現在、ローカルメディアは米国民にとって重要な情報源になっている。そのことに、Axiosやトリビューン・パブリッシング、ガネット傘下のUSAトゥデイ・ネットワークといったパブリッシャーたちは気付いた。
2020年、ほとんどの米国人は、新型コロナウイルスのパンデミック、人種差別や政治的暴動といった社会問題で、頭のなかがいっぱいだったことだろう。これらは、米国社会の分断をもたらした一方、国をひとつにまとめる可能性も秘めている。
だがこうした社会問題にまつわる出来事すべてを、全国紙が扱えるわけではない。そのため現在、ローカルメディアは米国民にとって重要な情報源になっている。そのことに、Axios(アクシオス)やトリビューン・パブリッシング(Tribune Publishing:以下、トリビューン)、ガネット(Gannet)傘下のUSAトゥデイ・ネットワーク(USA Today Network:以下、USAトゥデイ)といったパブリッシャーたちは気付いた。彼らは2020年から2021年にかけて、より多くの資金を投入し、全国的に重要だと思われるニュースをローカルレベルに落とし込んで報道することに、チャンスを見出し、ジャーナリズムの責任を果たそうとしている。
AxiosのCEO、ジム・バンデヘイ氏は2021年1月上旬、同社の新たな「ビル・オブ・ライツ(Bill of Rights:イギリス名誉革命において制定された、王権の制限、議会の権限を定めた重要文書を意味する言葉)」のなかで、読者との10の約束のひとつとして、「ローカルジャーナリズムの復興」をあげた。
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「スマートで簡潔なスタイル」のニュースレターで知られるAxiosは2020年、米国の中規模都市への進出を開始し、アイオワ州デモイン、フロリダ州タンパベイ、ミネソタ州ミネアポリスでふたりずつ記者を採用。さらに12月には、ノースカロライナ州に拠点をおくシャーロット・アジェンダ(Charlotte Agenda)を買収したほか、2021年はコロラド州デンバーでも記者を採用する予定だという。
「我々はこれまで、まずは主要都市をカバーしなければならないという必然性から、ワシントンDC、ニューヨーク、西海岸に偏重していた」と、Axios Localの開発に深く関わってきた、エグゼクティブエディターのサラ・グー氏はいう。
「創業から5年目を迎えるいまこそ、ローカルコミュニティやジャーナリズムの支援を、スタートするときだ。そこでもっとも重要なのは、ローカルジャーナリズムを支える、新たな収益化モデルを考案することだろう」。
点と点を結ぶ存在に
グー氏は、現在ローカルジャーナリズムが財政難にあえいでいる原因は、「多くのレガシーメディア企業が、市場の変化にあわせて、収益モデルを多様化してこなかったことにある」と指摘する。Axiosの強みは、読者ファーストの視点でローカルジャーナリズムを収益化できる点にあるという。
Axiosは全国的なブランドでありながら、ニュースレター、ポッドキャスト、HBOシリーズなど、複数の収入源を生み出してきた。グー氏のチームは、これらをローカルメディアにも波及させたいと考えているようだ。加えて、Axios Localがカバーするすべてのニュースは、ブランドの一貫性を保つために「スマートで簡潔」なスタイルで届けられる。
「ローカルコミュニティに影響を与える全国的なメディア」という、いわば「点と点を結ぶ存在になること」と共に、「ワシントンDC、ニューヨーク、カリフォルニア以外の地域から発信される記事を読者に届ける」ことを楽しみにしていると、グー氏は語る。
大幅な人員増強
2020年、全米で吹き荒れた人種差別、政治的な暴動に関するニュースは、ローカルコミュニティに大きな影響を及ぼした。数十年にわたってローカルジャーナリズムを実践してきたレガシーパブリッシャーたちは、これらを取り上げるため、より多くのリソースを投資しなければならないという切迫性と、重責を感じていたという。
彼らはなかでも、社会的、人種差別的不正に対しては、より多くの熱量と取材力をもって報道しようと考えている。
たとえば、全米260の街と地域に支局とローカルメディアを有する、ガネット(Gannett)傘下のUSAトゥデイは、人種問題と平等性に関する報道を強化する予定だ。プレジデントを務めるマリベル・ペレス=ワズワース氏は、60人の編集部員を新規採用、または転属させると宣言している。なお、このうち3分の1はUSAトゥデイに、残りはローカルの報道局に配属されるという。
