低迷が続いていた広告業界に、ようやく「トンネルの終わりの光明」が見えてきた。複数のパブリッシャーの最高収益責任者(CRO)によると、一部の突出したカテゴリーで広告収入が前年比減から前年比増に転じたという。
2023年の最初の7カ月は、ITや金融を含む多くの広告カテゴリーでマーケティング予算の縮小に悩まされたが、シリコンバレー銀行の破綻やIT業界で相次いだ人員整理など、広告主が財布の紐(ひも)を緩められない状況も落ち着きつつある。
これまでのところ、2023年下半期にもっとも好調な広告カテゴリーには、自動車、旅行、ファッション、高級品、美容などが含まれる。その反面、ITと金融は依然弱含みで、エンターテインメントは脚本家と俳優たちのストライキのおかげで失速は避けられない見通しだ。
下半期は上半期よりも上向くか
広告費の推移を追跡するメディアレーダー(MediaRadar)の調べによると、2023年初月から7月31日までに支出されたデジタル広告費は前年同期比7%減の360億ドル(約5兆2965億円)だったという。この金額は、ディスプレイ、ストリーミング、動画、ポッドキャスト、ソーシャルそのほかのチャネルを含む総額だ。なお、前年同期の広告支出総額は386億ドル(約5兆6793億円)だった。
第3四半期現在、クライアントから比較的前向きな声が聞かれることから、パブリッシャーたちは下半期は上半期よりも広告費が上向くだろうと期待を寄せる。ロイター(Reuters)のエリック・ダネッツCROも、「出口の明かりが見えてきた。明かりの強さは未知数だが、好転の兆しであることは間違いない」と述べている。
BDGのプレジデントでCROを兼務するジェイソン・ワーゲンハイム氏によると、美容、自動車、宝飾品、時計、医薬品、蒸留酒の各カテゴリーで広告費の2桁成長を経験しているという。その反面、「アメリカンファッション、小売、CPG、ITなど、従来ならBDGの取引量の非常に大きな部分を占める、より成熟したカテゴリーのなかには、困難を抱えている部門もある」と話し、この分野では前年の成長率には届かないことを認めた。
ヴォックスメディア(Vox Media)のジェフ・シラー氏もITと金融の軟調を指摘する。一方で、ライフスタイルブランドの「ザ・カット(The Cut)」のおかげで、消費財、蒸留酒、自動車、旅行、ラグジュアリー部門では広告費の増加が見られるという。
広告支出が増えているカテゴリー
メディアレーダーのデータが示す年初7カ月間のデジタル広告費の推移は、両氏の感触とはやや異なる。2023年1月1日から7月31日までに支出された、Webサイト、OTT、ポッドキャスト、ソーシャルプラットフォーム、YouTubeを含むデジタル形式の広告費を見る限り、CPGの広告費は前年同期比11%増、自動車は同18%増、ファッション(高級品を除く)は同3%増だったのに対し、美容は前年同期比9%減、旅行は同12%減、蒸留酒は同26%減となっている。
ヴォックス同様に、BDGでもラグジュアリーが好調のようだ。ワーゲンハイム氏によると、この好調を背景に、2023年上半期には活字版「W」の広告費が前年比2桁増を記録したという。同様に、コンデナスト(Condé Nast)のグローバルCROを務めるパメラ・ドラッカー・マン氏も、ラグジュアリーとファッションがコンデナストにとって世界的に「著しい成長分野」であると認めている。しかし、今夏のラグジュアリー部門の業績は米国での個人消費の底入れを示すとの指摘もある。
ドラッカー・マン氏は、「自動車部門には著しい回復が認められるが、それは昨年同期の低迷が主な原因でもある。今年後半にとどまらず、2024年のプランニングも昨年よりはるかに高い水準にあるが、それとても本来あるべき水準に戻りつつあると見るべきだろう」と話す。
メディアレーダーのデータによると、2023年1月1日から7月31日までにラグジュアリー部門で支出されたデジタル広告費は前年同期から15%増えて、総額で4億8400万ドル(約712億)だった。このうち、アパレルとアクセサリー、自動車、美容が89%を占める。
