サブスクリプション 導入、「最大の難関」は社内の体制

パブリッシャーのあいだで、広告ビジネスとサブスクリプションビジネスをバランスよく手がけるべきだという意見が、かつてないほど大きくなっている。だが、このふたつは互いに対立するものだ。広告部門はできるだけ多くのオーディエンスを集めたいと考えるが、ペイウォールやメーター制課金を導入すれば、広告インベントリー(在庫)が制限されるのは避けられない。ターゲティングに利用できるファーストパーティデータが増え、広告チームの不満を多少和らげることができたとしても、両者の対立は残る。

パブリッシャーが広告部門とサブスクリプション部門を切り離すかどうかを決める頃には、この基本的な対立は全社レベルの問題となる。パブリッシャーのさまざまな業務と同じく、適切な体制を構築できるかどうかは、企業の歴史、ビジネスモデル、そして人材にかかってくる。

人材で解決する場合

消費者向けビジネスを事業の中心にしているパブリッシャーでは、両方の部門の責任者が同じ人物になっていることがある。ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は、2015年にメレディス・コピット・レビエン氏をCRO(最高収益責任者)に昇格させたが、彼女は消費者向けビジネスの責任者でもある

政治ニュースサイトのポリティコ(Politico)は、12月にボビー・モラン氏をCROに任命したとき、彼をサブスクリプションサービスのポリティコ・プロ(Politico Pro)を含むすべてのビジネスの責任者にした。その狙いは、収益に関する話をひとりの人間がすべて行えるようにすることと、収益性の高い製品を増やすという同社の目標をサポートできるようにすることだと、モラン氏はいう。

専門家向けにヘルスケア関係のニュースや情報を発信し、年額299ドル(約3万3000円)のサブスクリプションサービスを提供しているスタット(Stat)は、2年前から広告ビジネスと消費者向けビジネスの両方をアンゴス・マコーリー氏が監督している。おかげで、一方に集中しても一方を犠牲にしてしまうことがないと、マコーリー氏はいう。

「両方のビジネスを監督するのはやり甲斐がある。どちらも私にとっては重要だ」と、マコーリー氏は話す。「我々がある会社の良くないニュースをたくさん報じたとしても、サブスクリプションの面では良いことだ。だが、その会社が広告主になる可能性があったとすれば、とまどうことになる」。

ニューヨーク・タイムズも、同じような組織的アプローチを採っている。自分たちを消費者向けビジネスの会社と定義する同社は、デジタルサブスクリプションの収益が印刷メディアの収益を上回っている。この状況を支えているのが、適切な人材だ。レビエン氏は、広告ビジネス担当幹部というだけではない。かなり前にコンサルティングを手がけた経験があるほか、これまでのキャリアのなかで、さまざまな編集関連業務を経験している。

モデルを改善する方法

また、サブスクリプションモデルの種類も重要な要素だ。ポリティコやスタットなど、専門家向けにかなり高いサブスクリプション料を設定しているパブリッシャーや、無料で読める記事の数が非常に多いペイウォールを設定しているパブリッシャーは、広告収益を犠牲にする心配がそれほどない。ポリティコのモラン氏によれば、同社ではサブスクリプションサービスの顧客が広告主になっていることも多いという。

スタットで、CROがすべてのビジネスを管理しているのには、いくつかの理由がある。同社はまだ若い(従来型の広告ビジネスに支えられていない)。また、同社が手がけているのはB2B事業であり、サブスクリプションからの収益が、付加的なものでなく、ビジネスの根幹を成している。さらに、同社は社員が40人ほどしかしない小さな会社だ。同社のようなアプローチを、規模の大きな会社が採ることは難しくなる可能性がある。社内がなかなかひとつにまとまらないからだ。「組織がサイロ化している場合は、コミュニケーションをうまく取ることが最大の問題になる」と、マコーリー氏は語った。

従来型のパブリッシャーが、消費者ビジネスを拡大したり、新たにはじめたりする場合には、消費者向けビジネスと広告ビジネスを異なる部門が対応していることから生じる落とし穴に注意する必要がある。ふたつの部門が競い合っている状況では、声が大きく、短期間で収益を増やせる部門(たいていは広告部門)が技術や製品といったリソースを独り占めし、もう一方の部門(たいていは消費者向けビジネス部門)が損失を被ることになりかねない。