「我々にとって昨年は、ローカルジャーナリズムの重要性が証明されたともに、自らが負っている多大な責任を再認識した年になった」と、ペレス=ワズワース氏は話す。「我々は、これまでと同じやり方で取材を続けるつもりはない」。
「不正」問題にフォーカス
また、ハートフォード・クーラント(The Hartford Courant)紙の発行人で、編集長も務めるアンドリュー・ジュリアン氏は、全国規模の話題がコネチカット州のコミュニティに与える影響を、より広範囲に取り上げることに力を入れていると話す。
「問題の多くは、主要都市で起きている」と、ジュリアン氏はいう。「ローカルジャーナリストは、全国規模のニュースを掘り下げ、ワシントンやCDC(Centers for Disease Control and Prevention:米国疾病予防管理センター)で何が起こっていて、それがハートフォードという地にどう関係するのか、コミュニティに説明する必要がある」。
ただ同社では、USAトゥデイのように専門の記者チームを採用するのではなく、報道全体の方向性を「不正」に焦点を絞る方向を選んだと、ジュリアン氏は述べる。実際同社では、日々報道される記事のすべてに、不正というテーマにつながる1文の記述を義務付けるなど、この方向性が最優先事項であることを、記者に意識させているという。
厳しい現実も
ローカルメディア各社の2020年における最終損益は、厳しいものだった。しかし彼らは、取材力を強化し続けるためにも、資金調達の柔軟な方法を見つけ出さなければならない。
また、記者に対して、職務上必要な安全対策とツールを提供することも必要不可欠だ。とりわけ2021年1月6日の議会占拠事件から、大統領就任式に至るまでの期間において、それは非常に重要だったと、ペレス=ワズワース氏とジュリアン氏は話す。
前述したガネットのペレス=ワズワース氏は、第一線で活躍する記者を守るため、警備員を雇うことに「費用を惜しまなかった」と語る。
サブスクリプションモデルへの期待
またペレス=ワズワース氏によると、ガネットは現在、サブスクリプションを主要収入源にするための改革に取り組んでいるという。「サブスクリプションビジネスがうまくいけば、プロダクト、つまりコンテンツ作りに集中できる」と同氏は述べ、それがジャーナリストと報道に勢いをもたらすと主張した。
2020年第3四半期の収益報告書によると、ガネットのデジタルのみの購読者は同期、はじめて100万人を突破。前年同期比で31%増となった。
一方、発行売上は前年同時期比で13.2%減の3億3620万ドル(約349億円)で、紙面広告の売上も30.9%減の2億820万ドル(約216億円)、デジタル広告売上は13.5%減の1億2130万ドル(約126億円)と、軒並み低下ししている。
また、前述したトリビューンの2020年第3四半期の総売上は、収益報告書によると前年同期比で約20%減の1億8870万ドル(約196億円)。しかし、同期における、デジタルのみの購読者は42万7000人に達し、売上は前年同期を510万ドル(約5億2900万円)、比率にして67.4%上回った。トリビューンは、メディアごとのデジタル購読者数を明らかにしていないが、ジュリアン氏は「サブスクリプションもまた今年の大きなテーマのひとつである」と述べた。
リテンション施策が大事
シンクタンクのアメリカン・プレス・インスティチュート(American Press Institute)で、読者売上部門ディレクターを務めるグウェン・バーゴ氏によると、トリビューンやガネットと同様、同社と提携するパブリッシャーの多くは、サブスクリプション推進を収益面での重点課題にしているという。
バーゴ氏は、低価格な試用期間を設け、ファネルの上部に購読者を集めることが、サブスクリプション事業を成長させる確実な戦略だと考える企業は多いが、「重要なのは、読者との関係構築であり月あたりの新規購読者数ではない。前者をしっかり推進すれば、リテンションにつながる」と述べた。
[原文:‘Connect the dots’: Why publishers are investing in local media to round out big national stories]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:村上莞)
Illustrated by IVY LIU