雑誌メディアのハースト(Hearst)は、2017年にロンドンを拠点にデジタル広告販売の担当メンバーを集結させ、グローバルチームを立ち上げた。これにより同社の業務効率を改善し、クライアントに再びキャンペーンを予約してもらい、より長期に渡る提携関係を築くことが狙いだ。
雑誌メディアのハースト(Hearst)は、2017年にロンドンを拠点にデジタル広告販売の担当メンバーを集結させ、グローバルチームを立ち上げた。同チームは10から26人で構成されており、クライアントの世界的なキャンペーン予約および運用をより簡単にすることを目的としている。これにより同社の業務効率を改善し、クライアントに再びキャンペーンを予約してもらい、より長期に渡る提携関係を築くことが狙いだ。
これまでのところ経過は順調だ。昨年にかけて、ハーストは200以上のキャンペーンをこのグローバルチームから運用した。キャンペーンには高級品業界の垂直思考マーケティングが多く含まれていた。同期間でハーストが世界であげたデジタル広告収益は、具体額こそ公表されていないが前年比で2倍に増加したという。
ハーストは保有および運用タイトル、合弁企業、ライセンス提供などを含めれば世界84カ国に展開している。これほど多数の市場で広告キャンペーンを展開する場合、ステークホルダーや各市場における資産、流通チャネルの数も増えるため、運用は大変になる。ロンドンを拠点とする前述のグローバルチームはデジタル広告キャンペーンの立案、戦略、実行、報告を担当しており、複数のマーケットで展開するディスプレイおよびブランデッドコンテンツキャンペーンも実施している。ハーストは各市場の販売チームを撤廃したわけではなく、地域ごとに展開したチームに必要に応じて協力を要請している。
Advertisement
チーム集約の3つのメリット
ハーストデジタルメディア(Hearst Digital Media)のグローバルバイスプレジデントを務めるダンカン・チャター氏は「我々は複雑なエコシステムのなかで運用されている。複雑であるからこそ良い点もあるのだ」と語る。「ローカライズされたコンテンツは当社にとっての強みであり、失いたくはない。だが同時に運用するのが恐ろしく大変でもある。それをクライアントにとって利用しやすい形に改善したい」。
チャター氏はチームを集約することのメリットは3つあると分析する。まず資産の減少によるコスト削減。次に連絡先が1つであることによる時間の節約。そしてオーディエンスへ一貫したブランドメッセージを伝えられることだ。同氏はこの理由から、世界展開されるキャンペーンの数は増えていくだろうと予測している。チャター氏の推測では、同市場におけるブランド広告主の予算のうち10から15%が世界規模で運用されている。
その一例がリッツ・カールトン(Ritz-Carlton)の世界展開キャンペーンだ。ハーストは1995年制作の米映画『リービング・ラスベガス(Leaving Las Vegas)』のディレクター、マイク・フィギス氏に依頼して5本の動画を撮影した。いずれもおよそ10分間の動画で、ハーストのブランドであるハーパーズバザー(Harper’s BAZAAR)とエスクァイア(Esquire)が展開する7市場に関連した5つの地域で撮影されている。動画のダイジェスト版はさまざまなソーシャルネットワークで配信され、動画を制作したハーストが所有および運用するサイトへとオーディエンスを誘導した。
「我々はデータ主導の企業」
9月までに、ハーストは5人で構成されるグローバルデータチームを立ち上げる。これは、同社の雑誌ブランドによる商業キャンペーンでのデータ利用効率を改善するため同社が2018年5月に立ち上げた20人規模の米国データスタジオの延長だ。同チームにはデータストラテジスト、データエンジニア、キャンペーンマネージャーらが参加する。
「企業として非常に力を注いでいる分野だ。当社は、自分たちをデータ主導の企業として捉えている」とチャター氏は語る。「データ収集に多大な労力をかけている。編集チームと商務チームのデータアクセス方法といった、データの分類と実行についても同様だ」。
収集対象のデータは、オーディエンスがどのようにコンテンツを消費しているか、どのようなアクションを起こしているか、ハーストの提携パートナーから何を購入しているか、サイトで実施しているアンケートへの回答などだ。ハーストはこれまでも一部パートナー企業に対して小規模ながら同様の取り組みを行ってきたが、データチーム5名を加えてさらに頻繁かつ詳細な取り組みを続けていくだろう。
エージェンシーからの視点
パブリッシャーがデータ内容を正確に読み取っていることが前提となるが、当たり前ながらエージェンシーにとってもパブリッシャーからキャンペーンが設計どおりに関連オーディエンスに届けられていることを示す情報を共有されるのはありがたいことだ。「重要なのは、新しい気付きをもたらしてくれる情報を見つけ出すこと」であると指摘するのが、メディアコム(Mediacom)のコンテンツソリューションチームであるビヨンド・アドバタイジング(Beyond Advertising)で共同リーダーを務めるダン・ウッド氏だ。「パブリッシャー業界でこれまであまり盛んではなかった分野でもある」。ハーストは現在、オーディエンスのデータと分析について他社と同じレベルにあると指摘している。
メディアコムにとって世界展開のキャンペーンは割合としては小さいものの、成長しつつある分野だ。メディアコムはいまだに世界展開のキャンペーンの大半を地域ごとに実施しているが、世界展開できる力をもっていることは他社との差別化に繋がっているとウッド氏は語る。
「一本化することでスケールメリットが生じる。とりわけ人的資本のメリットは大きい」と語る同氏は、次のように述べている。「キャンペーンの世界展開において最大の障害になりうるのが人的資本だ。あらゆる条件を満たすようなパートナー企業を探している」。
「主はシンプルさを求めている」
2018年にハーストUK(Hearst UK)のデジタル広告収益は30%伸びた。今年4月にハーストUKのCEOジェームズ・ワイルドマン氏はハーストUKのデジタル収益のうち、40%が多様化した収益源からのものだと語っている。ライセンス契約、イベント、認可、同社のコンテンツマーケティングエージェンシーなどからの収益だ。
「世界的にクライアントはシンプルさを求めている。複雑さを排除した構造にしたい」とチャター氏は語る。「運用の分野はインフラ、機能、人材の面で大きな変革をもたらしうる。運用を通じて世界中の企業を結びつけることが可能だ。キャンペーンの管理と計画、複数の市場でかつてないほど効率的に情報を抽出できるようになる」。
Lucinda Southern(原文 / 訳:SI Japan)
Photo by Shutterstock