パブリッシャーはいま、これまでにないほど、ニュースレター(メールマガジン)に力を入れている。その証拠に、いまやおびただしい数のニュースレターが発行され、専任スタッフが置かれ、デザインに注目が集まっている。以前なら、新しいWebサイトを公開するときにしか見られなかったほどの力の入れようだ。
パブリッシャーはいま、これまでにないほど、ニュースレター(メールマガジン)に力を入れている。その証拠に、いまやおびただしい数のニュースレターが発行され、専任スタッフが置かれ、デザインに注目が集まっている。以前なら、新しいWebサイトを公開するときにしか見られなかったほどの力の入れようだ。
「多くのメディア企業がメールニュースレターに目を向けているが、これは10年前にはなかったことだ」と語るのは、デザイン企業のチャーミングロボット(Charming Robot)の共同創設者でCEOを務めるダン・マカローネ氏だ。「ここ1〜2年、一緒に仕事をしたメディア企業は、どこもニュースレターを発行していた」。
ニュースレター自体が製品だったり、新しいブランドの中心的な要素だったりする例は増えており、デザインの重要性は高まるばかりだ。ミレニアム世代向けのニュースメディアを手がけるMic(マイク)は、トランプ氏関連の話題を伝えるニュースレター「ナビゲーティング・トランプズ・アメリカ(Navigating Trump’s America)」を発行している。また、パーソナルファイナンスに特化した新しいサイト「ザ・ペイオフ(The Payoff)」の開設に合わせて、ニュースレターを創刊した。
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同じくMicが手がけるフェミニストブランドの「ザ・スレイ(The Slay)」は、インスタグラムアカウントとしてスタートし、ニュースレターへと展開していった。
「(ニュースレターの)デザインについては何度も検討を重ねている」と、Micの最高戦略責任者、コーリー・ハイク氏はいう。
デザイン上の大きな制約
だが、ニュースレターには、Webにはないデザイン上の大きな制約がある。最大の問題は、なんといってもメールプロバイダーに関することだ。パブリッシャーは、数種類のWebブラウザで表示することを考えて、デザインを作ることには慣れている。だが、デザインを考えるときに対象とすべきメールサービスの数は、はるかに多い。
クオーツ(Quartz)は、自社の代表的なニュースレター「デイリー・ブリーフ(Daily Brief)」で10種類のメールクライアント向けにデザインを作成しているが、それぞれのクライアントにクセがあり、メールの見え方が異なるという。同社のプロダクト担当バイスプレジデント兼編集長、ザック・スーアード氏が述べるように、モバイルでもデスクトップでも画像が同じように見えるようにするのは難しい場合があるようだ。また、メールプロバイダーによっては、画像やフォントがまったく読み込まれないこともある。
「この手のやっかいな問題は、どれもWebには見られないものだ」と、新興のデジタルパブリケーション、アウトライン(The Outline)の創設者、ジョシュア・トポルスキー氏は言う。「ラップトップ、『Gmail』、携帯電話、Appleの『メール』クライアント、『Outlook』でニュースレターを見たところ、その見え方はすべて異なっていた」。
コンテンツの量も問題
制約はほかにもある。印刷メディアの経験がある人ならよくわかるだろうが、メールは静的なものであり、いったん送信されたメールに変更を加えることはできない。パブリッシャーの多くは、ニュースレターを新しいホームページのような存在と考えるようになっており、たくさんのコンテンツを詰め込もうとしがちだ。しかし、多くの要素を詰め込みすぎると、ダウンロードにかかる時間が遅くなる。
ことメールニュースレターに関しては、シンプルにしたほうがよい場合が多いことに、パブリッシャーは気づいている。ニュースが中心のニュースレターでは特にそうだ。クオーツの「デイリー・ブリーフ」は、無駄なくまとめたニュースを多忙なエグゼクティブに提供することを目的としているため、余白が多く面白みに欠けたデザインになっている。一方、同社が2016年秋に始めた週刊ニュースレター「クオーツィー(Quartzy:写真右)」では、枠線や画像を使って手作り感を出しているが、これはカルチャーやライフスタイルがこのニュースレターの狙いとテーマになっているためだ。
「アウトライン(写真左)」は、ニュースレターのフォーマットをいくつか実験しているが、多くのグラフィックス要素を使うよりも文章を会話調にすることで、独自の雰囲気を作り出そうとしている。
ニュースレターの基本目的
「ニュースレターの基本的な目的は、非常にはっきりしている。読者に最新の情報を知ってもらうことだ。高度なグラフィックデザインのスキルを駆使して読者に強い印象を与えることではない」と、ワークアンドカンパニー(Work & Co.)の共同創設者、ジョー・スチュワート氏は言う。「華やかな色や個性的なフォントをあちこちに使うのは楽しいが、それは『ブランディング』ではない。ニュースレターのもつ唯一の役割を邪魔することになる場合は、なおさらだ」。
つまり、制約があるおかげで、パブリッシャーは見出しや全体の長さといった本質的なことに集中できるというわけだ。
「難しいのは、余分なものをできるだけ削ぎ落とした状態を維持し、コンテンツや見出しを使ってブランドを効果的に伝えることだ」と、クリエイティブエージェンシーのハード・キャンティ・シェル(Hard Candy Shell)の創設者兼CEO、ケビン・カーニー氏は言う。「ブランド価値を損なうようなことは誰も望まない。ブランドはたいてい、『我が社の今週の注目情報や製品の写真を並べよう』というだろう。だが、我々は焦点を絞ってもらうようにしている。私が制約を好む理由は、パブリッシャーが墓穴を掘るような事態を避けられるからだ」。
Lucia Moses(原文 / 訳:ガリレオ)
Image from Thinkstock / Getty Images