アイハートメディア(iHeartMedia)、Spotify(スポティファイ)、エーキャスト(Acast)の2023年第2四半期売上は前年比12~31%増となり、いずれも今年の第1四半期に比べて業績を伸ばした。 各社の幹 […]
アイハートメディア(iHeartMedia)、Spotify(スポティファイ)、エーキャスト(Acast)の2023年第2四半期売上は前年比12~31%増となり、いずれも今年の第1四半期に比べて業績を伸ばした。
各社の幹部は株主に対し、米国の広告市場でさらなる業績の改善が見込まれること、また第3四半期以降の成長についても強気の姿勢を示した。
ポッドキャスト関連3社の収支報告において、幹部たちはポッドキャストバブルの崩壊を受けて戦略を転換し、間接費の節約に本格的に取り組むようになったことを説明。また、ジェネレーティブAIツールがポッドキャストクリエイターや広告バイヤーにどう役立つと考えているかについても概説した。
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3社の収支報告では、「米国のポッドキャスト広告市場は好調を維持する」との予測で同意している。今年5月、IAB(インタラクティブ広告評議会)の依頼を受けてPwCが実施した調査によると、2023年のポッドキャスト全体の総売上は22億8000万ドル(約3317億7200万円)となり、前年比25%増となる見通しだ。
第2四半期におけるポッドキャスト売上の増加
アイハートの第2四半期のポッドキャスト売上は9700万ドル(約141億1500万円)であり、昨年の第2四半期と比べ12.9%の増加となった。また、今期のポッドキャストはアイハートの総売上9億2000万ドル(約1338億7300万円)の約10.5%を占めたという(総売上は前年比3.6%減)。なお、昨年の第2四半期におけるポッドキャスト売上は、アイハートの総売上9億5400万ドル(約1388億2000万円)の約9%を占めていた。
「これらの事実は、ポッドキャストが短期的にも長期的にも我が社の成長を強力にけん引していることを裏付ける」と、アイハートメディアの会長およびCEOのボブ・ピットマン氏は、8月8日に行われた収支報告のなかで述べた。「第2四半期、ポッドキャストは広告市場において圧倒的に優れたパフォーマンスを示したカテゴリーだった」。
スウェーデンに本社を置くポッドキャストマーケットプレイスであるエーキャストは、2023年第2四半期に前年比22%の売上増加を示し、総売上は約3600万ドル(約52億3850万円:SaaSやサブスクリプション売上といった広告以外の売上が総売上の約10%を占めた)を記録した。エーキャストのCEOであるロス・アダムズ氏は、「直近の買収や売却を除いたオーガニック売上が前四半期比15%増となった」と、8月3日に行われた収支報告で述べた。
エーキャストの総売上をけん引したのは北米市場であり、前年比31%増となる約1000万ドル(約14億5500万円)の売上を記録した(アダムズ氏は昨年、エーキャストの米国での市場開拓に力を入れるため米国に移住している)。
Spotifyは、ポッドキャスト事業単独での売上を公開していないものの、同社の収支報告では、ポッドキャスト広告売上の成長が前年比30%を超える「再加速」を見せたことが明かされた。2023年第1四半期には、ポッドキャスト売上の前年比成長率は20%を切っていたにも関わらずだ。なお、音楽事業を含めたSpotifyの広告収入の総額は前年比12%増の4億400万ドル(約587億8800万円)となった。
「ポッドキャストの売上成長は概してセルアウト(実売)率の改善に由来する」と、Spotifyの最高財務責任者であるポール・ボーゲル氏は7月25日に行われた同社の収支報告で述べている。「ポッドキャストの前年比成長率の面でもっとも業績が好調だったのは、四半期最後の月だった」。
ボーゲル氏はさらに、Spotifyの広告ネットワークであるSPANについて、「売上増加の主要因であり、間違いなくポッドキャスト広告売上に大きく貢献した。ポッドキャスト広告売上の成長率は右肩上がりに伸びた」としている。
とりあえず事業を進めるという段階からの脱却
