パブリッシャーたちにとって、獲得が必須となっている人材が、プロダクトマネージャーだ。デジタルメディアが急速に成長し、より複雑になることで、新しいビジネスチャンスを評価し、セールスとエディトリアルの間で衝突する優先項目のバランスを取り、新しい分野における収益を開発する助けとなる人材を追加する必要が生まれている。
パブリッシャーたちにとって、獲得が必須となっている人材が、プロダクトマネージャーだ。
ブルームバーグ・メディア(Bloomberg Media)で初の最高プロダクト責任者ジュリア・バイザー氏が就任して約1年ほどが経つ。その間、プロダクトマネージャーの数は10人から14人へと増えた。Vox Mediaでは昨年7人だったのが10人へと増えた。増えた3人は広告ネットワークのコンサート(Concert)のさまざまな要素や、自社製でありサードパーティにもライセンス貸出をしているパブリッシングプラットフォームのコーラス(Chorus)に取り組むために雇われた。ワシントン・ポスト(The Washington Post)ではこの2年間に、プロダクトマネージャーの数を3倍にまで膨らませた。彼らが抱える社内、社外向けのプロジェクトそれぞれに1名ずつ配員している形だ。
他の多くのパブリッシャーたちも、プロダクトマネージャーたちを増強している。デジタルメディアが急速に成長し、より複雑になることで、新しいビジネスチャンスを評価し、セールスとエディトリアルの間で衝突する優先項目のバランスを取り、新しい分野における収益を開発する助けとなる人材を追加する必要が生まれている。
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問題を伴う需要拡大
「非常に大きな需要が存在している」と、ヘッドハンティング企業であるコラー・サーチ・パートナーズ(Koller Search Partners)のマネージング・パートナーであるエディー・コラー三世氏は述べる。
しかし、これには問題も伴っている。プロダクトマネージャーの数が増えることで組織上の悩みを生み、組織内の力関係を乱すことがある。人材を見つけ、維持することが難しいからだ。パブリッシャーはまた、ただのコンテンツのプロデューサーではなく、デジタルプロダクトのオーナーとしての責任を持って、プロダクトマネージャーたちが業務に取り掛かるよう、しっかりとコミットしてもらう必要がある。
「イノベーションや変革といったトピックのほとんどがそうであるように、この分野の変化は幅広い。ほとんどのパブリッシャーにとって、一般的には、まだまだ長い道のりが目の前に伸びている」と語ったのはノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング・メディア(Neue Zürcher Zeitung Media)の元最高プロダクト責任者であり、オックスフォード大学・ロイター・インスティテュート(Reuters Institute)の客員研究員のアニータ・ジーリーナ氏だ。
パブリッシャーがプロダクトマネージャーを多く必要としているのは、今日では業務が以前よりも複雑になっているという単純な現状がある。デジタルパブリッシャーは高度に発展されたものなら、モバイルとデスクトップそれぞれに複数のウェブサイトを運営している場合もある。モバイルやOTTアプリも複数あるかもしれない。デジタル動画に関してもふたつ以上のオペレーションを持っている場合もある。定期的なアップデートが必要な広告プロダクトはひとつとは限らない。サブスクリプションのオペレーションも存在する。
マックラッチーの事例
こういったプロダクトがますます増えることで、エディトリアルとセールス部門の間での緊張関係も生まれてくる。同じデジタルのメディアを使って、異なる目標を達成しようとしているからだ。
「これまでのディレクターたちは、自分の目標やインセンティブにおいて妥協しなければいけないようなレベルで協働をしないといけないような環境で働いてこなかった。デジタル環境でいま存在しているレベルの相互依存は、彼らは経験していないのだ」と、マックラッチー(McClatchy)でディレクターとして勤務したこともあり、現在ミズーリ・ジャーナリズム大学院でデジタル・プロデューシング部門のナイトチェア職についているデイモン・キーソウ氏は語る。