低迷が続いていた広告業界に、ようやく「トンネルの終わりの光明」が見えてきた。複数のパブリッシャーの最高収益責任者(CRO)によると、一部の突出したカテゴリーで広告収入が前年比減から前年比増に転じたという。
2023年の最初の7カ月は、ITや金融を含む多くの広告カテゴリーでマーケティング予算の縮小に悩まされたが、シリコンバレー銀行の破綻やIT業界で相次いだ人員整理など、広告主が財布の紐(ひも)を緩められない状況も落ち着きつつある。
これまでのところ、2023年下半期にもっとも好調な広告カテゴリーには、自動車、旅行、ファッション、高級品、美容などが含まれる。その反面、ITと金融は依然弱含みで、エンターテインメントは脚本家と俳優たちのストライキのおかげで失速は避けられない見通しだ。
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下半期は上半期よりも上向くか
広告費の推移を追跡するメディアレーダー(MediaRadar)の調べによると、2023年初月から7月31日までに支出されたデジタル広告費は前年同期比7%減の360億ドル(約5兆2965億円)だったという。この金額は、ディスプレイ、ストリーミング、動画、ポッドキャスト、ソーシャルそのほかのチャネルを含む総額だ。なお、前年同期の広告支出総額は386億ドル(約5兆6793億円)だった。
第3四半期現在、クライアントから比較的前向きな声が聞かれることから、パブリッシャーたちは下半期は上半期よりも広告費が上向くだろうと期待を寄せる。ロイター(Reuters)のエリック・ダネッツCROも、「出口の明かりが見えてきた。明かりの強さは未知数だが、好転の兆しであることは間違いない」と述べている。
BDGのプレジデントでCROを兼務するジェイソン・ワーゲンハイム氏によると、美容、自動車、宝飾品、時計、医薬品、蒸留酒の各カテゴリーで広告費の2桁成長を経験しているという。その反面、「アメリカンファッション、小売、CPG、ITなど、従来ならBDGの取引量の非常に大きな部分を占める、より成熟したカテゴリーのなかには、困難を抱えている部門もある」と話し、この分野では前年の成長率には届かないことを認めた。
ヴォックスメディア(Vox Media)のジェフ・シラー氏もITと金融の軟調を指摘する。一方で、ライフスタイルブランドの「ザ・カット(The Cut)」のおかげで、消費財、蒸留酒、自動車、旅行、ラグジュアリー部門では広告費の増加が見られるという。
広告支出が増えているカテゴリー
メディアレーダーのデータが示す年初7カ月間のデジタル広告費の推移は、両氏の感触とはやや異なる。2023年1月1日から7月31日までに支出された、Webサイト、OTT、ポッドキャスト、ソーシャルプラットフォーム、YouTubeを含むデジタル形式の広告費を見る限り、CPGの広告費は前年同期比11%増、自動車は同18%増、ファッション(高級品を除く)は同3%増だったのに対し、美容は前年同期比9%減、旅行は同12%減、蒸留酒は同26%減となっている。
ヴォックス同様に、BDGでもラグジュアリーが好調のようだ。ワーゲンハイム氏によると、この好調を背景に、2023年上半期には活字版「W」の広告費が前年比2桁増を記録したという。同様に、コンデナスト(Condé Nast)のグローバルCROを務めるパメラ・ドラッカー・マン氏も、ラグジュアリーとファッションがコンデナストにとって世界的に「著しい成長分野」であると認めている。しかし、今夏のラグジュアリー部門の業績は米国での個人消費の底入れを示すとの指摘もある。
ドラッカー・マン氏は、「自動車部門には著しい回復が認められるが、それは昨年同期の低迷が主な原因でもある。今年後半にとどまらず、2024年のプランニングも昨年よりはるかに高い水準にあるが、それとても本来あるべき水準に戻りつつあると見るべきだろう」と話す。
メディアレーダーのデータによると、2023年1月1日から7月31日までにラグジュアリー部門で支出されたデジタル広告費は前年同期から15%増えて、総額で4億8400万ドル(約712億)だった。このうち、アパレルとアクセサリー、自動車、美容が89%を占める。
