広告主からのブランドセーフティの要請は政治関連のニュース記事にまで及んでいる。ドナルド・トランプ大統領関連の記事がバイラルとなって広く読まれることはコムスコア(comScore)のデータ上の数字を良くはしてくれるかもしれない。しかしパブリッシャーがマネタイズするのは難しい。
ドナルド・トランプ大統領関連の記事がバイラルとなって広く読まれることはコムスコア(comScore)のデータ上の数字を良くはしてくれるかもしれない。しかしパブリッシャーがマネタイズするのは難しい。
広告主からのブランドセーフティの要請は政治関連のニュース記事にまで及んでいる。メディアレーダー(MediaRadar)によると、バイイングサイドの大手プラットフォーム10カ所において、広告掲載のサイト数は、昨年と比べて11%少なくなっている。バイヤーたちはキーワードや印象分析を用いて回避すべきカテゴリーをカスタマイズしている。なかでも特にトランプ関連のニュースを避ける点にフォーカスが置かれている。
たとえば、大統領選挙におけるロシアの影響に関するニュースに自社の広告が表示されることを避けるためにCNN全体を排除してしまうのではなく、「トランプ」と「ロシア」といった単語の組み合わせが含まれる記事をブロックするという具合だ。アドテク企業サイズミック(Sizmek)による広告ターゲティングプラットフォーム「ピア39(Peer39)」の第3四半期を昨年同時期と比べてみると、特定のタイプのコンテンツにおける広告掲載を避けるためのカスタマイズをするクライアント数が150%増加しているという。サイズミックの最高グロース責任者であるマイク・カプリオ氏によると広告主が作るこういった広告回避のカテゴリで人気なもののひとつはトランプ大統領関連のトピックだという。
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神経を尖らすブランドたち
「信じられないかもしれないが、大統領はブランドにとって安全ではない」と語るのはデマンドサイド(広告主側)プラットフォームであるデータスー(DataXu)のシニア・ビジネス開発マネージャーであるケン・ヴァン・エヴェリ氏だ。
DSP(デマンドサイドプラットフォーム)がロングテールのWebサイトを選んでいることは、プロクター・アンド・ギャンブル(Procter & Gamble)、ユニリーバ(Unilever)、JPモルガン・チェイス(JPMorgan Chase)が自社の広告が現れるサイト数を減らしていることとも同調している。これによって昨年ブランドセーフティが声高に叫ばれたきっかけとなった人種差別的なサイトや「フェイクニュース」サイトに広告が表示されることを避けているのだ。
しかし、政治状況はさらに緊張を高めている。メディアバイヤーたちのなかにはFOXニュース(Fox News)といったメインストリームのニュースメディアですらブラックリストに追加しているものもいる。YouTubeにおけるブランドたちの撤退、ロシアのアメリカ大統領選挙への干渉キャンペーンといった事例によって、アドテクもメインストリームで語られるようになった。これもバイヤーたちがブランドセーフティに神経を尖らせる理由となっている。ハイランクのマーケターたちはデジタル広告ターゲティングの闇の部分について、これらの事件によってより深く学ぶことになった。広告エージェンシー、メディアスミス(Mediasmith)のインサイトテック部門バイスプレジデントであるマーカス・プラット氏によると、そのためにブランドたちはいま、議論を呼ぶような政治関連のコンテンツに広告が現れるリスクを避けるようになったという。
収益源のパブリッシャー
広告主たちが注意深くなったことで、トランプ大統領関連でトラフィックが増えたとしてもパブリッシャーたちはプログラマティック取引によってそれを収益につなげるのが難しくなった。とある匿名希望のパブリッシャー内部関係者によると、トランプ関係の記事への高額入札があまりに減ったために、パブリッシャーのサイト上にヒラリー・クリントンや元サンフランシスコ49ersのクオーターバックであるコリン・カパーニックをダシにした炎上ネタが入り込めるような状態にまでなっているという(この2人は極右が特にお気に入りのネタだ)。
パブリッシャーにとってこういった広告が表示されてしまうのは非常に良くないと、内部関係者は語ってくれた。こういった広告を除去していくことで収益減少にもつながっている。
プログラマティックにおけるこういったトラブルを避けられているパブリッシャーにとっても、トランプ大統領の予測不可能な言動のせいで広告をダイレクトに販売することを難しくしている、とニュースパブリッシャーのエグゼクティブが匿名希望で語ってくれた。選挙のようにトラフィックの増加を予測できる一大イベントでないかぎり、60日間のリードタイムでオペレーションをしているセールススタッフにとっては「トランプ大統領のツイートが炎上してユーザーが押し寄せるだろう」と予測することは不可能だ。こういったバイラルの記事に関しては、件のパブリッシャーでは在庫をプログラマティックで販売しているが、そこではCPMはダイレクトなバイイングよりも大幅に低いという。
影響がないメディアもある
ディスカウントされた在庫を、それもプレミアムパブリッシャーから購入できるこういった状況を逃すのはビジネスの観点からは機会損失のように思えるかもしれない。しかし、議論を呼ぶ政治コンテンツを避けることで、リスクの高い記事に自社の広告が表示されてCMOたちが窮地に立たされることを防いでいるのだ。この流れのせいで、政治コンテンツの在庫をプログラマティックに売ることが難しくなっている。とはいえ、必ずしも政治関連のコンテンツで収益を生むこと自体が難しくなっているとは限らないようだ。
ダイレクトなバイイングにおいて広告主たちは、どのサイトに自分たちの広告が表示されるかを知っている。この状況では政治コンテンツに並ぶ広告も売りやすくなる。ポリティコ(Politico)、ニューヨーク・マガジン(New York magazine)、そしてポップシュガー(PopSugar)といった在庫の大部分をダイレクトに販売するメディアたちのエグゼクティブは、トランプ関連の記事に広告を載せるなと、ブランドからは頼まれていないと語る。
「その影響力の大きさから、政治報道を追いかけているパブリッシャーは多いが、それをマネタイズできているわけではない」とポリティコのプレジデント、ポッピー・マクドナルド氏は言う。米DIGIDAYのポッドキャストではトランプ関連のトラフィック影響は心配していないと彼女は語った。「トランプは我々のビジネスモデルを変えていない」。
Ross Benes(原文 / 訳:塚本 紺)