作成したコンテンツをパブリッシャーの資産の外側で使いたい、あるいはパブリッシャーの名前を出さずに広めてほしいと依頼する広告主が増えている。そんななか、収益源の多様化を目的にブランデッドコンテンツに取り組み、広告主に接近しているパブリッシャーも出てきた。
かつてのアバウトドットコム(About.com)がリブランディングしたドットダッシュ(Dotdash)は、オーディエンスの要求に応えるコンテンツの提供に長けたパブリッシャーだ。そんな同社が、広告主に対しても同様の取り組みを進めている。
同社は長期的に提携してきた広告主とカスタムコンテンツのプログラムを進めている。この構想には、何百というコンテンツが散りばめられたウェブサイトも含まれる。ドットダッシュはコンテンツとウェブサイトを提供し、その見返りに維持費と、事業の結果に基づくインセンティブとを追加で受け取る。
だが、ウェブサイト自体にドットダッシュや同社のブランドの名前が載ることはない。
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これについて、「私たちがやらなくてもいずれ他社がやることだ」と同社のCEO、ニール・ボーゲル氏は語る。「コンテンツスタジオの立ち上げやワンオフのホワイトラベル商品の提供に関心があるわけではない。だが同時に、当社が特に強みを発揮する分野となっている」と語る。
諸刃の剣という考え
収益源の多様化を目的にブランデッドコンテンツに取り組み、広告主に接近しているパブリッシャーのなかでブランデッドコンテンツは諸刃の剣だという考えが広まりつつある。作成したコンテンツをパブリッシャーの資産の外側で使いたい、あるいはパブリッシャーの名前を出さずに広めてほしいと依頼する広告主が増えているのだ。そうなるとパブリッシャーでありながら、やっていることはエージェンシーの業務と変わらない。
ポップシュガー(PopSugar)をはじめ、パブリッシャーのなかにはこれをチャンスと捉えて社内にエージェンシー業務の部門を設立する企業も出てきている。一方、パブリッシャーのなかにはホワイトラベルについて慎重な見方も存在する。金回りが異なっており、低マージンなうえに自社が構築するブランデッドコンテンツ事業の収益を奪いかねないという見方だ。
ワシントン・ポスト(The Washington Post)のブランデッドコンテンツを運用するWPブランドスタジオ(WP Brand Studio)で所長を務めるアニー・グラナステイン氏もまた、ホワイトラベルを避けてきた。そんな同氏だが「当社は自然と、コンテンツスタジオ以上の存在へと変化しつつある。だからブランド各社がキャンペーン以上のものを求めるようになっているのも自然な成り行きだろう」と語る。
毎年2倍以上の伸び
ホワイトラベルを要請するブランドが出てきたのは比較的最近で、パブリッシャーの収益に占める割合も低いことが多い。ポップシュガーは2年ほど前からこのようなサービスを行ってきた。同社のCRO、ジェフ・シラー氏はこうしたサービスが同社の収益に占める割合は1割にも満たないが、毎年2倍以上の伸びを見せていると明かす。
ブランドのデジタルコンテンツへの欲求は年々強まるばかりだ。だが、インハウスでマーケティングを行う人材を集めるのに苦労しているブランドが多いなか、パブリッシャーにデジタルコンテンツの作成を依頼するブランドは少なくない。すでに関係性を築いているパブリッシャーがいれば、なおさらだ。その要因に、デジタルコンテンツを作成できる人材が集まらないことが挙げられる。
「(ブランドにとって)デジタルコンテンツは日常的にオーディエンスにリーチするもっとも一般的な手段であり、かつモバイルなコンテンツでコストも低い。だが、鮮度が高いオリジナルコンテンツがなければ、すぐに失速してしまう」と指摘するのは、マーシャル・ストラテジー(Marshall Strategy)でマネージングディレクターを務めるケン・ペイストマック氏だ。「いまホワイトラベルが流行っているのも、ブランドがコンテンツの作成よりも購入を望んでいる証拠にほかならない」と同氏は分析する。
残された課題の解決策
パブリッシャーがホワイトラベルに抵抗を見せている理由として挙げられるのが、メディアを含むブランデッドコンテンツと比べて低マージンであることだ。
グラナステイン氏はこれについて、「当社のビジネスモデルは配信を主体としている。利ざやの基盤になっているのはメディアの購入だ。コンテンツを当社が配信しなければ、当社がコンテンツの宣伝をすることもない。そうなると事業について一から再考する必要がでてくる」と語る。
まったく新しいチームが必要となる可能性がある。ポップシュガーはホワイトラベルコンテンツの作成から広告主が保有するウェブサイトの立ち上げまですべてを行ってきた。ホワイトラベルでのテレビ番組の作成や、クライアントの要求に応じた契約社員の雇用まで行ってきたのだ。ブランドとの仕事を繰り返すうちに、こうした業務をより効率よくこなせるようになる。シラー氏は「マージンの面から見ても革命的な変化が起きている。クライアントをとればとるほど、効率を上げやすくなるという状態だ」と語る。
前向きに取り組む企業たち
また、ブランドによるホワイトラベルコンテンツのニーズに対し、より大規模な提携関係を結ぼうとするパブリッシャーも存在する。9月にリファイナリー29(Refinery29)はロンドンを拠点とするクリエイティブ専門コンサル企業のThe29thを立ち上げた。Refinery29のエグゼクティブバイスプレジデントを務めるケイト・ウォード氏は、The29thが最初のクライアントであるウォルグリーン・ブーツ・アライアンス(Walgreens Boots Alliance)に対してホワイトラベルコンテンツを提供したことを明かした。
組織的な難しさはあるにせよ、ホワイトラベルはかならずしもブランデッドコンテンツやほかの種類のメディアの収益を奪うとは限らない。シラー氏によると、ポップシュガーがエージェンシー業務に取り組んで2年が経過し、クライアント全社がブランデッドコンテンツへの投資を200%以上増やしたという。
また、対象をこれまで多く取引してきたブランドのみに制限する形で、日和見的にブランドへのホワイトラベルプロジェクトを提供しようとするパブリッシャーは多い。ボーゲル氏の言葉を借りれば、「他社にやらせるくらいなら自社でやる」ということだろう。
Max Willens(原文 / 訳:SI Japan)