[ DIGIDAY+ 限定記事 ]Slackが登場したのは2013年にさかのぼる。当初はゲーム会社の社内開発者向けツールだった。目的は、従来のヒエラルキー構造が支配するeメールを用いたオフィスでのコミュニケーションに変わる、より魅力的で協調的なワークフローを提案することにあった。だが、どの企業文化でもこれが適しているわけではない。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]今年7月、ある雑誌パブリッシャーがクライアントに送った新コンテンツ戦略の提案で思わぬ問題が発生した。資料がスペルミスや誤った画像、未承認の戦略など、ミスだらけだったのだ。原因は、リモートで作業している人が多かったために、社内で通常の完成プロセスを実施していなかったことにあった。
通常このパブリッシャーは、営業資料の最終版を人気のワークプレイスツールである、Slack(スラック)でシェアしている。
だが、修正の指摘は、嵐のように舞い込むメッセージに埋もれて見過ごされた。また、チームメンバー全員がスマートフォンにアプリをダウンロードしているわけでもない。これは犯しやすく、ありがちなミスだ。
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「Slackを使うとせかせかする」と、同パブリッシャーの役員は語る。「課題に関連した指摘と、平凡なジョークがごちゃまぜなグループチャットなんか利用したくない。クライアントに提出する最終版の資料作成には、細やかなアプローチが欠かせない。Slackでは線引きができないんだ」。
Slackが登場したのは2013年にさかのぼる。当初は現在サービスを終了しているオンラインゲーム「グリッチ(Glitch)」の社内開発者向けツールだった。目的はシリコンバレーの従業員に対し、従来のヒエラルキー構造が支配するeメールを用いたオフィスでのコミュニケーションに変わる、より魅力的で協調的なワークフローを提案することにあった。だが、どの企業文化でもこれが適しているわけではない。
事実、Slackはさまざまな批判を受けてきた。非生産的だ、プライバシーの侵害だ、ハラスメントを真剣に捉えていないといった批判だ。なかでも、おそらくもっともアンフェアな批判が、仕事と交流の境界線がぼやけるというものだろう。こういった主張の多くは、実際はSlack固有の問題ではない。だが、ワークライフバランスの改善が叫ばれるなかで、Slack以外のコミュニケーション手段を取っている人や企業がいることもまた事実だ。
コミュニケーション過多が問題
職場におけるメッセージングアプリ使用の問題としてよく指摘されるのが「気が散る」ことだ。2018年6月27日にSlackのサービスが数時間停止したが、レスキュータイム(RescueTime)という生産性を追跡するソフトをブラウザにインストールしていた社員は、その間に生産性が向上したという報告もある。
組織の生産性向上を支援するタイムイズリミテッド(Time is Ltd.,)の創設者兼CEO、ジャン・リザブ氏は「会社での時間の使い方はまずSlackのデータを見る。あらゆるコミュニケーションを完結させられるのは便利だ」と語る。一方で問題となるのはコミュニケーション過多だと同氏は指摘する。ユーザーがSlackをコミュニケーションツールではなくチャットとして利用しているような場合だ。
タイムイズリミテッドの調査によると、社員1000人の企業であれば、ユーザーひとりあたり平均でひとつのチャンネルがある計算になるという。そしてSlackの各ユーザーは、2分から3分に1通のメッセージを直接またはチャンネルを通じて受け取る。業務に戻るまで25分かかるとすれば、生産性の面で大きなマイナスなのは疑う余地もない。
あらためて指摘すべき点として、これはSlackの問題ではなくユーザーの使い方の問題だ。企業側でSlackを監視するシステムを構築することもできる。通知をミュートにする以外にも、チャンネルの自動削除、新しいチャンネル作成の制限、ダイレクトメッセージではなくチャンネル内でのコミュニケーションといった手段を導入するだけでも管理のしやすさは改善される。
「常時オン」という組織文化
「こういった働き詰めの文化が生まれた背景にはさまざまな理由がある」と指摘するのが、消費者行動分析企業のキャンバス8(Canvas8)でシニア行動アナリストを務めるハンナ・エルダーフィールド氏だ。「朝9時から夕方5時まで毎日決まった時間働いて、仕事が終わればオフタイムという生活を送らない人が増えた」。
バージニア工科大学准教授のウィリアム・ベッカー氏が2018年に実施した社員142人を対象とした調査では、オフタイムの切り替えがない「常時オン」状態の悪影響が取り上げられている。「『常時オン』という組織文化は問題視されないどころか、美徳とされることすらある」と、調査報告書は指摘している。「だが、我々の調査で次のような現実が浮き彫りとなった。『仕事のオンオフの境界線がフレキシブル』というのは、『見境なしに働く』ことにつながり、社員やその家族の健康と幸福に悪影響を及ぼす」。
Slackの支配を抑制しようとする動きもある。ニュージーランドのある不動産企業は、週休3日制を導入した。また日本にも、午後6時になると「ロッキーのテーマ(Gonna Fly Now)」を流して社員に帰宅を促す建設企業がある。さらに極端な例として、フランスでは2017年から勤務時間外のメールチェックを禁止する法律が施行されている。
「考えるだけでゾッとする」
SlackはGIFに対応しているほか、プライベートチャンネルやシンプルなレイアウトからWhatsApp(ワッツアップ)のような個人のメッセージングアプリとしても利用されることがある。社員が際限なしにそういった使い方をしはじめると問題が生じる。
これは「予期しなかった行動だ」と、エルダーフィールド氏は語る。
また、なかにはSlackを自分たちの生活に侵食してくるシリコンバレー技術の代名詞ととらえる人たちもいる。
「『常時オン』なんてまっぴらごめんだ。いつでも連絡が取れる状態でいるのは嫌なんだ。私はほかの誰かのために利益を生み出すロボットじゃない」と、最初に紹介した雑誌パブリッシャーの役員は主張する。「仕事で、やれFacebookだ、Slackだ、ビーンバッグに座って無料のコーヒーだのと考えるだけでゾッとするよ」。
監視専門職を設けるメリット
企業の文化、サポート、柔軟性のいずれも「常時オン」に結びつきうる。リザブ氏によると、社員が70人を超えるあたりからプラットフォームの使用を監視する専門の役職を設けるメリットが大きくなるという。
「高度なコミュニケーションツールはうまく活用すれば利益がある。だが、使用に関するルールを設けなければ問題が生じる」と、エルダーフィールド氏は指摘する。「きちんとコントロールされていなかったり、境界があいまいだったりすると、人間はストレスを感じる。そして生産性が落ちていく」。
Lucinda Southern(原文 / 訳:SI Japan)