パブリッシャー各社は、広告収入に期待して、こぞって動画に軸足を移している。しかし、FacebookやYouTube上の配信動画は再生回数こそ稼げるものの、思ったほどの収益を得られていない。多くのパブリッシャーがソーシャルプラットフォーム上での収益化に苦戦しているのが現状だ。
パブリッシャー各社は、広告収入に期待して、こぞって動画に軸足を移している。しかし、再生回数こそ稼げるものの、実際には思ったほどの収益を得られていない。
パブリッシャーの動画が、自社サイトで再生されることは少ない。動画のほとんどが、Facebookやインスタグラム、YouTubeのような動画に最適化した巨大なプラットフォームで再生されている。BuzzFeedやNowThisのようなパブリッシャーは、意図的にソーシャル配信を前提としたビジネスモデルにしていることも影響しているだろう。
以下の表を見れば、その差は明らかだ。特に、最近動画を積極的に取り入れるようになったパブリッシャー各社は、再生数の大半を自社サイト以外で稼いでいる。
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自社サイト、YouTube、Facebookでの動画再生数
左から:ハフィントンポスト、ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズ、FOXスポーツ、マッシャブル(Mashable)
■注釈:再生数の単位は百万。自社サイトの再生数はアメリカ国内のデスクトップ版サイト(期間は6月〜8月)[出典:コムスコア(comScore)]。YouTubeの再生数は全世界で、パブリッシャーのYouTubeチャネルが対象。ハフィントンポストについては同社所有の動画(期間:9月27日までの90日間)。Facebookの再生数は全世界で、パブリッシャーの全チャネルの所有動画が対象(期間:9月21日までの90日間)[出典:チューブラー・ラボ(Tubular Labs)]。
収入源としては苦しい
動画配信プラットフォームを提供するブライトコーブ(Brightcove)のCEO、アンディ・ファインバーグ氏は「ひどい罠だ」と漏らす。「(パブリッシャーは)幅広くブランドをアピールし、さらにオーディエンスをつなぎ止めておくには、こうしたプラットフォームに頼らざるをえない。ましてやライバルたちもそうしている。問題は、これらのプラットフォームでは、自社で所有・運営するプラットフォームと同じだけの収益を期待できないことだ。CPMが低く、収入源としては乏しい」。
それだけではない。動画再生数は稼げても、パブリッシャーが自社サイト外で配信する動画のなかには、さまざまな理由から収益化できてないものもある。そのため、見かけほどの収益は見込めない。たとえばFacebookはパブリッシャーの動画にミッドロール広告を入れる試みをしている。
だがこの広告は、動画が90秒以上経過してから出ないと入れることはできない。オーディエンスが90秒以上視聴しないと、再生されることはないのだ。これはニュースクリップのような短い動画を専門に取り扱うパブリッシャーにとっては大きな問題だ。ミッドロール広告はまだ試験段階だが、試験に参加しているパブリッシャーは、現段階ではほとんど収益になっていないと語る。
収益よりユーザー体験
パブリッシャーが自ら収益の機会を手放すこともある。総合スポーツメディアのブリーチャー・レポート(Bleacher Report)が良い例だ。ブリーチャー・レポートでは、自社サイト上のすべての動画で広告販売が可能だ。だが実態は、同社の動画の大半がインスタグラム、Facebook、YouTube上で再生されている。
同社の動画はマーケターがスポンサーとして出資できるのだが、インスタグラム上に載せる動画については、同社はスポンサーを募集する動画を全体の約4分の1に制限している。これは毎回のように「~の提供でお送りします」と流れると、視聴者が離れてしまうことを懸念しているためだ。Facebookのミッドロール広告のテストに参加しているパブリッシャー各社も、新しい試みであるミッドロール広告に対して同様の立場をとっている。
「ソーシャルメディア上の全動画で『~の提供でお送りします』と流してしまうとユーザー体験の質が低下してしまう」と、ブリーチャー・レポートの戦略部門でシニアバイスプレジデントを務めるキース・エルナンデス氏は指摘する。「オーディエンスのニュースフィードには、ほかのパブリッシャーの投稿も流れてくるのだからなおさらだ」。
CPMは半分以下に
パブリッシャーの動画配信による収益化が難しい裏には、さまざまな要因がひそむ。たとえばソーシャルメディア上の動画再生に関する測定は、会社によって差が生じる。そのため、パブリッシャーが動画のオーディエンスをもとに広告主に販売するのには不利になる。
具体的には、動画広告を視聴したとカウントするかどうかの問題がある。オーディエンスがニュースフィードをどれほど速くスクロールするかを考えれば、本当に動画広告を視聴したかどうかの線引きは曖昧にならざるをえない。さらに、動画を載せているプラットフォームとの収益の分割についても考えなければいけない(Facebookのミッドロール広告の場合、YouTubeと同様の45%)。
ブリーチャー・レポートによると、ソーシャルメディア上の動画のCPMは、自社サイト上の動画とくらべておよそ半分とのことだ。USAトゥデイ(USA Today)の場合、ソーシャルメディア上の動画の広告レートは、自社サイトのおよそ半分から3分の1だ。別の大手パブリッシャーに勤める動画部門のとある幹部によると、自社サイトでの動画広告のCPMは70ドルだが、FacebookとYouTube上では動画の実効広告レートは約20ドルにまで落ち込むという。
収益化のジレンマ
パブリッシャー各社は、たとえ収益が下がっても、オーディエンスの集まる場所で広告しなければならないというジレンマを抱えている。たとえば、ワシントン・ポストはFacebookとYouTube上に配信する動画の80%を収益につなげているが、そこにはやはり前述の測定上の限界と、収益の分配の問題が存在する。「収益化にはまだまだ大きく改善の余地がある」と、同社のエディトリアル動画ディレクターのミカ・ゲルマン氏は語る。
ファインバーグ氏によると、数年前はパブリッシャーも、YouTubeのプラットフォームで自社の動画を流すというYouTubeの申し出を喜んで受けていたという。しかしその結果、オーディエンスはパブリッシャーのサイトではなくYouTubeで動画を見るようになった。
自社サイトで動画を配信するのにかかるコストは減少している。一方、高品質な動画の制作コストはいまなお高く、動画による収益もソーシャルメディア上では低下することに変わらない。
パブリッシャーの挑戦
そこで先進的なパブリッシャーは、ソーシャルメディアを別のとらえ方をするようになっている。まず本当に価値のある動画は自社サイトに置く。その上であまりタイムリーかつプレミアムではない動画はソーシャルメディアで配信し、ブランドを見つけてもらう媒体として利用しているのだ。
また、ワシントン・ポストのようなパブリッシャーは、動画配信がビジネスを牽引することはないだろうという前提のもとで動いている。ブリーチャー・レポートは、再生数よりも動画によるエンゲージメントを重視している。なぜなら、エンゲージメントは広告主へのセールスポイントになるからだ。
「再生された動画はすべて収益化されるべきで、動画再生数こそが成功の羅針盤となるだろう」とエルナンデス氏。「そして本当に重要なのはユーザー体験の質だ。それを満たせば、オーディエンスは自社の動画を気に入って、積極的にシェアしてくれるようになる」。
Lucia Moses(原文 / 訳:SI Japan)