トラッキング制限 で危機に面した、米・媒体社のアフィ事業

ブラウザのプライバシー保護圧力によって危機にさらされているのはパブリッシャーの広告事業だけではない。AppleのSafariやMozillaのFirefoxが、Cookieへの締め付けを強めるなか、アフィリエイト事業に与えうる影響についても不安感が増している。

アフィリエイト事業を展開するパブリッシャーは、アフィリエイトネットワークを通じて何千という小売業者の商品を販売し、その売上の分け前にあずかる。パブリッシャーの消息筋によると、このビジネスモデルがいま、無防備な状態で危険にさらされているという。

ユーザー特定の新しい手段

通常、アフィリエイトパブリッシャーは、みな自社のサイトに広告主または小売業者へのアフィリエイトリンクを貼り、それによって収入を得ている。そして、このリンクがアフィリエイトネットワークのアドサーバへ転送される過程で、サードパーティのCookieが落とされる。ブラウザがサードパーティのCookieをブロックすると、パブリッシャーと小売業者の間でユーザーを追跡することができなくなり、小売業者が売上に寄与したパブリッシャーを特定できなくなってしまう。結果、パブリッシャーは本来受け取るべきコミッションを受け取れない。さらに、AppleがファーストパーティCookieの有効期間をわずか24時間に短縮したことも、アフィリエイトパブリッシャーにとっては頭の痛い問題だ。アフィリエイト商材のなかには、購入の際に長い検討期間を要するものもある。ユーザーを追跡できなければ、売上に対するパブリッシャーの寄与も追跡できない。

向かう先は明らかで、パブリッシャーもさらなる規制強化を前に手を打つ構えを見せている。だが、自社のサイト上のユーザーを何か別の手段で特定しようという彼らの模索ははじまったばかりだ。新聞社のイーエスアイメディア(ESI Media)、雑誌社のティーアイメディア(TI Media)、ショートリスト(Shortlist)などは、いずれもアフィリエイト事業を展開しているパブリッシャーだが、サードパーティのCookieに頼らない、ユーザー特定の新しい手段をいまようやく探しはじめたところである。

「トラフィックと収益は増えているが、適切なレベルで増えているのか分からない。適切なトラッキングが出来ていないからだ」と、マリクレールエディット(Marie Claire Edit)のeコマースディレクター、エミリー・ファーガソン氏は言う。マリクレールエディットは2018年11月に同誌が立ち上げたアフィリエイトプラットフォームである。「これで競合より一歩先を行きたいところだ」。

24時間という有効期間

ファーガソン氏によると、マリクレールエディットのトラフィックは年平均で675%も伸びている。この成長率の高さからもともとの数字が小さかったと想定できるが、トラフィックの具体的な数量は開示されなかった。一方で、このトラフィックの半数はAppleのSafariブラウザから来るものだ。Safariブラウザは先ごろ、インテリジェント・トラッキング・プリベンション(Intelligent Tracking Prevention:ITP)機能をバージョン2.2に更新し、ファーストパーティCookieの有効期間を7日から1日に短縮した。アウィン(Awin)のチーフオペレーティングオフィサー(COO)のアダム・ロス氏によると、マリクレールエディットのようなパブリッシャーの場合、購入が発生するのはたいてい下調べやレビューの確認から24時間を経過してからだという。

「24時間という有効期間は十分でない。たとえユーザーが記事やレビューに触発され、広告主のサイトで商品を購入しても、我々のテクノロジーはその経緯を追跡できない」と、ロス氏は言う。「これでは、パブリッシャーは本来受け取るべきコミッションを受け取れない」。

広告業界も同様で、パブリッシャーが自社のファーストパーティCookieを活用し、サードパーティCookieに頼らないユーザーの特定方法を模索しており、いくつかのソリューションが登場している。

劇的な変化は見定めにくい

先週、マリクレールエディットはアウィンのテクノロジーの運用を開始した。これにより、パブリッシャーのCookieや、ネットワークのアドサーバ経由のリダイレクトを使わずに、トラッキングができるようになった。リンクはパブリッシャーから広告主に直接送られ、トラッキングの部分は広告主サイドで処理される。さらに、ファーストパーティCookieの有効期間も24時間から30日に延長された。ただし、パブリッシャーと広告主の双方がアウィンのタグを設置する必要がある。

しかしいまのところ、問題の規模を数値化するのはいくつかの理由で難しい。パブリッシャーがアフィリエイト事業で得る収入は、通常、広告収入より小さく、劇的な変化は見定めにくい。SafariとFirefoxの規制強化にしても、対象となるブラウザは最新バージョンのみで、それ以外のブラウザや古いバージョンから発生するトラフィックは影響を受けない。マリクレールエディットが比較に必要なデータを確保し、トラッキング制限がトラフィック、コンバージョン、収益に及ぼす影響を評価できるようになるまで、数カ月はかかるだろう。

10月中旬、オンラインパブリッシャー協会(Association of Online Publishers)がロンドンでアフィリエイト事業に関するイベントを主催したおり、登壇したショートリストのジェネラルマネジャー、ポール・カンリフ氏はこう述べた。「アフィリエイト業界でこの話が出るのは、私がこの話を切り出すときだ」。

「必要なデータはほかより少ない」

ブラウザの変更によって大きな打撃を受けているパブリッシャーは、広告収入の回収やオーディエンスを特定する新たな手段の模索などに優先的に取り組んでいる。一方、アフィリエイトに関しては、ブラウザの変更が段階的であること、もともとの数字が小さいことから、対応が遅れがちだ。だが、迫り来るプライバシー保護規制と継続的なトラッキング制限を背景に、状況は変わりつつある。

もうひとつ別の理由として、アフィリエイト事業でのデータ活用が広告に比べて新しいことが挙げられる。オーディエンスのセグメンテーションなど、デジタル広告ではすでに一般的なプロセスが、アフィリエイト事業ではまだ十分に確立されていない。たとえば、一部のアフィリエイトパブリッシャーのあいだでは、消費者心理を追跡し、明るい記事または暗い記事を購入データに関連付ける試みがはじまっている。

「購入に至る道筋を追跡するのに必要なデータは、ほかのチャネルよりはるかに少ない」と、ロス氏は言う。「アフィリエイトはもともと、大量のデータを使わない、プライバシーに敏感な事業であり、だからこそブラウザによる追跡防止の影響を受けないソリューションを構築できるだろう」。

Lucinda Southern(原文 / 訳:英じゅんこ)