語を話せる人
振り返ってみると、パブリッシャーが、特にビジネスサイドのアカウントサポートや販売前の機能において、アドバイヤーやメディアプランナーを採用しはじめたのは、およそ2年前のことだった。メディア・リクルーティング・グループ(Media Recruiting Group)のプレジデント、リサ・ゴールドバーグ氏によると、その頃に同氏の会社に問い合わせてきたパブリッシャーが希望したのは、販売前および販売後のサポートや顧客のサポートに従事し、エージェンシーに対して魅力的なプレゼンができる人材だった。「エージェンシーと折衝するには、そのほうがいい」と、ゴールドバーグ氏はいう。「デジタルは非常に複雑になっているため、(エージェンシーの)言語を話せる人を抱えているほうがうまくいくのだ」。
このようなスキルは、ブランドの構築を計画しているパブリッシャーにとって役に立つ。だが、いまは、ほとんどのパブリッシャーが、パフォーマンスやグロースマーケティング、それに顧客獲得のノウハウを兼ね備えた人材も求めているという。もっとも、こうした人材は不足気味だ。「グロースマーケティングと顧客獲得の両方に精通し、ブランドにも強い人を探すのは簡単ではない」と、管理職スカウト会社コーラー・サーチ・パートナーズ(Koller Search Partners)のパートナー、エディ・コーラー氏はいう。「企業は、人材を求める場所を工夫しなければならない状況になっている」。
さらにコーラー氏は、パブリッシャーが特に求めている人材として、金融サービス企業向けのマーケティングができる人を挙げた。この分野では、商品を購入する可能性がとても高い人と購入にはほど遠い人がいるため、求められるデータのレベルやメッセージ戦略の種類が異なるからだ。
そのほかに、D2C企業の人材を引き抜いて成功を収めているパブリッシャーもある。たとえば、デイリービーストが自社のメンバーシッププログラム「ビースト・インサイド(The Beast Inside)」を担当するマーケティングディレクターとして採用した女性は、かつてミールキット宅配のブルーエプロン(Blue Apron)やフィットネスブランドのエイト(Eight)といったD2C企業で働いていた人物だ。ビーストは、自社プラットフォーム以外で広告に取り組んだ経験はまだないが、ビースト・インサイドがサブスクリプション登録者の野心的な目標を達成すれば、そのノウハウが役立つことになるだろう。ビーストのCEO、ヘザー・ディートリック氏は、ビースト・インサイドで数十万人の加入者を獲得したい意向を示している。
Max Willens(原文 / 訳:ガリレオ)