「社内のリソースの多くは広告ビジネスをサポートするようになっているため、仕事のやり方をもっとも大きく変える必要があるのは広告販売部門だ」と、パブリッシャーの元幹部で、パブリッシャーのマネタイズに関するコンサルティングを手がけているキース・エルナンデス氏はいう。「広告営業部門の社員は、自分たちが会社の収益にもっとも大きな影響を及ぼしており、リソースや人間関係をほかの部門に取られないようにする必要があると教えられている。だが、いまはさまざまな部門の収益が拡大していることを、彼らは認める必要がある」と、エルナンデス氏は語った。

専任が一番という見方

しかし、歴史のある企業でも新興企業でも、デジタルパブリッシャーの多くは、広告ビジネスと消費者向けビジネスを切り離すべきだと考えている。ビジネスの対象が異なるからだ。前者は広告主、後者は読者を顧客にしている。

ニューヨーク・メディア(New York Media)では、印刷メディア、eコマース、サブスクリプションといった消費者向けビジネスの責任者を、CROだけでなく、CEOのパム・ワッサースタイン氏が務めている。かつては、印刷メディアだけが消費者向けビジネスだったという歴史的経緯があるからだ。また、そのほうが、各部門の責任者が優先すべき事業が明確になると、ワッサースタイン氏は述べている。

「eコマースの責任者には、アフィリエイトコマースだけに集中して、最高の成果を上げてもらいたい」と、彼女はいう。「同じように、CROには、広告営業チームを統率してほしいと考えている。これらは異なるビジネスなので、やや違った形で取り組む必要があるのだ」。

この話は、コマースにも当てはまる。BuzzFeedはペイウォールを設けていないが、eコマース部門を拡大し、ネイティブ広告以外の収益獲得手段を増やそうとしている。コマースの責任者を務めるのは、CEOのジョナ・ペレッティ氏とCROのリー・ブラウン氏だ。コマースと広告ビジネスは、一緒に仕事をする機会がたくさんある。たとえば、BuzzFeedが別の企業とライセンス契約を結んで、その企業の製品を販売すれば、売上の一部を手に入れられるだけでなく、その企業がBuzzFeedを利用して製品の広告を出す可能性がある。だが、製品販売と広告販売は、根本的に異なる仕事なのだ。

「広告、コマース、コンテンツスタジオの3つのなかで、もっとも異なっているビジネスは広告だ。広告はクライアントとともに仕事をすることが多く、クライアントのニーズや彼らが重視していることを十分に理解する必要がある」と、ペレッティ氏はいう。「コマースでは、消費者にぴったり寄り添う必要がある。彼らが何を買いたいと思っているのか、どのように買い物をしているのかが重要なのだ」と、ペレッティ氏は指摘した。

最大の問題は人材

おそらく、最大の問題は人材だ。CROの多くは、広告の取引や販売を手がけていた経験があっても、消費者向けビジネスの運営に必要な経験に乏しい。理屈のうえでは、すべてのビジネスをひとりの人間が監督するというのは優れたアイデアかもしれないが、それをうまくできる人は多くない。

「有料コンテンツを手がけているパブリッシャーが、印刷メディアの減少を埋め合わせるためにできることは何もない」と、かつて印刷メディアを手がけていたパブリッシャーはいう。「新しい収益機会を作り出す仕事を、彼らに任せるべきではないと主張してもいいと思う。そうしなければ、彼らを失敗に導くことになるからだ」。また、こう主張してもいい。「動画のライセンスビジネスや、レストランやナイトクラブの経営について、彼らが何を知っているんだ」と。

「短期的な解決策は、抑制と均衡を図りながらプロセスを進めるか、読者と広告主の両方の利益に気を配る、最高カスタマー責任者のようなまったく新しい役割を作るかだろう」と、ギズモード・メディア・グループ(Gizmodo Media Group)の前CEO、ラジュ・ナリセッティ氏いう。「組織の体制を変えることは、口でいうほど簡単ではない」。

Lucia Moses(原文 / 訳:ガリレオ)