3月以降、テレビネットワークの多くはストリーミング事業の強化をはかってきた。リニアTV事業との違いに苦戦する企業も多いなか、CATV局のスターズのストリーミングサブスクライバー数は142%もの増加を示した。成功の裏側にあるのは、番組制作から無料トライアルまで、すべにおいて徹底したサブスクライバー定着戦略にある。
3月以降、テレビネットワークの多くはストリーミング視聴者の急増を利用して、自社ストリーミング事業の強化をはかってきた。比較的新しいケーブルテレビ局のスターズ(Starz)も間違いなく、そのなかの1社だ。3月なかば、全米各地に外出禁止令が出されると、同社の同月のストリーミングサブスクライバー数は142%もの増加を示した。
そしていま、スターズはストリーミングを事業の中心に据えることによって、サブスクライバー数のさらなる伸長を目指している。
9月にゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)主催で開かれたバーチャルカンファレンスの席で、スターズのCEO兼プレジデントであるジェフリー・ハーシュ氏は「次の2四半期以内に、スターズの世界全体のストリーミングサブスクライバー数はリニアTV事業のサブスクライバー数を追い越すだろう。また来年には、スターズのストリーミング事業の売上はリニアTV事業の売上を追い越すと、我々は予測している」と語った。
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スターズの親会社であるライオンズゲート(Lionsgate)が発表した直近の収益報告書によれば、6月30日時点のスターズのストリーミングサブスクライバー数は世界全体で1140万人だという(その内、米国内のサブスクライバー数は740万人)。同報告書にリニアTV事業のサブスクライバー数についての記述はないが、ハーシュ氏は8月6日に行われたライオンズゲートの収支報告の席で、スターズのストリーミングサブスクライバー1人当たりの平均売上は、リニアTV事業のサブスクライバーのARPU(ユーザー1人あたりの平均売上)を上回っていると述べた。
サブスクライバー定着戦略を徹底
とはいえ、リニアTV事業の運営に比べるとストリーミング事業のそれには、対処の難しい問題がともないがちだ。スターズのようなD2Cのストリーミングサービスに利益をもたらしているのは、有料テレビのプロバイダーに連絡する必要なく、簡単に利用登録できるユーザーたちだ。だがその一方で「問題は、解約も簡単な点だ」と、スターズで米国内ネットワーク部門のプレジデントを務めるアリソン・ホフマン氏は語る。その結果、サブスクライバーを逃さないようにすることは、サブスクライバーを獲得することと同じぐらい(それよりも、とまではいわないが)重要になっている。
スターズが解約率抑制のためにとった方法のひとつは、サブスクライバー獲得のハードルを下げすぎないようにすることだ。3月に外出禁止令が出されると、同社は9ドル(約950円)の月額料金を最初の3カ月間に限って5ドル(約530円)に下げ、7日間の無料トライアルを実施した。しかし、CBSオールアクセス(CBS All Access)のような30日間の無料トライアルや、クイビー(Quibi)のような90日間の無料トライアルは実施しなかった。「長期間の無料トライアルを実施しても、サブスクライバーを獲得できるとは限らない」と、ホフマン氏は語る。
もちろん、それだけがスターズのサブスクライバー定着戦略ではない。中心となるのは多数のエンテーテインメント企業との契約によって築かれた、豊富な番組や映画のライブラリーだ。スターズの広報担当者によれば、女性や有色人種にアピールすることを重視した番組戦略のおかげで、同社の解約率は著しく低下しているという。ハーシュ氏は8月6日の収支報告の席で、スターズの目標は解約率を1桁台のパーセンテージにまで下げることだと述べた。
鍵を握るのはコンテンツの量
あるユーザーが視聴するオリジナル番組の本数が増えれば、定着率も上がることがわかっていると、ホフマン氏は話す。スターズのオリジナル新番組「パワー ブックII:ゴースト(Power Book II: Ghost)」が9月6日週にデビューすると、同シリーズのこれまでの最高記録(数字は未公表だ)と比較して、ストリーミングサービスの視聴分数は91%、サブスクライバー数は31%それぞれ増加した。
新型コロナウイルスのパンデミックにより、多くのネットワークやストリーマーがオリジナル番組の制作中断に追い込まれている。そんななかスターズは、1年以上も前に番組を撮影するという手法をとることで、その危機を回避している。ホフマン氏によれば、そんな同社も、不測の事態に備えて海外のディストリビューターから番組の獲得を行ってはいるが、「パワー ブックII:ゴースト」や「ガールフレンド・エクスペリエンス(The Girlfriend Experience)」の新シーズンなど、いくつかの番組に関しては、すでにその制作を再開しているという。
3月以来、過去に制作した自社の人気番組やライセンス映画のライブラリーが、サブスクライバーのスターズ定着に果たす役割は一段と大きくなっている。ホフマン氏によれば、ストリーミング視聴者が「スターズのライブラリーを利用する頻度は高まっている」という。たしかに「パーティー・ダウン ケータリングはいつも大騒ぎ(Party Down)」(2010年以降、新シーズンは放送されていない)のような往年の人気番組の視聴者数は、増加の一途をたどっている。これを受けてスターズは、視聴者数をさらに伸ばすべく、同番組を自社のストリーミングアプリ内で盛んにプッシュするようになっている。「スターズは、サブスクライバーの定着を目標に番組を制作している」と、ホフマン氏は語る。
サードパーティセラーも活用
「サブスクライバーの定着」は、サービスを提供している企業が直接サブスクライバーの獲得に関わっていない場合、とりわけ重要になってくる。スターズのストリーミングサブスクライバーの大半は、AmazonやApple、Huluなどのサードパーティセラーを介してサブスクリプションを購入している。スターズによれば、同社のストリーミングサブスクライバーのうち、直接登録をおこなっているのは200万人だという。
「仲介業者」を介したサブスクリプションの販売には、メリットとデメリットがある。デメリットのひとつは、スターズにはリアルタイムの視聴パターンなど、サブスクライバー情報が乏しく、サードパーティセラー各社からの共有に依存していることが挙げられる。反対に、Amazonなどを介してサブスクリプションを販売すれば、これらの企業がすでに持っている顧客関係を利用できるため、サブスクライバー獲得のハードルを下げることができる。
ホフマン氏によれば、サードパーティのサブスクリプション販売がスターズによる直販と競合するようなことは、いまのところないという。「すべてが大局に影響を及ぼしている」と、同氏は述べている。
[原文:‘Programming for retention’: How Starz is building its business around streaming]
TIM PETERSON(翻訳:ガリレオ、編集:分島 翔平)