- 2022年7月に約1015億円でSPAC上場を果たした著名eスポーツチームのFaze Clanだが、10月第3週にわずか2%の全額株式交換で売却されることとなった。
- Faze ClanのIR資料ではその人気と成功を強調していたが、実際には財務とカルチャーの両面で問題を抱えており、根拠のない主張が多い。
- 買収元のGamesquareは立て直し可能であるとしているが、ブランドパートナーシップに大きく依存していたFaze Clanの未来は明るいとは言い難い。
2022年7月、Faze Clan(フェイズ・クラン)は7億2500万ドル(約1015億円)の合併を経て上場した。15カ月後、Faze Clanの所有者らはその額のわずか2%強の全額株式交換で、同団体を複数のゲーミング事業を展開するテクノロジー/メディア企業であるゲームスクエア(GameSquare)に売却した(現在、株主の承認を待っている)。
かつて業界に君臨したゲーミング/eスポーツ団体、Faze Clanにとって、2023年は概して最悪の1年だった。Faze Clanの株価が1ドルをはるかに下回る紙切れにまで落ちるなか、経営陣は投資家とかつての創業者の双方から集中砲火を浴び、財務とカルチャーの両面におけるずさんな管理運営体制を厳しく非難された。
10月第3週、Faze Clanがゲームスクエアに買収された際、多くはその一報に驚いた――が、Faze Clanがブランドとして生き残る道はおそらく、ほぼそれしかなかった。
Fazeはどこで道を間違えたのか
この一年に起きたFaze Clanの急激な崩壊を受けて、そもそもそんな団体になぜ、2022年7月、投資に同意した者がいたのかと、首を傾げる観測筋もいるかもしれない。だが、ゲーミング/eスポーツ界ではとりわけ、未来予測は極めて難しい。事実、SPAC(特別目的買収会社)と合併に至るまでの長年、Faze Clanは誇大宣伝の網中にすっぽりと包まれており、手練のeスポーツ幹部らでさえ、同団体の華々しい「ゴールデンエイジ」が本物なのか、それとも虚飾に塗れた眉唾物なのかの判断は下せなかった、ということなのだろう。
「我々に言わせれば、Fazeにはまだ巨大なチャンスがある。ブランド広告主の立場から見て、Faze Clanを基本に立ち返らせる、つまり、コンテンツに専心し本気でオーディエンスを向き合う姿勢に手を貸せる絶好のチャンスが」と、ゲームスクエアCEOのジャスティン・ケンナ氏は買収発表の前日、米DIGIDAYの取材に応えて語った。「成長し、新たな才能を引き入れ、創業者らと緊密に連携することが、彼らのビジョンを真に達成させる一助になるだろう」。
Faze Clanによる2022年7月の投資家向け説明会は、SPACとの合併への関心を引くために同団体が実施したものだが、良くも悪くも、IR情報ページでいまも見ることができる。収益性獲得に向けての同団体の苦闘は誰もが知るところだったことを考えると、このようなピッチデックをeスポーツ投資家が再び目にすることは、少なくともしばらくはないだろう。
Faze Clanが掲げた未来構想は一体、どこでおかしくなったのか。そして、それらの困難を招いた種は、SPACとの合併のはるか前に、いかにして蒔かれていたのか。その謎を解明するべく、DIGIDAYはFaze ClanのIRページから2022年7月のピッチデックのコピーを入手した。[続きを読む]
- 2022年7月に約1015億円でSPAC上場を果たした著名eスポーツチームのFaze Clanだが、10月第3週にわずか2%の全額株式交換で売却されることとなった。
- Faze ClanのIR資料ではその人気と成功を強調していたが、実際には財務とカルチャーの両面で問題を抱えており、根拠のない主張が多い。
- 買収元のGamesquareは立て直し可能であるとしているが、ブランドパートナーシップに大きく依存していたFaze Clanの未来は明るいとは言い難い。
2022年7月、Faze Clan(フェイズ・クラン)は7億2500万ドル(約1015億円)の合併を経て上場した。15カ月後、Faze Clanの所有者らはその額のわずか2%強の全額株式交換で、同団体を複数のゲーミング事業を展開するテクノロジー/メディア企業であるゲームスクエア(GameSquare)に売却した(現在、株主の承認を待っている)。
