いま再び、パブリッシャーは広告界の花形となっている。 ユーザーレベルの追跡(トラッキング)に対するGoogleの強硬姿勢を受けて、現在、個人情報はその地位をますます高めており、パブリッシャーはそれを大量に持っている。だが […]
いま再び、パブリッシャーは広告界の花形となっている。
ユーザーレベルの追跡(トラッキング)に対するGoogleの強硬姿勢を受けて、現在、個人情報はその地位をますます高めており、パブリッシャーはそれを大量に持っている。だがそれでもなお、彼らはこの状況を悲観視せずにはいられない――少なくとも、あるパブリッシャー幹部はそうだ。
たしかに、それらのデータに喜んで金を払うアドテクベンダーとエージェンシーは数多いが、そうした類はパブリッシャーにだけは冷たい傾向があるという。匿名性を保障する代わりに本音を明かしてもらう告白シリーズ。今回はそう語る同幹部に話をうかがった。なお、読みやすさを考慮し、発言には編集を加えてある。
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ーーパブリッシャーとそのデータは現在、引く手あまただ。そんな人気の背景について、なぜそこまで悲観的に?
ID、ID、ID。アドテクとバイサイドはいま、口を開けば、そればかりだ。ただし、それが当局の耳にどう聞こえるのか、みんなよく考えたほうがいい。プライバシーのコンプライアンスまで気にしている人間は、このエコシステムにはひとりもいない気がする。ユーザーに同意を確認できるからといって、それだけでコンプライアンスは問題ない、というわけじゃない。
パブリッシャーも同じようなものだ。パブリッシャーはいま、ウォールドガーデン外での勝者を決める陰の実力者と見られているかもしれないが、つい最近まで、業界の未来に対する考え方は各社バラバラだったし、皆ちっぽけな自分の事業にだけ目を向けていた。そのせいでエコシステムに対する目が曇り、結果的に、すべてをメディアの商業的部分や巨大プラットフォーム、アドテクベンダーと結びつけてしまった。いまこそ、それを変えようと立ち上がるときなんだ。
いや、皆で団結し、独禁法反対の動きを押し進めるべき、と言っているわけじゃない。それよりもむしろ、我々パブリッシャーは何を提供しないとならないのか、そしてそれを適切に扱い、大切にするにはどうしたらいいのか、真剣に考える必要がある。
ーーほかのパブリッシャーも同じ見方を?
何とも言えない。何人かヨーロッパの同僚と話したが、彼らの見解は、いわゆる代替識別子をサポートするべき、だった。さもないと、広告予算がGoogleにますます流れているなか、業界全体がGoogleに負けてしまうからだと。別の言い方をすれば、彼らは皆、長年パブリッシャーを搾取してきたエコシステムを修復したいと思っている。
ーー搾取とは? もう少し詳しく
サードパーティCookie全盛期、ファーストパーティデータには、誰も興味がなかった。そのせいで我々は、エージェンシーとアドテクベンダーの好きにデータを集めさせ、再利用させ、リパッケージさせ、現金化させていた。結果、仲介業者がごまんと現れ、ありとあらゆる企業で溢れかえったのはご存知のとおりで、それはもちろん、パブリッシャーと広告主、どちらのためにもならなかった。
いまこのファーストパーティデータを、代替識別子という我々の手に負えないものに解放してしまうと、また同じことのくり返しになる。そのうちにクロスサイト識別子が生まれれば、どこも独自にセグメントを構築できるようになる。そうなったら最後、パブリッシャーデータの必要性なんてどこにある? バリューチェーン(価値連鎖)における我々の存在感がまた薄まってしまう。
ーーだが、いまの最新ソリューションを主導しているのは、どこよりもパブリッシャーじゃないかと、アドテクベンダーは言うでしょう。彼らがそうした識別子と折り合いを付けていくには、何が必要だと?
パブリッシャーデータとファーストパーティデータをサポートし、プログラマティックエコシステム内において、プライバシーセーフガードが有効な状態で使えるようにすること。それを実践するアドテクベンダーには、存在意義がある。
ーーこれまでの経験を踏まえて、そんなことが可能だと?
可能だ。実際、Googleの発表の前からすでに、改善の兆候はあった。ファーストパーティデータにフォーカスし、プライバシーに十分配慮した形でデータをマーケットにもたらせるようパブリッシャーに協力するテックベンダーが、ヨーロッパにはすでに現れている。そしてそれはまさに、我々がしようとしていることだ。たとえば、パブリッシャーIDを利用すれば、FirefoxやSafariといった、サードパーティCookieをブロックするブラウザにおけるフリークエンシーの回復を促せる。
ーー多くのアドテクベンダーがパブリッシャーとの付き合い方を変えられない、あるいは変えようとしない場合は?
彼らの座を狙っている会社はほかにいくつもある。たとえばインフォサム(InfoSum)もそうだ。パブリッシャーや広告主からパーソナルデータを集めており、[彼らのビジネスの]基本となるデータクリーンルームコンセプトのおかげで、その保存に関連するリスクを排除する術も見つけている。
ーーエージェンシーがこの難局を乗り切るのは、どれほど困難?
エージェンシーは危機に瀕していると思う。彼らには独自のデータもなければ、問題解決に寄与するテクノロジーもない。彼らはもはやデータセットを持たないただの仲介業者であり、パブリッシャーやクライアントからのデータを必要としている。ただし、それにはプライバシー問題を大いに考慮する必要がある――しかも広告主側と、パブリッシャー側の両方で。であれば、サードパーティにデータモデリングさせるなど、恐ろしくてできるわけがない。効果にも疑問が残るし、そもそもウィンウィンにできるとも思えない。
ーーそれが、ユーザーレベルの識別子をサポートしないとしたGoogleの論理的根拠なのでは?
Googleの姿勢は理解できる。出所の保証がないデータをシステムに取り込むわけにはいかない。プライバシー強化と競争は両立しない――Googleはそう見せているわけで、実に賢いやり方だ。いやもちろん、両立は可能だが。
それともうひとつ、Googleにはプラットフォームの壁を越えたデータ共有、データ最小化、単一スコープ同意に関して、GDPR(一般データ保護規則)を厳しく適用する必要もある。これはあくまで個人的意見だが、自ら所有/管理するプラットフォームでユーザーレベルのクロスサイトトラッキングを保持しておきながら、広く市場に対しては禁じる、などというGoogleの横暴が許されることのないよう、パブリッシャーは当局に全力で働きかけるべきだ。
Googleがサードパーティおよび市場に対してPrivacy Sandboxという薬を処方するなら、彼らもまた同じ薬を飲むべきなんだ。だから我々には、我々とサードパーティがSandboxの機能にきちんと平等にアクセスできるよう、フォーカスする必要がある。
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:長田真)