今年、パブリッシャーたちはこれまでより、気候変動の報道に多くの時間と資金を割いている。しかし、果たしてこうしたコンテンツは、広告主の関心を集めるにいたっているのか。
今年、パブリッシャーたちはこれまでより、気候変動や持続可能性に関する報道に、多くの時間と資金を割いている。しかし、果たしてこうしたコンテンツは、広告主の関心を集めるにいたっているのか。
BBC、ブルームバーグ(Bloomberg)、ファイナンシャル・タイムズ(Financial Times:FT)、グループ・ナイン・メディア(Group Nine Media)、ザ・エコノミスト(The Economist)についていえば、その答えはイエスだ。
実際、広告主の多くが、パブリッシャーに対してソリューションベースのジャーナリズムに関連したキャンペーンや、スポンサーシップのオファーを送る機会が増えたと述べており、彼らのあいだで、気候変動や持続可能性に関する報道への関心が高まっていることがわかる。
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パブリッシャー各社の主な動向
- BBCでは、広告主からの依頼の半数から3分の2が、「持続可能性についての要素を含んでいる」と、BBCグローバルニュース(BBC Global News)のヨーロッパ、中東、アフリカ向けの広告販売部門シニア・バイスプレジデント、ロリ・サッチシッキー氏は述べている。
- ブルームバーグの広報担当者によると、(2021年)同社が扱う広告案件を予算規模順に並べた場合、トップ50のうちの約20%が、持続可能性に関するものだという。また、気候変動関連のニュースを報道するメディア、ブルームバーグ・グリーン(Bloomberg Green)の広告収入は、2020年1月から2021年1月にかけて144%増加した。
- FTのアメリカ地域の広告担当バイスプレジデント、ブレンダン・スペイン氏によると、同社の気候変動、持続可能性、そしてESG関連のコンテンツとの連携を望む広告主からの依頼は、前年比で10倍に増加しているという。スペイン氏によると、FTが受け取った依頼のうち、気候や持続可能性に紐付けた形での広告掲載リクエストは、全体の約40%から50%にもおよぶという。
- グループ・ナインの広報担当者によると、同社の第3四半期と第4四半期における、気候と持続可能性に関するコンテンツに関するスポンサーシップは、8桁台の収益をもたらしたという。
- 米DIGIDAYは、エコノミスト・グループ(Economist Group)のビジネス部門、エコノミスト・インパクト(Economist Impact)の社長兼マネージングディレクターであるクラウディア・マレー氏にも話を訊いている。同氏によると、エコノミスト・グループでは、エコノミスト・インパクトから派生して9月29日に発足した、サステナビリティ・プロジェクト(Sustainability Project)に関連して、6〜7桁規模の複数年契約をいくつも獲得しているという。
BBC
BBCのサッチシッキー氏は、ここ数カ月で広告主からの気候変動に関する依頼が、具体的にどのくらい増加したかは明らかにしなかったが、「大幅な増加」だと述べている。たとえば、昨年ローンチしたBBCの気候変動と持続可能性を専門とするメディア、フューチャー・プラネット(Future Planet)では、現在スコティッシュ・ディベロップメント・インターナショナル(Scottish Development International)がスポンサーを務める連載、「カーボンコスト(Carbon Cost)」が展開されている。この連載では、11月にスコットランドのグラスゴーで行われた、国連気候変動会議(COP 26)で交渉された最重要課題のいくつかについて、特集が組まれている。また、ウォルマート(Walmart)は、パリ協定調印後の9カ国の気候変動の進捗状況を取り上げるシリーズ、「ネットゼロに向けて(Towards Net Zero)」に協賛している。また、コルテバ・アグリサイエンス(Corteva Agriscience)がスポンサーを務める、食の安全保障に関するふたつの特別エピソードのうちのひとつ、「食べ物を追う:ザ・カーボン・チャレンジ(Follow the Food:The Carbon Challenge)」は、BBC.comとBBCワールド・ニュース(BBC World News)で10月30日に放送された。
ブルームバーグ
ブルームバーグ・メディア(Bloomberg Media)のグローバル最高マーケティング責任者、アン・カワラースキー氏によると、ティファニー(Tiffany)、ラルフ・ローレン(Ralph Lauren)、ゼネラルモーターズ(General Motors:GM)などのブランドが、同社のクライアントになることは「通常はない」という。しかしこれらの広告主は昨今、気候と持続可能性に関するリーダーシップについてのコンテンツを求めて、ブルームバーグに出稿するようになっているという。ブルームバーグ・グリーンは、ブルームバーグ・メディア全体でのより多くのパートナーシップの機会を生み出していく、切り込み隊長的な存在になると彼女は述べる。たとえば、GMはブルームバーグ・グリーンの「プレミアパートナー」となっている。プレミアパートナーとは、同社が広告主に販売するスポンサーカテゴリーのひとつ(同社はカテゴリーそれぞれの具体的な価格は明らかにしなかった)。なおGMは、COP26関連のアクティベーションのスポンサーシップにも、その関わりを拡大させるという。そのほかのブルームバーグ・グリーンのキャンペーンやパートナー契約は、ブルームバーグ・シティラブ(Bloomberg CityLab)、ブルームバーグ・ウェルス(Bloomberg Wealth)、ブルームバーグ・エクオリティ(Bloomberg Equality)といったほかの専門コンテンツにも広がっている。