理論的には、プロダクトマネージャーたちは最適なユーザー体験を達成するという最重要項目と、このような目標のバランスを取るために存在している。しかし、業務分野の間で争いがある際には、プロダクトマネージャーに権限を与えるというのは簡単ではない。マックラッチーでは、キーソウ氏によると、これらの争いが熾烈でプロダクトマネージャーの候補者たちが職を断ってきたという。同じ方向に全員を向かせて進ませることが可能だとは思えない、とキーソウ氏に伝えて来たと言う。
末端のチームレベルでは、この緊張関係は最終的には若干の沈静化に成功したという。しかし、野心的なプロジェクトを実行するとなると、また問題が発生したとのことだ。マックラッチーはプロダクト部門バイスプレジデントという職を導入し、最高責任者レベルでプロダクトマネージャーの支援をするようにしたという。「エグゼクティブ視点とコントロールを持っており、末端レベルでのプロダクトの理解も持っているようなバイスプレジデントもしくは最高プロダクト責任者の役職が必要だ」と、キーソウ氏は言う。
業界の特質や力関係
多くのデジタルネイティブパブリッシャーたちが、複数の分かれたプロダクトグループを生み出してきたなかで、プロダクトマネージメントをエディトリアル業務の延長線上として捉えているパブリッシャーもある。
「どちらが正しいのかは、私も確信しているわけではない。オーディエンスのニーズを達成するための必要事項、真のウォンツ、ニーズが達成されるようなシステムが設定されていれば、それで良い」と、FTIコンサルティング(FTI Consulting)のメディア業務マネージングディレクターであるピート・ドゥセット氏は言う。
グラスドアー(Glassdoor)のデータによると、プロダクトマネージャーたちを獲得するのが難しい理由の一部は、その高給にもある。デジタルプロダクトマネージャーの平均給与は年俸で12万3000ドル(約1360万円)を超える。そして複数の異なる業界が彼らを狙っている。
「パブリッシャーたちは、無制限にリソースを抱えるテック大企業たちと競争しないといけない。テックの大手企業と競争するのは困難なため、パブリッシャーたちは求人場所に関して、クリエイティブになる必要がある」と、コーラー三世氏は言う。
となると、メディアやプログラミングの中心都市以外に位置するパブリッシャーにとって、採用は格段に難しくなる。リモート勤務の文化を推進し、150人のプロダクトチームを構築するVox Mediaですら、年の半分以上においてプロダクトマネージャーの職が埋まらなかったと、最高プロダクト責任者のジョー・アリカータ氏は言う。
メディア業界が持つ特質や力関係は、業界外からの人材を獲得することをさらに難しくしている。プロダクトマネージャーでも最高の人材たちはゼネラリストであり、どのような分野でもすぐに追いつくことができるとバイザー氏は形容するものの、彼女自身、チームのプロダクトマネージャーはメディア業界出身であることを好むようだ。「外から見たときに我々のビジネスは理解できない。エディトリアルと広告の間の壁は複雑なものだ」とバイザー氏は言う。
「改善点は常に存在」
プロダクトマネージャーを採用するのが難しいのは、何といってもこれが構築に何年もかかる大きな計画の一部であることだ。2016年の段階で、ワシントン・ポストはほんの少数のマネージャーしか抱えていなかった。これらのほとんどはモバイルアプリのような新興のプロダクトにフォーカスしていたと、プロダクト部門ディレクターのキャット・ダウンズ氏は言う。2年かけて、ようやくその数を3倍にまで増やしたのだ。その結果、社内向け、外部向けどちらもすべてのプロダクトに1名のプロダクトマネージャーが就くことになった。
ダウンズ氏によると、こうして追加のスタッフを獲得したことでプロダクト志向を進める助けになったが、それでも、まだ取り組むべきことは多いようだ。2018年の大半は組織内におけるコミュニケーションやフィードバックの改善に費やされた。あらゆる大規模なプロダクトは2週間ごとにプレゼンテーション・パワーポイントを配布する。それによって、マネージャー以下レポーターに至るまで、全員が現状を把握できるようにするためだ。
「我々の変革は何年も行われてきたのだ。改善の余地は常に存在している」と、ダウンズ氏は言う。
Max Willens(原文 / 訳:塚本 紺)