2022年12月、ゼネラル・エレクトリック(General Electric、以下GE)はニューヨーク・タイムズの広告紙面を丸一日占拠。同社の意図は、紙面上で読者の目を捉えるだけでなく、ソーシャルメディア上での同社に関する話題喚起にもあった。このほか、紙面ならではの優位性もあるようだ。
2022年12月、ゼネラル・エレクトリック(General Electric、以下GE)はニューヨーク・タイムズ(The New York Times、以下NYT)の広告面を占拠し、ニュース、ビジネス、アートの各セクションに計22ページに上るフルカラー広告を出すとともに、それ以外の5ページの一部にも広告を載せた。
GEの意図は、紙面上で読者の目を捉えるだけでなく、ソーシャルメディア上での同社に関する話題喚起にもあった(NYTが、デジタルでも紙面でも、広告スペースをどこか1社に独占させたことは前例がない)。GEが具体的にいくら支払ったのかは、定かでない。
実際、GEだけではなく、最近は新聞広告からより多くの注目を集めたいと考えている企業がほかにもいる。たとえば、エクイノックス(Equinox)やテイク・ファイブ・オイル(Take 5 Oil)といったブランドに加え、TBWAニューヨーク(TBWA New York)などのエージェンシーも同様の姿勢を見せており、クラッター化がさらに進むデジタル環境のなか、彼らは皆、ソーシャルメディアでバズりを起こしてくれることを新聞広告に期待している(エクイノックス、テイク・ファイブ・オイル、GEおよび同社のエージェンシーであるジャイアントスプーン[Giant Spoon]はいずれも、DIGIDAYの追加質問に対する回答を拒んだ。また、NYTはコメントの求めにすぐには応じなかった)。
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「紙面で何かをすることには、相応の力がある。主張をし、筋を通し、しかもバズるとわかってそれをやることには、力がある」と、TBWAニューヨーク・グループ(TBWA New York Group)のチェアマンであるロブ・シュウォーツ氏は話し、紙面広告に工夫を凝らすのは、ページをめくる読者の手を止めるためのブランド戦略にほかならないと言い添える。
重要なのは金額ではなく、伝えたいこと
シュウォーツ氏によれば、大手新聞への1ページ広告掲載の費用は2万5000ドル(約325万円)から12万5000ドル(約1625万円)であり、TBWAがNYTに「Last Ad from the Last Big Ad Agency on Madison Avenue(マディソン街最後の大手広告エージェンシーによる最後の広告、の意)」を出稿したときの値幅も同様だったという。1月19日に掲載されたこの広告は、同エージェンシーのマンハッタン内での移転を告知するものだった。
紙面広告の場合、重要なのは金額ではなく、伝えたいことを届けることにあると、シュウォーツ氏は断言し、「ツイートでは、ときに、主張に重みを持たせるのが難しい」と指摘する。また、読者が紙面広告をスマートフォンなどで写真に撮り、ソーシャルメディア上で共有する行為に慣れ親しんでいることも、同氏は承知している。「そして、広告自体が刺激的、あるいは見るに値するものであれば、ソーシャルメディアは必ず、その広告が大きく広まる機会をくれる」。
また、QRコードに対する親和性がすでに高いという利点も、紙面広告エクスペリエンスを変える力がある――新聞読者をブランドのウェブサイトやアプリに連れて行く手段として活用できるからだ。スキン・バイ・キム(Skkn by Kim)といった最近のブランドやアメリカン・エクスプレス(American Express)は、QRコードを利用してオンラインユーザーを物理的店舗の商品に繋げている。
紙面広告はダイレクトレスポンス広告として有効
紙面広告はダイレクトレスポンス広告に向いており、読者は企業(ブランド)の電話番号を取っておきやすいと、統合型マーケティングエージェンシーのブルー・チップ(Blue Chip)でメディア部門VPを務めるシェリー・ローゼンバーグ氏は指摘し、「紙面で目にしたほうが、動画やデジタルOOHで目にするよりも、ユーザーは電話番号をはるかに思い出しやすい」という。
以前にDIGIDAYが報じたとおり、不況のなか、マーケター勢は有効性が実証済の手法を求め、OOHといった従来型の広告戦術を見直している。同時に、拡大を続けるデジタル広告市場はクラスター化がますます進んでおり、マーケター勢にしてみれば、そこで目立つことがなおいっそう困難だ。
「リードタイムは短く、制作コストは最小限で、CPMも低い。だからこそ、新聞は時間的制約のある情報に向いている」と、同氏は話す。NYTの場合、最新の価格表によれば、1ページ広告の平均出稿料のCPMは47ドル(約6110円)――4週間で3500ドル(約45万5000円)となる。「さらに、広告を紙面とデジタル版の両方で出せれば、リーチ力はなおいっそう高まるうえ、投資家から潜在的パートナーまで、幅広いビジネスオーディエンスに確実にリーチできる」。
新聞はよい意味で重さがあり、信頼度が高い
広告エージェンシーのナインスワンダー(9thWonder)で統合メディア部門SVPを務めるカルロス・アリーザ氏も、これと同様の見方をするとともに、出版物の「信頼性」もその魅力の一部になりうると語る。
そして、この点もまた、新たな読者層の好みとともに、大きく変わる可能性がある。2020年にマーケティングプロフス(MarketingProfs)が実施した調査では、18~23歳の実に92%が、情報はデジタルよりも印刷版のほうが読みやすい、と回答。さらに、同じ調査により、ダイレクトマーケティングキャンペーンのほうがeメールキャンペーンよりも反応を引き起こす確率が37%高いことが判明した。デジタル広告よりも紙面広告のほうが、消費者の信頼度が34%高い、との結果も出ている。
成長戦略コンサルティング企業プロフェット(Prophet)のシニアパートナーでマーケティングおよびセールス部門の共同トップを務めるマット・ザッカー氏は、「新聞はコーポレートコミュニケーションの手段としても利用できる。つまり、現在市場で起きている出来事に関連する自らの立ち位置を明確にできる」と指摘するとともに、「媒体として、新聞にはよい意味での重さがあり、CEOが単なる商業的メッセージではなく、重要な言葉を発信する場として、より相応しいのでは」と続ける。
同氏はさらに、「新聞はビジネスパーソンも読むものであり、だからこそ、何らかの締め切りが迫っているギリギリの段階で、彼らに一斉に読ませることが可能だ。その点をうまく利用すれば、直前での変更または選択が生じた際の舵取りを楽にしてくれる」とも指摘する。加えて、「新聞はまた、ビジネスパーソンが暮らす地域でのローカルターゲティングをしやすくもさせる」と同氏は言い添えた。
「1ページ広告は読者の目を引き付け、そのメッセージに重みを加える」とザッカー氏は話す。「広告スペースを無理に埋める必要はなく、そうしなくとも、我々はこれを本気で伝えたい、という意図が伝えられる。しかも、そのスペースを独占しているため、ほかのマーケターやメッセージという、こちらのメッセージを薄めたり邪魔したりするものが入ってくることもない」。
[原文:Why digital clutter is driving brands to rethink the value of newspapers advertising]
Julian Cannon(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)