イギリスでアドブロック利用が拡大している。マーケットリサーチ企業eマーケター(eMarketer)が4月20日に発表した報告によると、2017年までにイギリスの人口のおよそ4分の1(27%)となる1470万人が、デスクトップやモバイルでアドブロックを利用するようになると予測している。
4月18日から22日まで開催された「アドバタイジング・ウィーク・ヨーロッパ(Advertising Week Europe)」でも、アドブロック問題は取り上げられ、パブリッシャーや広告主、アドブロック企業たちが、熱い議論を交わした。その内容をいくつか振り返ってみよう。
イギリスでアドブロック利用が拡大している。マーケットリサーチ企業eマーケター(eMarketer)が4月20日に発表した報告によると、2017年までにイギリスの人口のおよそ4分の1(27%)となる1470万人が、デスクトップやモバイルでアドブロックを利用するようになると予測している。
この数字にはモバイルも含まれているが、いまのところの問題ではない。現在、アドブロック利用者の9割近くがデスクトップ、もしくはラップトップ型のパソコンを使用しており、スマートフォンでアドブロックを使用しているユーザーは、28%ほどしかいないからだ。
eマーケターのシニアアナリストであるビル・フィッシャー氏は、現在モバイルがパブリッシャーにとって、本当の頭痛のタネになりはじめていると警鐘を鳴らす。アドブロックツールがブラウザだけでなく、アプリ内広告にも影響を及ぼし始めているからだ。同社はIAB、コムスコア(comScore)やソースポイント(Sourcepoint)、ページフェア(PageFair)、アドビ(Adobe)など、使用できる調査企業の報告書はすべて解析し、今後の戦略を打ち出してはいるものの、現在のところ2017年以降の予測は発表していない。この背景には、解決しなくてはならないアドブロック問題が多数存在し、予測が困難であることが挙げられる。
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4月18日から22日まで開催された「アドバタイジングウィークヨーロッパ(Advertising Week Europe)」でも、アドブロック問題は取り上げられ、パブリッシャーや広告主、アドブロック企業たちが、熱い議論を交わした。その内容をいくつか振り返ってみよう。
「ガーディアン」の向き合い方
当初、英デジタルメディア「ガーディアン(The Guardian)」はアドブロックに対し、柔軟な姿勢を見せていた。アドブロックを利用すると「ガーディアン」の売上に悪影響が出ると、ユーザーにメッセージを送っていたが、結局はアドブロックの使用を認めていた。それ以降、アドブロックに対する姿勢を厳しくしているが、まだ着手したばかりというところだ。
「アドバタイジング・ウィーク・ヨーロッパ」では、同紙のティム・ジェントリーCRO(Chief Revenue Officer:最高売上責任者)がユーザーに対して優しくお願いをしても無駄だということについて話をした。ジェントリー氏によると、ホワイトリスト(リストアップされれば広告ブロックを回避できるもの)の導入以降、アドブロック問題が少しずつ解消しているという。「私は長らくデジタル業界にいるが、アドブロック問題はもっとも混乱を招いている問題のひとつだ。私たちはアドブロック問題が鳴らした警鐘を真摯に受け止め、オーディエンスとの接し方を考え直さなくてはならない」と、彼は指摘する。
責任の一部はパブリッシャーにある
ジェントリー氏によると、この問題の責任の一部はパブリッシャーにあるという。ここ数年で、パブリッシャーが広告の価値をユーザーに明確にしてこなかったためだ。「ユーザーに対しアドブロック問題を明確にしていなかったため、気づいていないユーザーもいる」と、彼は話す。「『ガーディアン』ではユーザーに対し腰を低くし、アドブロックを使用しないようお願いしてきた。しかし、何も変わらなかった」。
現在、さまざまな「強硬策」を試している同紙は、ユーザーに4つの選択肢を与えている。無料登録するか、定期購読を申し込むか、ホワイトリストに入れるか、別のパブリッシャーのコンテンツを読むか、だ。「これらの実験でわかったことは、忠誠心が高いユーザーほど、ホワイトリストに入れてくれるということ。ロイヤリティの高いユーザーの3分の2が、『ガーディアン』のコンテンツ価値が高いと考え、ホワイトリストに入れてくれた」。
また、ユーザーが望む広告の種類やエクスペリエンスが判明するまで、この実験は今後も続けていくと、ジェントリー氏は最後に付け加えている。
「見て見ぬ振り」をしていたBBC
また、アドブロック問題は奇妙な仲間も作り出している。最近では、スウェーデンとフランスのパブリッシャーたちがタッグを組んでアドブロック問題に一緒に取り組みはじめた。これが、成果を上げはじめているという。また、イギリスでは個々のパブリッシャーがそれぞれに、アドブロック問題へ取り掛かっている。英パブリッシャーのシティAM(City AM)では、アドブロックユーザーの閲覧を禁止しているが、ほかのパブリッシャーではより柔らかい対応がされている。
さらに、アドブロック問題が引き起こす経済への影響について、最近まで英国広告主協会(ISBA)でメディア部門を統括していたボブ・ウートン氏が言及。彼によると、アドブロックユーザーの追放は、イギリスではあまり効果がないという。これはイギリスの公共放送局であるBBCが長らくの間「見て見ぬ振り」をしていたためだ。「こういった意味では、BBCは明らかに危険な立場にいる」。
「控えめな広告」のために独立機関を
広告をブロックするWebブラウザの拡張機能、「アドブロック・プラス(AdBlock Plus)」を所有するEyeo社は、「控えめな広告」作りを推奨し、多くの非難を受けた。そこで同社はアメリカやヨーロッパなどで多くの会議を行い、どのような広告が「控えめ」なのかを判断する独立機関の設置を目指している。同社によるとこの独立委員会は業界関係者によって構成されるようだが、民間企業を起用した方が良いとの意見も出ている。
アドブロック企業とパブリッシャーたちの問題をたとえ、「まるで自分の財布が盗まれ、返して欲しければ金を支払えと言われた気分だ」と、英有力経済紙「フィナンシャル・タイムズ」のグローバル広告販売を統括するドミニック・グッド氏は話す。「どのような広告が『控えめ』なのか、民間企業に教えてもらう必要性はない」。
Eyeo社のインターナショナルアカウントマネージャーであるローテム・ダル氏は、アドブロック企業はアド業界がずっと前にやっておくべきだったことをやっているだけだと、逆に敵意をむき出しにしている。ずっと前にやっておくべきだったこととは、品質が低く、ユーザーエクスペリエンスに悪影響を及ぼす広告を排除することだ。
これに対し、ISBAのウートン氏は「広告業界は苦しみ始めるまで問題を直視しない」と、認めている。現在、彼らは苦しんでいるのだろう。
Jessica Davies(原文 / 訳:BIG ROMAN)
Image via Thinkstock / Getty Images