一方でSpotifyのCEOであるダニエル・エク氏は、「オリジナルのポッドキャスト番組のうち、業績が(ユーザー獲得、リテンション、コンバージョン、サブスクリプション会員データの観点から見て)低迷しているものを終了するという決定もまた、ポッドキャスト事業の成長につながった」と話した。
また、「意外ではないが、一部の番組は我々のオーディエンスと非常に相性がいいことがわかった。一方で、あまり上手くいかなかったものもある。なかには好評ではあるものの、理想とする水準に比べて過剰に制作費を費やしており、コスト構造が異質なものもある。このように、我々は一部の番組の規模を適正化し、非常に上手くいっている一部はさらに強化し、上手くいかなかった番組や関係からは撤退する段階に来ている」と、エク氏は説明した。
ジェネレーティブAIがもたらす好機
メディア企業の幹部たちは、2022年第4四半期および2023年第1四半期の広告売上の低迷を受けて、ジェネレーティブAI技術を利用したコンテンツ制作やコスト削減という方針を打ち出した。音声メディアもこうした流れに乗り、AIツールの導入計画の概要を株主に説明している。
Spotifyのエク氏は、ジェネレーティブAI技術の応用の可能性は3つに大別されると、7月の収支報告で話している。すなわちそれは、発見の改善、エンゲージメントおよびリテンション、ポッドキャスト番組の概要の制作補助である(今年2月、Spotifyはユーザーの音楽の好みを学習してパーソナライズされたプレイリストを作成する「AI DJ」をリリースした)。
エク氏はまた、ジェネレーティブAIがポッドキャスト広告のバイヤーにどう役立つかについて、「新たな広告フォーマットの開発にかかるコストを大幅に削減できる」と、自身の考えを明らかにした。こうした技術を利用して、Spotifyのネットワーク上で数千の広告クリエイティブを生み出し、検証できるという。
一方で、第2四半期にエーキャストはAIツールの「コレクションズプラス(Collection+)」をリリースした。コレクションズプラスは、同社が1年前に買収したポッドチェーサー(Podchaser)を含む、多様な情報源からポッドキャストおよびリスナーのデータを取得するツールだ。このツールは、ポッドキャストを広告展開のためのバーティカルに整理し、多数のポッドキャストの垣根を超えたリスナーのターゲティングを支援するという。
このほか、アイハートに関しては、収支報告でジェネレーティブAIについて言及しなかった。
第3四半期の見通し
アイハートは、ポッドキャスト事業を含むデジタルオーディオグループ(Digital Audio Group)の売上について、2023年第3四半期には1桁台中盤の成長が見込まれるとした。
「我々は広告市場の改善を目の当たりにしており、(中略)2023年後半も我々のデジタルオーディオ売上の成長は続くと考えている」と、アイハートメディアでプレジデントおよび最高執行責任者、最高財務責任者を兼任するリッチ・ブレスラー氏は、8月8日に行われた収支報告で述べた。同氏は2023年前半の改善傾向を指摘し、2024年の米大統領選に向けた政治広告の成長を根拠にあげて、「広告市場の改善は続く」と語り、同社には「2024年の力強い成長が期待できる」とした。
Spotifyは、2023年第3四半期に26%の粗利益増加を見込んでおり(第2四半期は24%増だった)、その背景について、第2四半期の収支報告のなかで「主にポッドキャスト配信などにかかる総支出の(前年比での)改善に起因する」と説明している。
エーキャストは第3四半期、引き続き米国市場に力を入れるとともに、「ポッドキャスト広告購入のための新たな自動化ツールを展開していく」と、アダムズ氏は説明した。同社の最高財務責任者およびCEO補佐を務めるエミリー・ビレッテ氏は、収支報告で株主に対し第3四半期の見通しについて明言しなかったものの、「我々は北米で極めて有望な兆候を確認しており、引き続き動向を注視していく」と述べた。
[原文:Podcast networks report Q2 revenue growth, with positive signs for continued improvements in 2023]
Sara Guaglione(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:島田涼平)