読者たちの感情や気分に合わせて広告を表示する。そんな広告プロダクトをニューヨーク・タイムズ(The New York Times)やESPN、そしてUSAトゥデイ(USA Today)といったメディアが近年展開している。
読者たちの感情や気分に合わせて広告を表示する。そんな広告プロダクトをニューヨーク・タイムズ(The New York Times)やESPN、そしてUSAトゥデイ(USA Today)といったメディアが近年展開している。
USAトゥデイの場合、2016年にコンテンツをトピックとトーンに基づいてカテゴライズを開始。そして、それぞれのコンテンツがどのような感情を喚起するかを評価している。そして昨年、この知識に基づいたレンズターゲティング(Lens Targeting)と呼ばれる広告プロダクトの販売を開始した。USAトゥデイ・ネットワーク(USA Today Network)のコンテンツスタジオであるゲットクリエイティブ(Get Creative)の責任者でありシニアバイスプレジデントのケリー・アンダーセン氏によると、記事が呼び起こす感情と広告パフォーマンスの関連性を提示することが狙いだという。感動を与えるような記事を読んでいるユーザーをターゲットにした非営利団体の広告キャンペーンは、ターゲットしていない広告と比べると25%も高い寄付率を見せたという。
「RFPも徐々に増加を見せている。広告主はオーディエンスの性別や年齢といった属性ではなく、心理的な属性を求めている。この取り組みは外部団体から得ることができる数字ではなく、心理属性を見つけ出すためのステップのひとつだ」と彼女は言う。
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3社における試み
ニューヨーク・タイムズは今年初頭にプロジェクトフィールズ(Project Feels)というツールをローンチ。これを使うことで、広告主たちはコンテンツが呼び起こすと予想される感情に基づいて、広告のコンテンツターゲットを決定できる。
ESPNは試合中のユーザーたちの感情の動きに基づいて、デジタルコンテンツ上のスポーツファンたちをターゲットするツールに取り組んでいる。そしてそのノウハウをディズニーコンテンツにも適応しようと試みているという。ライブコネクト(LiveConnect)と呼ばれるこのツールは、ログインしたユーザーたちが提供するスポーツの好みと、試合の展開に応じたユーザーたちの気分に関するデータを組み合わせて、広告主たちの狙いへとつなげる。たとえば、ユーザーが応援しているチームが勝利したり、もしくは勝ち続けている場合に旅行といったお祝い気分にしてくれるジャンルの広告を見せる、といった具合だ。逆に、チームが負けている時は、そういった広告を表示しないという応用もできる。
「正しいタイミングで正しいメッセージを送ることができ、スケールできる手段を見つけようとしている」と語るのは、ESPNのシニアバイスプレジデント、広告プラットフォーム部門グローバルデータオフィサーであるヴィクラム・ソマヤ氏だ。「スポーツ関連には、さまざまなメッセージを送れるポテンシャルが潜んでいる。我々のビジネスは、人々にさまざまな感情を生む。消費者との取引において、さまざまに活用できる自社データをたくさん持っているのだ。活用しない手はない」。
本当に価値あるデータ
「(感情に基づいた広告販売は)多くのメディアプランナーたちが長年実現しようとしてきた。究極的にはデータセットがどれほど豊かかということによる。我々は常に、我々のメッセージを受け取る準備ができている人々を探しており、感情はその重要な要素のひとつである。非常に期待が持てる分野となっている。(年齢や性別といった)属性に基づいたターゲティングは、何もターゲティングをしないよりは良いという程度だ。ユーザーの行動に基づいたターゲティングは、それよりも良い。重要度の順番で並べれば、気分は行動よりも上になる」と、クレーマー・クラセルト(Cramer-Krasselt)のメディアアナリティクス部門エグゼクティブディレクター兼シニアバイスプレジデントであるクリス・ウェクスラー氏は言う。
あるメッセージを送るときに、受け取り側が準備ができているときを狙って送るという手法は、広告が生まれたときから存在している。しかし人工知能を使い、人々の気分をターゲットするというのは、はるかに巧妙な消費者操作であると言える。個人が特定できるデータや、収集目的が明かされていないデータを使いはじめると行き過ぎであると、パブリッシャーやエージェンシーたちは線引をしている。「より広告のターゲットとしてふさわしいオーディエンスを見つけることが我々のフォーカスであり、オーディエンスの気分をコンテンツを通して操作することではない」と、アンダーセン氏は言う。
ESPNのソマヤ氏も、公に公開されるべきではないと、人々が思っている情報は使わないと語った。健康や政治、性的指向などに関わるデータがそれだ。特にディズニーの家族向けコンテンツのオーディエンスを考えると当然だろう。ユーザーたちが自ら提供してくれる情報(たとえばどのスポーツに関心があるか、など)と比べると商業的な価値は、そもそもそれほど高くないと、彼は付け加えた。
機能することの証明
オーディエンスの気分に基づいたターゲティングがちゃんと機能すること、そして大規模なスケールで機能することを証明できるかどうかが最大の課題だ。パブリッシャーにおける広告販売で「ときおり」実現する程度である。パブリッシャーと密に協働し、ROIがどの程度であるべきかを見極め、分析して、さらに追加料金を支払う意志のあるクライアントが存在しないと実現しない。
エージェンシーたちはまた、その手法自体についてももっと知る必要があると思っている。音楽であればそのセールスは簡単だろう。Spotify(スポティファイ)のような会社は、たとえば別れの歌を聞いているユーザーは悲しい気分だろうと推測することは簡単だからだ。
気分ベースのターゲティングをサポートするグレープショット(Grapeshot)というプロダクトを提供するオラクル(Oracle)においてパブリッシャー戦略に取り組むジョシュ・ベインズ氏によると、最近はターゲティングのレベルも高度になり、人々の気分を見極められる状況も増えてきているため、気分ベースのターゲティングはどんどんと話題にのぼるようになったという。ただ言葉だけの中身の無い手法ではなく、実際にビジネスの結果を出せることを証明すれば、さらなる普及拡大につながるだろうと彼は語る。
ニュースの難しさ
音楽以外のカテゴリーは難しそうだ。ニュースを広告主が敬遠しがちなのは、ブランドや読者との関連でネガティブな連想を生むかもしれないからだ。こういったニュースパブリッシャーたちは、AIを使って広告主とニュースの内容を結びつけられる事態を変えたいと思っている。USAトゥデイ・ネットワークのサイトを訪れたユーザーたちはポジティブなニュース記事もネガティブなニュース記事も等しくオーディエンスを引きつけていることが分かったと、アンダーセン氏は言う。これは広告主たちへの売り込みにも活用されている調査結果だ。「広告主にそのことを説明すると効果がある。ニュースカテゴリー自体を敬遠する必要は無いのだ、と」と彼女は語る。
一方でウェクスラー氏はまだ慎重だ。「音楽であればオーディエンスが悲しい気分だ、と言っても問題ないだろう。ニュースに関しては我々は特に懐疑的にならざるを得ないだろう。ユーザーがアラバマにいるからこの事件に関して怒っている、ニューヨークだったら違っただろう、ということを推測するというのか?」と、彼は述べた。
Lucia Moses(原文 / 訳:塚本 紺)