かつて業界に君臨したゲーミング/eスポーツ団体、Faze Clanにとって、2023年は概して最悪の1年だった。Faze Clanの株価が1ドルをはるかに下回る紙切れにまで落ちるなか、経営陣は投資家とかつての創業者の双方から集中砲火を浴び、財務とカルチャーの両面におけるずさんな管理運営体制を厳しく非難された。
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10月第3週、Faze Clanがゲームスクエアに買収された際、多くはその一報に驚いた――が、Faze Clanがブランドとして生き残る道はおそらく、ほぼそれしかなかった。
Fazeはどこで道を間違えたのか
この一年に起きたFaze Clanの急激な崩壊を受けて、そもそもそんな団体になぜ、2022年7月、投資に同意した者がいたのかと、首を傾げる観測筋もいるかもしれない。だが、ゲーミング/eスポーツ界ではとりわけ、未来予測は極めて難しい。事実、SPAC(特別目的買収会社)と合併に至るまでの長年、Faze Clanは誇大宣伝の網中にすっぽりと包まれており、手練のeスポーツ幹部らでさえ、同団体の華々しい「ゴールデンエイジ」が本物なのか、それとも虚飾に塗れた眉唾物なのかの判断は下せなかった、ということなのだろう。
「我々に言わせれば、Fazeにはまだ巨大なチャンスがある。ブランド広告主の立場から見て、Faze Clanを基本に立ち返らせる、つまり、コンテンツに専心し本気でオーディエンスを向き合う姿勢に手を貸せる絶好のチャンスが」と、ゲームスクエアCEOのジャスティン・ケンナ氏は買収発表の前日、米DIGIDAYの取材に応えて語った。「成長し、新たな才能を引き入れ、創業者らと緊密に連携することが、彼らのビジョンを真に達成させる一助になるだろう」。
Faze Clanによる2022年7月の投資家向け説明会は、SPACとの合併への関心を引くために同団体が実施したものだが、良くも悪くも、IR情報ページでいまも見ることができる。収益性獲得に向けての同団体の苦闘は誰もが知るところだったことを考えると、このようなピッチ資料をeスポーツ投資家が再び目にすることは、少なくともしばらくはないだろう。
Faze Clanが掲げた未来構想は一体、どこでおかしくなったのか。そして、それらの困難を招いた種は、SPACとの合併のはるか前に、いかにして蒔かれていたのか。その謎を解明するべく、DIGIDAYはFaze ClanのIRページから2022年7月のピッチ資料のコピーを入手した。
華やかで過大な「フェイズ理論」
Faze Clanは第一セクションを「フェイズ理論」と題し、8枚のスライドで、eスポーツ企業の根本的ビジネスケースの概略を説明するとともに、ゲーミング/eスポーツのライフスタイルおよびエンターテイメントチャネルとしての成長が供する一般的機会を示した。
ただ、Faze Clanの最近のニュースに鑑みるに、この時点で早くも危険信号が点滅している箇所がいくつか見受けられる。同デッキの11枚目のスライドに、Faze ClanはNBAのロサンゼルス・レイカーズとゴールデンステート・ウォーリアーズに次いで、「諸活動から判断し、米独立系団体の中で第三位」と記している。
「諸活動から判断し、米独立系企業の中で」という曖昧な括りを設けているとはいえ、近年のFaze Clanの株価暴落や投げ売りでの買収を見れば明らかなとおり、Faze Clanがニューヨーク・ヤンキースやダラス・カウボーイズといった従来型スポーツの有名チームよりも人気があるとは(IR資料には明白にそう記されているが)到底思えない。少なくともヤンキースやカウボーイズが評価額のわずか2%程度で競合他社に身売りする姿は、想像もできない。
10枚目のスライドにも同じく、2023年のいまとなっては、空しさが少々漂う。そこにはFaze Clanの「マネジメントチームおよび取締役会の著名」メンバーが紹介されている。eスポーツおよびエンターテインメント界の名だたる者たちが14人記されているわけだが、その多くはすでにFaze Clanと関わりを持っていない。
元CEOのリー・トリンク氏は9月に同団体を後にし、スヌープ・ドッグも4月に去っている。また、同じくリストに名を連ねていたタミー・ブランツ、カイ・ヘンリー、ヘレン・ウェブ、ダニエル・シリブマンも、もはやFaze Clanと公式に関わりを持っていない。
eスポーツの明るい未来?
