メディア企業の広告事業はコロナウイルスの危機が始まった3月末と4月に急落したあと、2020年後半に入って回復し、10月にさらに加速した。 あるメディア幹部は、同社の10月の売上高は、昨年10月より2桁ポイント増加した […]
メディア企業の広告事業はコロナウイルスの危機が始まった3月末と4月に急落したあと、2020年後半に入って回復し、10月にさらに加速した。
あるメディア幹部は、同社の10月の売上高は、昨年10月より2桁ポイント増加したと述べた。2人目のメディア企業幹部は、10月には第2四半期全体とほぼ同程度の売上を獲得する予定だと述べている。さらに、3人目のメディア企業の幹部は、10月の売上高だけで第2四半期を上回ったと述べた。
第2四半期との比較は必ずしも適切とは言えない。多くのメディア企業にとってコロナウイルス危機の直後の第2四半期は、人々は自主隔離を、広告主は支出削減を強いられ広告市場が底を打った時期だった。メディア企業は、第3四半期には自宅待機令が緩和され、広告主が再び支出を開始し、第4四半期には増加に転じて、米国大統領選挙とクリスマス商戦に向かうことを期待していた。
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しばらくは選挙一色の様相
4人目のメディア幹部は、「誰もが今年の第4四半期で(広告)ビジネスが大きくなることを計画していた。それには政治が大きく関係している」と述べた。グループエム(GroupM)は、政治広告主は今年、デジタル広告の10億ドル(約1053億円)を含め、広告に150億ドル(約1.5兆円)を費やすと予測した。
しかし、政治がすべてのメディア企業のビジネスを後押ししたわけではない。2人目のメディア担当幹部は、「棚ぼた的な政治広告からの収入は確認していない」と語った。代わりに、消費財、ストリーミング、製薬、ヘルスケア、テック系の広告主によって収益回復が加速されているという。1人目のメディア幹部も同様に、同社は政治的な広告主から恩恵を受けているものの、ストリーミング企業は広告支出を続けており、さらに新しい携帯電話やゲーム機がクリスマス前に発売されることから家電メーカーからより多くの資金が広告市場に流入していると述べた。
非政治広告主からの広告支出は、選挙関連の広告費が消えたあと、さらに重要になるだろう。メディアや広告代理店の幹部によると、政治広告主はYouTubeの広告供給を吸い上げるなど、市場の広告の多くを買い占めてきたため、ほかのカテゴリーの広告主のなかには、競争が沈静化する選挙後まで第4四半期予算の一部を先送りしていたところがあったという。「すべて(広告)の値段が高くなり過ぎれば、支出は行われない。選挙後には、恒例のクリスマス商戦の需要が流れ込んでくると予想している」と、3人目のメディア幹部は言った。
短縮されたRFPサイクル
しかし、2020年で痛いほど身に染みた教訓があるとすれば、世の中に100%確実なものなど存在しない、ということだろう。今春以来、広告主は長期的なコミットメントに慎重になっており、それは今年のテレビのアップフロント市場で広告主が大きな柔軟性を求めたことが証明している。その結果、「RFPサイクルは大幅に短縮された」と3人目のメディア幹部は語った。パンデミックが起こる前は、広告主がメディア企業に広告の販売提案の提出をリクエストしてから、その提案を受け取るまでのサイクルは「買い手が売り手にどれだけ寛大かにもよるが、2週間から4週間のあいだだった。現在では1日から7日のあいだとなっている」と、広告代理店の幹部のひとりは語った。
この販売サイクルの短縮は、メディア企業が今まさに11月と12月の契約締結の真っただ中にいるだけでなく、未だに年末2カ月の全体的な需要を見計っていることを意味する。
「第4四半期の後半がどうなるかは、まだ確定していないようだ。我々のクライアントのなかでも、多くのブランドが12月の支出割り当てをどうするか(決定するために)選挙の結果を待っている」と1人目のメディア幹部は語った。
「第4四半期は過去最大」
広告市場の不安定さを警戒する一方で、メディア企業の幹部らは、11月と12月について楽観視している。それは抑えられていた非政治広告の支出が選挙後に市場に流れること、クリスマス商戦で広告主が大量に支出を増やすことだけが理由ではない。通常、年末までにすべての広告費を使い切らなければ、余った予算は翌年に持ち越せない。さらに予算を余らせてしまうことで、翌年に同じ規模の予算を獲得するのが困難になる可能性がある。そのため、広告主たちは、年末までにすべての広告費を使い切ろうとする。今年は特に、広告主が春と夏の広告支出削減で、通常よりも多くのお金を抱えている可能性があり、年末に向けての支出増加は例年以上になるかもしれないのだ。
経済的なダメージが長期的に続く可能性を考えると、メディア企業がこの追加資金を獲得することは特に重要だ。2021年の広告予算がどうなるかは不透明であり、海外ではパンデミックの悪化で新たなロックダウンが次々と出されているなかで、メディア企業が厳しい冬の寒さを乗り切るためには第4四半期に最大限、懐を温めておく必要があるかもしれない。2021年の広告主の予算規模がどのようなものであれ、デジタル広告の割合は増加すると予想されている。そのため、現在の広告の伸びが鈍化した場合でも、デジタルメディアで大きな存在を持ち、コネクテッドTV事業を確立しているメディア企業は有利な立場にあるだろう。しかし、2020年の混乱を振り返ると、それも確実だとは言えない。
2人目のメディア幹部は、「第4四半期は過去最大の四半期になるだろう。コロナウイルスが発生する前から、この四半期が最大になると計画を立てていたが、(パンデミックが起きたことで)それが実現するかどうかは非常に疑問だった。今となっては大きな疑問は、これ(広告収益の増加)が新年にも引き継がれるのか、ということだ」と述べた。
TIM PETERSON(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)