広告でお金を使ってもらおうと競い合うとき、パブリッシャーは、オーディエンスやクリエイティブサービス、エディトリアルの評価をセールスポイントにする。これと同じ材料を使って、自社サイトや高額の支出をしてくれる広告パートナーのためにオーディエンスに直接販売できる消費者向け製品を作ろうとするパブリッシャーが増えている。【※本記事は、一般読者の方にもnoteにて個別販売中(480円)です!】
広告でお金を使ってもらおうと競い合うとき、パブリッシャーは、オーディエンスやクリエイティブサービス、エディトリアルの評価をセールスポイントにする。これと同じ材料を使って、自社サイトや高額の支出をしてくれる広告パートナーのためにオーディエンスに直接販売できる消費者向け製品を作ろうとするパブリッシャーが増えている。
ロデール(Rodale)の直販部門買収から1年も経っていないが、ハースト(Hearst)はすでにハイエンドな消費者向け製品(ヨガマット)を開発・発売し、さらに2019年には8~10の商品を新たに市場に投入する計画でいる。メレディス(Meredith)は2018年秋に密かにブランド製品ラボを立ち上げた。同社は、最初の消費者向け製品の発売を数週間後に控え、2019年には新製品をいくつか用意している。BuzzFeedのコマースチームは、テイスティ(Tasty)やグッドフル(Goodful)といったブランドのためにフルプロダクトラインを開発。広告主へのサービスとして製品開発に拍車をかけてもいる。同社は、スコッツ(Scott’s)やメイベリン(Maybelline)などのブランドが製品のアイデアを開発する手助けをしている。
より規模の小さいパブリッシャーも消費者製品の波に乗っている。1年ほど前に毛布を1500万ドル(約16億円)相当売り上げたフューチャリズム(Futurism)は、「グラビティー・プロダクツ(Gravity Products)」という独立した消費者向け製品ビジネスを確立。製品ラインを6つに拡大して、2018年分の在庫を完売している。クリーク・ブランド(Clique Brands)は、2017年に1500万ドルの資金を調達して消費者ブランド部門を立ち上げ、ターゲット(Target)からタコリ(Tacori)まで幅広いブランドが製品ラインを開発する支援。消費者ブランドからの売り上げが最終的には広告売り上げを超えることを期待している。
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パブリッシャーは理論上、大きな潜在的顧客ベースへのアクセス、マーケティングや広告に関する洗練された能力、豊富なエディトリアルインサイトや専門知識など、成功する製品開発に必要な原材料を多数持っている。
だが、アフィリエイトコマースもひとつの方法だ。物理的な製品の開発は高額な費用がかかるし、収入源の多様化に向けたほかのどんな取り組みよりも、パブリッシャーの中核機能を深く巻き込み、奪うことにもなる。倉庫を借りたり、複雑なサプライチェーンとの関係を維持したりすることを意味し、違う大陸にある製造メーカーと新たな関係を築く必要もある。
パブリッシャーの編集の整合性を損なう危険性もある。こうした業務により多くの製品が市場に送り出されるようになると、読者は、お気に入りの雑誌がそうした製品を推奨している訳を知りたがるかもしれない。
「(編集者は)製品のサクラにはなりたくないと思っている」と、メレディスのイノベーション部門を率いるコービン・デ・ルベルティス氏はいう。ルベルティス氏は、メレディスの生まれたばかりのブランドラボの監督者でもある(メレディスの編集者の多くはラボの仕事を受け入れていると、彼は付け加えた)。
ブランドを支援する
パブリッシャーが不確実な領域を探りはじめている背景には、GoogleとFacebookにデジタル広告費の半分以上が流れて、その市場が厳しくなってきたことがある。さらに広告主の関心もパブリッシャーがその方向へ動くように促している。たとえば、メレディスが最初の製品開発をはじめたのは、あるクライアントから、消費者に直接販売できる何かを開発する手助けをしてほしいと頼まれたからだと、ルベルティス氏はいう。
いまのところ、そうした広告主の関心がメレディスの製品ラボの原動力になっている。相当額――ルベルティス氏は明言を避けたが、値札には最低でも7桁の金額が載っているようだ――のメディア支出をすることと引き替えに、メレディスのチームは、広告主が通常使う小売りチャンネルの外で彼らが直接販売できる製品を開発する作業を引き受ける。
この作業は広範囲に及ぶ。メレディスのコンテンツからクリックストリームやエンゲージメントデータをくまなく調べてから、別のチームが15万人の女性を対象に市場調査を行う。メレディスのチームはさらに、市場でのターゲットが誰かに応じてフォーカスグループを集める。中西部に暮らす母親をターゲットにした製品ならば、アイオワ州デモインにあるメレディス本部でテストを実施し、ミレニアル世代の女性がターゲットならシカゴやニューヨークでテストを行う。デザインやブランディングに関しては、メレディスがタイム(Time Inc.)を買収した時に手に入れたブランデッドコンテンツスタジオ、ファウンドリー(The Foundry)を頼りにしている。
ブランドラボでフルタイムで働いているスタッフはほんの一握りだが、クライアントのために開発された完成品に貢献する人間は「大勢」いる、とルベルティス氏はいう。