ITおよび金融部門の見通し
ドラッカー・マン氏によると、コンデナストの営業部門では、年末商戦で消費者向け製品のマーケティング活動が活発化するため、第4四半期、さらには2024年に向けてITの広告費は回復するものと楽観している。金融部門も回復軌道に乗っており、「2024年に向けたプランニングとフォーカスという観点で大きな改善が見込める」と同氏は付け加えた。
メディアレーダーの調べによると、2023年の上半期7カ月間における金融部門のデジタル広告費は前年同期比で24%の大幅減となり、30億ドル(約4413億円)から22億ドル(約3236億円)に落ち込んだ。IT部門の広告費も前年同期比18%減で、53億ドル(約7797億円)から43億ドル(約6325億円)に減少している。
ロイターのダネッツ氏は「金融部門は回復しつつある」との見方を示しており、2023年下半期に入り、すでに支出増が見られると指摘している。ただし、同氏はこの傾向について、金融カテゴリー全般の広告費増というよりも、ロイターのB2B読者の貢献によるところが大きいと見ている。
ダネッツ氏は米DIGIDAYのポッドキャストでこう述べている。「米国で景気後退に対する懸念が薄れていることから、戦略的な広告投資が市場に戻ってきている。我々は世界中の金利の変動に注目している。米国以外では付随的な影響にとどまるかもしれないが、我々の読者は金利に直接的な関心を持っており、こうした人々にリーチしたいブランド広告主がいる」。
エンターテイメントという時限爆弾
第3四半期半ば現在、前述のパブリッシャー各社の話によると、いまのところエンターテインメント部門の広告費は、現在進行中の俳優と脚本家のストライキから大きな影響は受けていないという。しかし、ストライキが収束しない限り、新しい番組や映画の制作は遅れを余儀なくされる。パブリッシャー各社はこのストライキには波及効果があり、来年には映画スタジオや動画配信サービスのマーケティング予算が、新番組の宣伝費を含め、縮小に向かうだろうと見ている。
とはいえ、現在のところ、エンターテインメント部門に広告費の大幅な前年比減は見られない。
ドラッカー・マン氏はこう話す。「実際には、大手のエンターテインメント企業は新作のコンテンツをあの手この手で売り込もうとしている。なかには制作が相当に進捗している作品もあるようだ。脚本家と俳優のストライキは2024年には業界全体に重大な影響を及ぼす可能性もあるが、さしあたり、今年はそれほど大きな影響はないと思う」。
様子見の状態が続く
一方、メディアレーダーの調べでは、2023年上半期にエンターテインメント部門で支出されたデジタル広告費の総額は前年同期比9%減で、金額にして80億ドル(約1兆1767円)から73億ドル(約1兆737億円)に減少したと報告している。
第4四半期には、ヴォックスメディアの「ヴァルチャー(Vulture)」が主催するドル箱イベントの「ヴァルチャーフェスト(Vulture Fest)」が開催される。「ヴァルチャー」はアート、カルチャー、エンターテインメント中心のメディアだが、シラー氏によると、メディアやエンターテインメント分野での広告費の減少傾向をカバーするため、スポンサーはこの分野に直接関連する企業に限らず、幅広い業種から募るという。
シラー氏によると、「いまは様子見の状態だが、いまのところ、エンターテインメント部門からの広告費の流出は見られない」という。「パイロット番組や契約更新に関する限り、9月は極めて堅調だ。動画配信サービスの新規加入者獲得に関しても、特段の動きは見られない」。
[原文:Publisher CROs say auto, travel and luxury advertisers are leading the revenue rebound]
Kayleigh Barber(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)