パブリッシャー(発行人)に求められるスキルセットは大きく変わった。雑誌『ニューヨーク・ポスト』はオンラインでも主要な雑誌のタイトルになりつつあり、私自身も、仕事内容の変化に合わせて肩書きを変えることを検討した。雑誌『ニューヨーク・ポスト』の元パブリッシャーである、ラリー・バースタイン氏による寄稿。
本記事は、雑誌『ニューヨーク・ポスト』の元パブリッシャーである、ラリー・バースタイン氏による寄稿となります。
「私は、業界最後のパブリッシャー(発行人)なのだろうか?」。『コンデナスト(Condé Nast)経営陣の刷新に伴うパブリッシャーの役職撤廃』という、1月のニューヨーク・ポスト(New York Post)の見出しを見て、私はこう思った。
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Buzzfeedやマイク(Mic)といったデジタル系の企業のなかには、新たに加えたパブリッシャーという肩書きを再定義しはじめているところもある。しかし、コンデナストやタイムズなどの雑誌メディアの世界では、「パブリッシャー」に代わり「チーフ・インダストリーオフィサー」「チーフ・ビジネスオフィサー」「チーフ・レベニューオフィサー」といった肩書きを使っている。
雑誌メディアにおけるパブリッシャーは、ブランドの顔となり、幅広いビジョンをもつことが求められる。こうした新しい肩書きは、どこか業務的な響きをもっているが、おそらくそこに真意があるのだろう。
時代の趨勢を感じた出来事
最近、ニューヨークでもっとも有名な店舗のひとつで広告ディレクターを務めるクライアントにばったり出会った。数年前に付き合いのあった彼女は、ここ最近の変化に興味を示した。
私は、彼女のオフィスで一緒にしてきた仕事のことや、たまにランチに行ったことを思い出してもらった。ランチをともにしながら、私たちは家庭や社会生活の話をし、ニュースや映画の話題に追いついた。そして料理が片付けられ、デザートとコーヒーを待っている頃に仕事の話に入った。
私が彼女のブランドからのコミットメントを増やし、それをサポートできるようなマーケティングの協働関係を築くための価値命題を示す。すると、ニューヨーク・ポストがクライアントとの関係をさらに強化し、ビジネスを活性化させるのに必要なアイデアが明確になって、お互いに得た気づきをもち帰るということがあった。
それとは対照的だったのが、彼女の後任者との最近のeメールでのやりとりだった。現在は広告ディレクターではなく、チーフ・マーケティングオフィサー(CMO)と呼ばれているこの女性をランチに誘ったときの返信はこうだった:「アジェンダを教えていただけますか?」。
私はそのCMOに対し、「一般への公開前に、Webサイトの新機能について見ていただきたいのですが」と返信した。一瞬で返ってきた返事は、「パワーポイントで資料を送っていただけませんか」だった。それだけ忙しいのだ。そう、5分で終わるような話を、わざわざ外で2時間かけて話す人がいるだろうか?
すべては大きく変わった
すべては2008年から2009年の不景気のあいだに変わった。オフィスのなかの誰もが、多くの仕事を抱えるようになった。ランチをするどころか、会う時間すらなくなった。CMOの企画戦略の資料一式は電子化され、それ以外のあらゆるものもパワーポイントで書かれeメールで送られた。これは現在もよく行われているやり方だ。
(クライアントと)一緒にランチを食べる必要も、会う必要もなくなった。クライアントへ計画を伝える親しみを込めた電話は、電子的に配布される提案依頼書に置き換えられた。質問、問題、課題はオンラインで解決された。これこそがより効率的で、正確で、そして実績重視の働き方だ。誰もがよりたくさんの仕事をサクサクとこなせるようになったのだ。
パブリッシャーに求められるスキルセットは大きく変わった。ニューヨーク・ポストはオンラインでも主要な雑誌のタイトルになりつつあり、私自身も、仕事内容の変化に合わせて肩書きを変えることを検討した。
パブリッシャーでありたかった
それでも、私はパブリッシャーでありたかったので、肩書きをチーフ・レベニューオフィサーに変えることはやめた。パブリッシャーは私にとって、会社を背負う肩書きであり、メディア企業自身のヒエラルキーを説明するうえで便利な、社内的な立ち位置のような感覚だった。私は、後任者がパブリッシャーと、チーフ・レベニューオフィサーの両方の肩書きを使い分けていることを知って嬉しくなった。これが社内、社外、そしてクライアントや公共の場でのリーダーシップを示すうえで考えうるベストな組み合わせだ。
デジタルの計画やセルスルー、イールド・マネジメント、体験型広告、イベント、パートナーシップ、チーフ・レベニューオフィサーとしての業務範囲などの最適化をうまく管理してきたことで、私の物的価値はクライアントとの打ち合わせで力を発揮しはじめた。デジタルコミュニケーションの壁を打ち破って、直接クライアントに会うことで確かな見返りがあった。アイデアがひらめき、人との繋がりとデジタル革新が融合したときに最高の結果が生まれるということが証明されたのだ。
Larry Burstein (原文 / 訳:Conyac)
Image: Flickr