BuzzFeedの場合、各ブランドの希望にそって開発プロセスへの関与の度合いを変えている。製品を概念化しデザインするのにかかる通常1週間程度のスタートダッシュで、BuzzFeedのパートナー・イノベーション・ラボ(Partner Innovation Lab)は、メイベリンの「グランスピン(Glamspin)」のような独創的な消費者向け製品の開発を支援した。ブランドがもっと細かい部分を理解する手助けもしている。たとえば、あるブランドが新しい直販製品のためのサプライチェーンをデザインするのを手伝ったこともあれば、製品ウェブサイトのユーザー体験をオーバーホールしたこともあると、パートナー・イノベーション・ラボを率いるジェイク・ブロンスタイン氏は語る。
仕事の範囲が幅広いので、価格もさまざまになる。パートナー・イノベーション・ラボへの依頼は、ローエンドでさえ、6桁の投資が必要だとブロンスタイン氏はいう。
こうした価格設定は、製品コンサルティング会社に相談した場合にブランドが要求されるかもしれない額に合わせている。製品コンサルティング会社スウォーム(Swarm)のマネージングパートナー(業務執行社員)であるジェイス・グレブスキー氏によると、最低限生き残れるデジタル製品の開発費は15万~30万ドル程度になる。
より多くの自己投資を
製品ラボがすべて広告を原動力にしているわけではない。ハースト・マガジン(Hearst Magazines)は、自社開発の製品を読者に直接販売している。ここ数年、コマースはハーストにとって大事な優先事項だったが、調達や注文の履行といったことでの経験が限られているため、ハーストはアフィリエイトコマースに焦点を絞り続けてきた。デジタルパブリッシングの専門知識を持つハーストには、そのほうがより自然に馴染んだ。
だが、2018年1月にハーストがロデールを買収したことで事態は変わった。ライフスタイルを取り扱うパブリッシャーであるロデールは、自社倉庫を持ち、書籍やDVDのような製品を開発・販売する本格的直販ビジネスを展開しており、「我々が利用し続けることができるインフラストラクチャのように見えた」と、ハースト・マガジンの消費者製品部門のトップを務めるシール・シャー氏は話す。こうしたリソースや専門知識を買い取ることで、自身で消費者向け製品の開発に挑戦する自信がついたとシャー氏は語る。
ローテクを活用
多くの場合、ほとんどのパブリッシャーが開発してきた製品は、さまざまな場所に起源を辿ることができる原材料やグッズを基にしたローテク品だ。完全なカラーバリエーションの食器類を揃えるのは簡単なことではないが、研究開発に数十万ドルものコストがかかってしまうような新技術を開発するよりははるかに簡単だと、グラビティー・プロダクツ部門責任者のマイク・グリッロ氏は説明する。
「我々は、高度な科学をベースにしながら、ローテクで実現できるグッズにこだわっている」と、グリッロ氏は話す。
多くのテクノロジーが関与する場合、すでにその仕事をしたことがありそうなパートナーを見つけることが役に立つ。たとえばBuzzFeedの「テイスティー・ワン・トップ(Tasty One Top)」は、ゼネラル・エレクトリック(General Electric)が運営する製品インキュベーター、ファーストビルド(FirstBuild)とコラボして作られた。ファーストビルドは過去に、「パラゴン(Paragon)」という類似製品を作ったことがあった。
編集者の協力
編集スタッフもまた、製品に指紋を残すことができる。この仕事に関わる複数のパブリッシャーは、開発されている消費者向け製品やブランドは、エディトリアルとは別物だと強調するが、編集者は依然としてプロセスに深く関与している。編集者は、その製品がアフィリエイトコマースでうまくコンバートする理由や、新しい種類の製品が消費者のあいだでどの程度持久力を維持するかについての考えを提供するよう求められる。デザインの過程ではフィードバックも求められる。
シャー氏は、「我々は(製品について)真剣に考えなければはらない。(編集スタッフと)絶えず対話することでのみ、わかることがある」と話す。
編集者はさらに、製品の販売を容易にする重要な承認シールも提供する。ヨガマットの準備を整えたとき、シャー氏のチームは、ハースト・マガジンのほとんどすべてのブランドから代表者を招集して製品デモとピッチセッションを行い、彼らの読者とヨガマットがどう関連しているかを説明した。
パブリッシャーはこういう作業を好む。ブランデッドコンテンツやディスプレイインベントリー(在庫)をめぐる情け容赦ない戦いに比べれば、ここでの競争はまだそれほど激しくはないからだ。さらにこれは、パブリッシャーが広告主と直接仕事をするもうひとつの方法でもある。アノーマリー(Anomaly)やビッグスペースシップ(Big Spaceship)などのエージェンシーは、ハズブロ(Hasbro)のようなブランドのための製品開発に成功しているが、こうしたエージェンシーもプラットフォームも、潜在的競合相手としては迫ってきていない。
ワイデン+ケネディ(Wieden + Kennedy)でマネージングディレクターを務めるニール・アーサー氏は、2018年春のDIGIDAYポッドキャスト「メイキング・マーケティング(Making Marketing)において、次のように語った。「エージェンシーにとって、競争は本当に厳しくなっている。エージェンシーは、こうしたことを最後まで徹底してフォローするようにはできていない」。
既存の製品開発会社はパブリッシャーのことを、まだまだ学ぶべきことはたくさんある恐るべき競争相手であると同時に、何か重要なピースが欠けているかもしれない存在だと見ている。
スウォームのグレブスキー氏は、こう締めくくる。「これは間違いなく、業界が向かっていく方向で、それは正しいことだ。経営陣はクルマのような製品を見ている。購入し、ディーラーの駐車場から出たら、それで終わりだ。だが、その背後では常にお金を注ぎ込み続けなければならない」。
Max Willens(原文 / 訳:ガリレオ)