第二セクションは「業界の動態」と題された3枚のスライドからなり、従来型スポーツおよびTVといった他のエンターテインメントおよびメディアチャネルと比較しながら、eスポーツに明るい未来が確約されている旨を説明している。
いわゆる「eスポーツの冬」の嵐が吹き荒れるなか、従来型スポーツを上回るeスポーツの利点ばかりにフォーカスし、両者の有意な違いをビジネス的観点から説いていないことからも、この資料が投資家に損害を与える恐れのあるものだったことは明白だ。
16枚目のスライドには、eスポーツ中継のオーディエンスが2019年から2022年にかけて34%の成長を見せたと記されている――が、eスポーツ視聴は従来型スポーツのそれに比べて、収益化効率が著しく低い、という事実は無視されている。eスポーツリーグには従来型スポーツリーグが享受する潤沢な利益を生む放映権契約が存在せず、そのためオーディエンス数の急速な伸びは、投資に対する見返りに関して、大した意味を持たない。
15枚目のスライドには、Faze Clan(および他のeスポーツ企業)が近年のオーディエンスによるメディア消費習慣の変化の恩恵を受けている、と記されており、ミレニアル世代とZ世代の40%が友人と実世界ではなくバーチャルで遊ぶことを好む、という調査結果が引き合いに出されている。その一方、ゲームおよび他のバーチャルエンターテインメント形態が2020年および2021年のコロナ禍によるロックダン中に経験した激しい落ち込みについては、一切触れられていない。また、現代の視聴習慣変化の恩恵をFaze Clanが他の一部団体よりも享受しているのは事実だが、この変化がどの程度定着するかについては、定かでない。
重要問題を見て見ぬふり
資料の最後の6枚のスライドは、投資家にとって最も重要な同団体の側面にフォーカスしている――収益化戦略だ。そして10月第3週、Faze Calnがゲームスクエアによる買収を発表したのは、潜在的収益源として下掲のスライドに詳細に説明されている手段の多くをすでに試した後のことだった。
上掲のスライドによれば、Faze Clanの収益化戦略は複数のプラットフォームにわたる多様なものであり、それにはブランドスポンサーシップやチームマーチャンダイズなど、有効性が実証済のeスポーツ収益源に加えて、「現金ギャンブル」や「バーチャルダイニングコンセプト」といった、より投機的な計画も含まれていた。ところが2023年、Faze Clanは依然として収益の大半をブランドパートナーシップに依存しており、それ以外の収益源にはほとんど投資を行っていない。
さらに言えば、同デッキにはマクドナルド(McDonald’s)やドアダッシュ(DoorDash)など、有力な非ゲーミング領域ブランドとのスポンサーシップの可能性が記されているが、2022年で契約が切れた一部ブランドと再契約を結んではいるものの、同団体が2023年に締結した新規ブランドパートナー契約の数は多くない。
ゲームスクエアの傘下で繁栄を望むのであれば、Faze Clanにはブランドのマーケティング予算頼みを脱するべく、さらなる多様化が必要とされるだろう。
「経常収益の確立は、大手eスポーツ団体にとってでさえ以前から非常に困難なものとなっている」と、スカイバウンド・エンターテインメント(Skybound Entertainment)およびゴール・ベンチャーズ(GOAL Ventures)のM&A専門家ネッド・シャーマン氏は話す。「彼らは広告およびスポンサーシップに過度に依存しており、それらはしかも、期待されたようには収益化されていない」。
[原文:Pitch deck: How FaZe Clan sold investors on its $725 million SPAC merger]
Alexander Lee (翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)