カワラースキー氏によると、気候変動関連のコンテンツは、同社のサブスクリプション事業においても、もっともコンバージョン率の高いカテゴリーのひとつなのだという。気候関連の記事を読んでいる人は、同サイトにおける他分野のコンテンツに比べ、有料購読者に転向する可能性が高い。ちなみに、ブルームバーグのアクティブ会員数は2021年上半期に34%増加し、32万5000人以上に達した。
FT
前出のスペイン氏によると、FTに寄せられる依頼には、クライメイト・キャピタル(Climate Capital)やモラル・マネー(Moral Money)といった、特定分野のコンテンツに対するエディトリアル・スポンサーや、高級品や金融といった分野のブランデッド・コンテンツなどがあるという。また、FTは11月1日に「気候変動の管理(Managing Climate Change)」に関する24ページの特別報告書を発行する予定で、これは「広告収入という点では、FTのここ数十年において、最大規模のレポートコンテンツになるだろう」とスペイン氏は述べる。ただ同社は、その具体的な金額については明らかにしていない。
「マーケターは、環境に配慮した消費者にアピールしようとしている」とスペイン氏。「こうした優先事項を、従業員やパートナー企業、株主に示すことは、消費者に対するマーケティング活動と同じくらい重要になっている」。
グループ・ナイン
グループ・ナイン・メディアの最高収益責任者、ジェフ・シラー氏によると、同社ではサステナビリティに関するコンテンツは「企業責任に関連する」ため、ほとんどのブランドのセールス、およびマーケティングチームにとって「最重点分野」に定められているという。広報担当者は、これを同社にとって「大きな収益源」であると述べたが、具体的な収益額は明かさなかった。
「私がシニア・マーケターたちと交わす会話の大半は、持続可能性に関するものだ」とシラー氏。さらに同氏は、持続可能性に関するコンテンツは、「2022年のナウディス(NowThis)の成長を加速させてくれるだろうと、大いに期待している」と述べた。ナウディスは、グループ・ナイン・メディアが所有するメディアだ。
シラー氏によると、気候変動や持続可能性に関するコンテンツに関心のある広告主は、主にナウディスのエディトリアル・スポンサーになる機会を求めているという。ただ、その具体的な露出の仕方は、ビデオエピソード内の「〜の提供でお送りしました」とのスポンサー表示から、ロゴ掲載まで多岐にわたる。なお、こうした広告主のほとんどは、コロナ(Corona)のような消費財ブランドだが、なかには金融や通信分野の企業も含まれているという。
エコノミスト
エコノミスト・インパクトのサステナビリティ・プロジェクトは、石油・ガス企業のBP(ビーピー)、ITサービス企業のインフォシス(Infosys)、農業化学企業のコルテバ、海運・運送の非営利団体である公益財団法人日本財団(The Nippon Foundation)との大規模契約を獲得している。広告主各社は、同プロジェクトが抱える世界中の約100人のアナリスト、研究者、エコノミストからなるチームが行う独立研究に資金を提供する。なお、そこで得られた研究結果は、エコノミスト・グループのネットワークにおけるブランデッド・コンテンツ、データ視覚化、イベントなどのスポンサーシップ事業で活用されるという。
「広告主がイベントのスポンサーになったり、我々と共同でひとつの研究を行うなど、新聞に広告を掲載してもらう代わりに、我々は長期的な視点に立ったビジネスを設計・展開している。我々が提供するもののなかに、1度限りのプロジェクトだけで終わるものはない」とマレー氏は語る。
バイサイドの視点
広告代理店のフィッツコ(Fitzco)でプランニングを担当するグループ・ディレクターのミシェル・チョン氏は、「持続可能性と気候変動に関連するビジネスチャンスが、著しく増加している」と述べる。
しかしフィッツコでは、これは一部のクライアントに限った話のようだ。「この種のコンテンツに適合性があるクライアントたちにとっては、スポンサーシップの選択肢が増えることは間違いない」と同氏は述べた。
マインドシェア(Mindshare)のグローバル最高トランスフォーメーション責任者、オリバー・ジョイス氏は、持続可能性に関する「クライアントの需要が大幅に増加」しているのは、次の三つの分野への、企業のコミットメントに関係するものだという。それは「ネットゼロ目標」「マーケティングとメディア・サプライチェーン全体での炭素削減」、持続可能性に対するオーディエンスからの需要の高まりに応えるための「実行可能な提案のコミュニケーション」だ。なおジョイス社によると、現在、新規ビジネスの情報提供依頼(RFI)の90%以上が、サステナビリティに関するリクエストなのだという。
[原文:Publishers are seeing increases in advertiser requests around climate and sustainability coverage]
SARA GUAGLIONE(翻訳:塚本 紺、編集:村上莞)