Facebookは、7月に媒体社とサブスクリプション機能のテスト実施を進める計画だった。だがアプリ内課金がされなくなるとAppleが懸念を示したことで、まずはAndroidのみでの実施となるようだ。プラットフォームの争いに巻き込まれるパブリッシャーだが、念願のFacebookでのマネタイズに向けた一歩となるか。
FacebookとAppleが小競り合いを繰り広げている。両者のあいだで板挟みになっているのがパブリッシャーだ。
Facebookは、同社のインスタント記事(Instant Articles)において、有料サブスクリプションを提供する予定だったが、そのテストは延期されている。この機能により、パブリッシャーがApp Storeを迂回して、アプリ内課金の30%をAppleに支払わずに済むようになることをApple側が嫌がったからだ。有料購読機能の恩恵を受けるはずだったパブリッシャーとしては的が外れた形だ。
この件にくわしい情報筋によると、Facebookはインスタント記事をモバイルWebの単なる別バージョンにすぎないと捉えているが、Appleはアプリ内のコンテンツとみなしており、アプリ内課金の対象になるはずだと考えているという。
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そのため、今回のテストはAndroid端末のみで行われる予定だ(Googleでは、パブリッシャーの購読販売を支援しようとしているため、AndroidについてはAppleのような抵抗は示さなかったようだ)。Facebookは、事の経緯についてのコメントを拒否。Appleにもコメントを求めたが返答はなかった。
立ちはだかるApple
Appleがパブリッシャーにとって障害になったのは、これがはじめてではない。きっかけはiPadがローンチされた当時にまでさかのぼる。カスタマーエクスペリエンスとプライバシーを最優先にするAppleは、パブリッシャーが雑誌のサブスクリプションを販売したり、顧客に直接料金を請求したりすることを許さなかったのだ。さらに、App Storeに関する問題もあった。自社アプリの承認に時間がかかったり、ストア内で発見されにくかったりなど、App Storeはパブリッシャーにとって頭痛のタネだった。
パブリッシャーは、Appleのアグリゲーションアプリ「Apple News」から順調なトラッフィクを得ている。だがAppleは、広告ではなくデバイスの売上から収益の大半を上げており、パブリッシャーも、同アプリからの広告売上はほとんどないと言っている。
サブスクリプションをめぐるAppleとの小競り合いにいらだちを覚えているのはFacebookだろうが、その影響を実際に受けるのはパブリッシャーだ。デジタル広告がもたらす増収の大半をFacebookやGoogleが搾取するなか、パブリッシャーは、その生命線としてますますサブスクリプションに依存するようになっている。
パブリッシャーの反応
「大手テック企業によるコンテンツの扱い方についての議論は、まったくの机上の空論だ」と、ダウ・ジョーンズ(Dow Jones)やニューヨーク・タイムズ(The New York Times)など北米のパブリッシャーが加盟する団体「ニュース・メディア・アライアンス」(News Media Alliance)代表のデヴィッド・チャバーン氏は話す。「ニュースパブリッシャーがこれらの企業の争いに巻き込まれて潰されることがあってはならない。市民社会を守るためにも、ニュースビジネスを持続させるモデルを見つける必要がある。これは、スケートボードの動画をマネタイズする方法について議論するのとはわけが違う」。
一方、デジタルパブリッシングの業界団体である「デジタル・コンテンツ・ネクスト(Digital Content Next)」のCEOを務めるジェイソン・キント氏は、今回の件に関して良い側面に目を向ける。「優勢を誇るクローズなプラットフォームであるFacebookが、同じく優勢なプラットフォームであるAppleにプレッシャーをかける。これは進歩が見えてきたという兆候だ」と同氏は語る。「双方にはなるべく早く問題を解決してもらいたい」。
Facebookによるサブスクリプションテストは、インスタント記事で近々に開始されることになっている。最初はワシントン・ポスト(The Washington Post)やビルド(Bild)、テレブラフ(The Telegraph)など欧米のパブリッシャー10社が対象となる予定だ。パブリッシャーはこれまでFacebookに対し、同プラットフォームでコンテンツをマネタイズできるようにして欲しいと強く求めてきたが、このテストはその要求に応えるためのひとつの手段だ。
さらに、Facebookにとっては、2015年に開始した高速読み込み可能なモバイル記事フォーマットであるインスタント記事をより促進することにもなる。パブリッシャーのインスタント記事に対する反応はさまざまであり、なかには同機能を利用した自社コンテンツの配信を中止するパブリッシャーもいた。
実際のテストはいかに
今回のサブスクリプションテストでは、メーター制モデル(月記事10本から開始)とフリーミアムモデル(どの記事をロックするかはパブリッシャーが管理)を併用するようだ。ペイウォールの上限になると、ユーザーはサブスクリプションしなければならず、パブリッシャーのサイトでの支払いに誘導される。さらに、価格やユーザーデータを管理するのはパブリッシャーであり、売上もすべてパブッリシャーのものになる。
Facebookは、パブリッシャーのインスタント記事でCTA(コールトゥアクション)ユニットのテストも計画している。CTAでは、ユーザーがペイウォールにぶつかる前にサブスクリプションが促される仕組みだ。
Facebookは、一部のユーザーに対してインスタント記事を表示する予定で、それ以外のユーザーは従来どおりのモバイル記事を目にするという。同社は今後数カ月にわたり、各グループのユーザーが何本記事を読み、最終的に何人がサブスクリプションに申し込むのかを比較するようだ。
Lucia Moses (原文 / 訳:ガリレオ)