ワイアード(WIRED)日本版のサブスクリプションサービス、ワイアード SZ メンバーシップ(WIRED SZ MEMBERSHIP)は、この10月で1周年を迎える。同サービスの運営チームはこの1年、緻密な検証とPDCAを重ねることで、ユーザー体験の改善・向上に努めてきた。
「1週間の無料トライアル」だと、当初設定していた「2週間の無料トライアル期間」より、圧倒的に高いCVRを獲得できたという。
この10月で1周年を迎える、ワイアード(WIRED)日本版のサブスクリプションサービス、ワイアード SZ メンバーシップ(WIRED SZ MEMBERSHIP)。同サービスの運営チームはこの1年、緻密な検証とPDCAを重ねることで、ユーザー体験の改善・向上に努めてきた。
ワイアード SZ メンバーシップは、月額980円。会員は限定記事やニュースレターを楽しめるほか、ミートアップなどに参加できる。「読者と思索するための場」を目指してスタートした同サービスでは、コンテンツの拡充も去ることながら、緻密な検証に基づく緻密なUI・UX改善が行われてきた。たとえば、新規登録を促すモーダルの掲出位置や、無料トライアル期間についても、根気強くABテストを繰り返すことで細かな最適化を行なっている。
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「ローンチ時から、緻密な検証や調査を実施してきたこともあり、さらなるサービス成長のための仮説は、ある程度立っている」。こう語るのは、コンデナスト・ジャパン(CONDÉ NAST JAPAN)で、ワイアード SZ メンバーシップ プロジェクトリーダーを務める髙橋努氏だ。同氏は10月6日、PIANO Japan(以下、PIANO)主催のイベント、「PIANO Recital 2020 〜真のデジタル改革を実現するために〜」に登壇。ワイアード SZ メンバーシップのこれまでの取り組みについて語った。
「読者と思索するための場」
ワイアード日本版は、テクノロジーやカルチャーといったジャンルを軸に、読者の深い思索に資するような、内容の濃い記事を届けている。また、1本の記事だけで完結するのではなく、ほかの記事と合わせて読むことで、編集部の意図や内容について、より理解が深まる構造になっているという。
しかしWebメディアの場合、雑誌のようにコンテンツをパッケージ売りするのは難しい。そのためワイアード日本版には、アクティブなファンを除いて、前述したような合わせ読みを楽しむ読者が少ないという課題があった。「記事を1本読んだらすぐに離脱してしまうユーザーが多く、編集部の意図を理解してもらうのは難しいと、常々感じていた」。
そこでコンデナスト・ジャパンは、2019年10月、ファンとのより深いコミュニケーションを通じた継続的な関係構築を実現すべく、ワイアード SZ メンバーシップをスタート。なお、同サービスの名の「SZ」には、思索(specurate)する場(zone)という意味が込められている。「我々が直面している社会課題について、読者と一緒に思索を深めていきたいと考えた」。
現在の運営体制
現在、ワイアード SZ メンバーシップの料金は月額980円。会員は、編集部がセレクトした会員限定記事や、編集長の解説が掲載されたニュースレターを読むことができる。加えて、年4回発行される雑誌版のPDFダウンロードや、会員限定ミートアップへの参加が可能なほか、有料イベントにも優待価格で参加できるという。
また、ワイアード SZ メンバーシップの運営には、編集部以外にもさまざまなチームが関わっている。現在、コンテンツ制作は編集部、P/Lの設計やマーケティングはセールスと開発部門、そして各種データ分析や検証はデータチームが担当。それぞれのチームが連携し、PDCAを回しながらサービス向上を図っているという。
「運用体制はローンチ時から変わっていない。良質なサービス継続のためには、適切な役割分担を行い、チーム同士の連携を取ることが重要だ」。
緻密な検証が大切
そんなワイアード SZ メンバーシップが、いまもっとも重要視しているのが、LTV(Life Time Value)の向上だ。
ワイアード日本版では、LTVを単価×継続期間で算出し、これを高めるためのサービス向上と、効率的な新規顧客の獲得を図っている。新規顧客の獲得に関しては、PIANOのツールを活用し、日々緻密な検証を行なっているという。
せっかくコストをかけてユーザーを獲得しても、タッチポイントや登録時のUI・UXがいまいちだと、早期の離脱に繋がってしまう。その結果、獲得効率も低下する。高橋氏は「申し込むまでの体験もしっかり設計することが、LTVの向上にも繋がる」と強調する。
オファーを出すタイミング
では、具体的に何を検証したのか。そのひとつが、訪問ユーザーへの最適なオファータイミングだ。画面の大きさや読み易さは、デスクトップやタブレット、モバイルなど、デバイスによって差がある。
「どのタイミングでオファーを出せば、記事の続きが読みたくなるか、そして登録したくなるかを検証する必要があった。具体的には、どの程度記事がスクロールされたらレコメンドを行うべきかのテストを実施した」と、高橋氏は語る。
ワイアード日本版のWebサイトでは、非サブスクライバーが有料記事にアクセスした場合、ある程度記事を読み進むと、会員登録を促すモーダルが出現する。ワイアード SZ メンバーシップのチームは、このモーダルの出現位置を、デスクトップ、タブレット、モバイルで、それぞれ記事トップから1000px、2000px、3000pxの位置に設定。ABテストを実施した結果、デスクトップの場合は3000ピクセル、スマホは2000ピクセルの位置がもっとも獲得効率が良いことがわかったという。
トライアルの期間
次に検証したのはトライアルの期間だ。ワイアード SZ メンバーシップでは立ち上げ当初、2週間の無料トライアル期間が設定されていた。「週5回の記事配信や、週末のニュースレターの配信を考えての判断だ。2週間もあれば、提供しているサービスをひと通り体験してもらえるだろうと考えた」と高橋氏。しかし一方で、それが本当に最適なのか、明確な確証はなかったという。
そこで、ワイアード SZ メンバーシップのチームは、「1週間の無料トライアル」「初回1週間は100円のトライアル」「トライアルなし」と、3パターンの方式をPIANOを用いて検証。その結果、この3パターンでもっともCVRが高かったのは「1週間の無料トライアル」だった。高橋氏によると、2週間で設定していたときを圧倒的に上回るCVRを記録したという。
また、トライアル後の継続率に関しても、2週間のときとほとんど変わらなかった。「この結果には正直驚いた」と、高橋氏は満足気に語る。これを受け現在、無料トライアル期間は1週間に設定されているという。
今後の展開
今後ワイアードでは、引き続き緻密な検証を続けるとともに、ユーザーの行動やニーズを可視化するための行動分析やアンケート調査も積極的に実施していくという。実際、現在も登録後にロイヤルティが向上したユーザーに注目し、登録のきっかけになった記事や、よく読まれている記事、イベントへの参加率、PDFのダウンロード状況といったデータをもとに、分析を行なっている。
「ローンチ時から緻密な検証や調査を実施してきたこともあり、さらなるサービス成長のための仮説は、ある程度立っている。それをもとに、さらに幅広いユーザーに楽しんでもらえるサービスを作れるよう努めていきたい」。
Written by 滝口雅志、村上莞
Image by 「WIRED」日本版