強力な技術チームを抱えるパブリッシャーでも、依然としてテクノロジースタックにたくさんのベンダーが入り込んでいる。開発した製品の管理と修正のためにエンジニアにお金を払うのがいやで、不具合があればいつでもすぐに修正してくれるリソースが欲しいというのだが、それ以外にも、理由はあるようだ。
パブリッシャーのアドテクベンダー依存は、やめるのが難しい習慣だ。
ベンダーが売上を侵食し、ページの読み込みも遅くしていることから、パブリッシャーたちは、ベンダーをぜひとも追放して、自社のテクノロジースタックをもっと強力にコントロールしたいと考えている。しかし、サードパーティに代わる独自製品を開発可能な強力な技術チームを抱えるパブリッシャーでも、依然としてテクノロジースタックにたくさんのベンダーが入り込んでいる。開発した製品の管理と修正のためにエンジニアにお金を払うのがいやで、不具合があればいつでもすぐに修正してくれるリソースが欲しいというのが、その理由だ。
パブリッシャーのあるプロダクト責任者は、なぜアドテクの一部をアウトソースするのかと問われて、「何かが失敗したときに、締める首が必要なことがある」と、匿名で語る。
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中核事業に基づく判断
アドテクを自社開発するかどうかを決める際、パブリッシャーは自社の中核事業に基づいて判断をする。インターネット調査企業コムスコア(comScore)の調査でトップ100に入っている、動画に注力しているパブリッシャーの関係者によると、このパブリッシャーは動画ベンダーのブライトコーブ(BrightCove)とネイティブ広告ベンダーのシェアスルー(Sharethrough)に代わる製品を開発したが、これは、ネイティブ広告と動画がこのパブリッシャーのビジネスモデルの大部分を占めていることと、動画とネイティブ広告は成長の一途だと見ているため長期的に投資の元が取れると判断したからだという。一方で、このパブリッシャーはディスプレイインベントリー(在庫)のためのアドサーバーの独自開発は断念した。
「独自サーバーの開発をうちはできるのか? もちろんできる。しかし、変化しやすいビジネスで、私は関わりたくない。広告配信はGoogleに譲ろう」と、この人物は語った。
このパブリッシャーは動画ベンダーを置き換えたわけだが、売上を動画に依存していないパブリッシャーは、内製化する技術的能力があっても、自社製プレイヤーに投資するインセンティブがほとんどない。カフェメディア(CafeMedia)とアウトサイド・マガジン(Outside Magazine)の関係者によると、両者がJWプレイヤー(JW Player)やウーヤラ(Ooyala)といった動画ベンダーを使い続けているのはそれが理由だという。
スケールメリットの恩恵
また、1社のパブリッシャーだけでは実現できないスケールメリットの恩恵を受けるアドテクベンダーもいる。テクノロジー系パブリッシャーのパーチ(Purch)では、社内の技術チームが独自のサーバー・トゥ・サーバー製品を開発しており、プログラマティックインベントリーをサーバー側で販売する際にはすべてこの製品を使っているが、これはパブリッシャーとしてはまれな例だ。
しかし、そんなパーチでも、アド・ライトニング(Ad Lightning)やメディア・トラスト(Media Trust)といった、問題広告を検出するサービスは続けている。パーチの最高技術責任者(CTO)ジョン・ポッター氏によると、これらのベンダーは、いくつものクライアントで何十億というインプレッションを分析し、その学習によって洗練された検出を実現しているのだという。
ほかに、広告主の要望ゆえに避けられないベンダーもある。ワシントン・ポスト(The Washington Post)は、かつて一緒に仕事をしていたアドサーバー、広告ビルダー、ネイティブ広告、および動画ベンダーに代わる独自の広告製品を開発したが、多くの広告主を集めるため、アドエクスチェンジ、プログラマティックのプラットフォーム、および検証のベンダーはいまも利用している。
コストも重要な観点だが
内製化の壁はいろいろとあるが、パブリッシャーの技術リソースに限りがあり、長期的に大きなコスト削減と増収につながるのでない限り、製品の維持費を払い続けたくないというのが一番大きい。あるパブリッシャーのエンジニアが匿名で次のように語ってくれた。このエンジニアは、パブリッシャーとブランドがユーザー生成コンテンツ(UGC)のキュレーションや投稿に使っているプラットフォーム、ライブファイア(LiveFyre)のようなベンダーに取って代われるツールを開発した。このエンジニアの推計では、年間約7万5000ドル(約830万円)のベンダー報酬の削減になるという。
「ただ、私の給料とサーバーの費用を払わなければならないので、実際のところ最終的にコスト削減になるのかはわからない」と、このエンジニアは語った。
同様に、カフェメディアでも、オペラティブ(Operative)のようなアドテク企業を使わずに済ませる独自のレポーティングツールを開発した。この社内ツールはアドテク税の削減に役立っているが、数週間前、アドサーバーからのデータ抽出に問題が生じ、数名のウェブ開発者がこの問題の修正に数日間を費やすことになった。
「ベンダーにお金を払っていたら、こんな心配は必要なかった」と、カフェメディアのエグゼクティブバイスプレジデント、ポール・バニスター氏は認めた。
エンジニアのプライド
パブリッシャーと仕事をしている独立系のテックアドバイザー、ベン・ジャクソン氏は、パブリッシャーのクライアントのほとんどに、独自アドテクの構築は避けるように助言していると語った。製品の開発は数年かかることがあり、それまでに市場が変化しているからだという。
さらに、あるパブリッシャーのトップエンジニアが、自分のチームが製品構築のゲームにわずかしか足を踏み入れていないもうひとつの理由を、匿名を条件に教えてくれた。このエンジニアは、次のように説明する。
「我々は、自分たちは最高の製品を作るのだと考えたいものだし、チームのエンジニアたちには自信を持っていてほしいので、そういう考え方を奨励したい。ただ、現実はそうではないことを私は知っている。何かを作れば、おそらく市場には、すでにもっとすぐれた製品が存在しているだろう」。
Ross Benes (原文 / 訳:ガリレオ)
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