インスタグラムは10月中旬、英競争・市場庁(CMA)の調査を受け、インフルエンサーが広告主から報酬またはインセンティブを受け取っていることを投稿に明示するよう促す変更を加えることに同意した。英国だけでなく全世界を対象にしたこの変更について、専門家はインフルエンサー施策の成熟に向けた新たな一歩だと見ている。
インスタグラムは10月中旬、英競争・市場庁(CMA)の調査を受け、インフルエンサーが広告主から報酬またはインセンティブを受け取っていることを投稿に明示するよう促す変更を加えることに同意した。英国だけでなく全世界を対象にしたこの変更について、専門家はインフルエンサーマーケティングの成熟に向けた新たな一歩だと好意的に見ている。
この変更の一環として、ユーザー名の下に表示され、広告主との関係を示す「Paid partnership」ラベルのツールが世界中の全ユーザーに適用される。
インスタグラムのユーザーは今後、商品PRのインセンティブを受け取っているかどうかの確認を投稿前に促される可能性がある。スポンサー付きであることを明示していない投稿を検出するためのテクノロジーやアルゴリズムを実装するとインスタグラムは述べている。インスタグラムによると、ニュースフィードアルゴリズムによって、ラベル付きの投稿がオーガニックな投稿と区別されることはないという。
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ニュースUK(News UK)のインフルエンサーマーケティング部門フィフス・グループ(Fifth Group)の創業者兼マネージングディレクターであるオリバー・ルイス氏は、ラベル付きの投稿が区別されない点は重要だと述べている。
「これまでラベルが軽視されてきたのは、エンゲージが下がるかもしれない、フィード内で投稿の優先順位が下がるかもしれないという不安があったためだ」。
来年6月までに変更完了予定
インスタグラムは広告主のため、自社の製品がどのようにPRされているかを理解し、承認されていない投稿や不適切なラベルが付けられている投稿の削除を依頼できるツールを開発する。また、インスタグラムはこうした疑わしい未承認の投稿の発生件数をCMAに報告する。さらに、広告主はこのツールからコンバージョンやブランドリフトに関する指標も得ることができる。広告主からインフルエンサーに取引関係の明示を求めてもらうことが狙いだ。
インスタグラムは2021年6月までにすべての変更を終えると約束している(変更の詳細はこちら)。それまでは四半期ごとの進捗(しんちょく)を報告書にまとめ、CMAに提出することになっている。
今回の変更はCMAからの「受託」と位置づけられており、オンライン上の誤解を招く宣伝を対象にした広範な調査の一部を成している。CMAは2019年1月、ポップシンガーのエリー・ゴールディング、リタ・オラ、モデルのアレクサ・チャン、ロージー・ハンティントン・ホワイトリーを含む16人の有名人を名指しし、ソーシャルメディアの投稿で何らかの報酬を得ていることを明示していないと指摘した。
CMAは現在のところ、インスタグラムの慣行が英国の消費者保護法に違反しているかどうかについての調査結果を公表していない。英国の消費者保護法では、企業、ユーザー、ソーシャルメディアプラットフォームは報酬が発生しているコンテンツにその旨を明示する責任があると定められている。
米国の規制当局もインフルエンサーマーケティングを重視している。米連邦取引委員会(FTC)は2月、ソーシャルメディア企業に関する新たな要件、罰則を盛り込み、宣伝に関する指針を改訂すべきかどうかを検討すると発表した。
広告業界関係者は歓迎ムード
広告業界関係者はインスタグラムの動きを歓迎している。
メディアエージェンシー、スターコム(Starcom)のパフォーマンス担当マネージングパートナーであるポール・カサミアス氏はメール取材に対し、「インフルエンサー、ブランデッドコンテンツの世界でこれから立て続けに起きる成熟の一段階と我々は捉えている」と述べている。「ほとんどのチャンネルが通ってきたパターンだ(中略)本物と言える規模に達すると、市場と業界が承認、倫理、道徳に関する姿勢を疑問視し始める」
フィンランドに拠点を置くインフルエンサーマーケティングプラットフォーム、マッチメイド(Matchmade)の共同創業者兼CTOであるレオ・ラネンマキ氏は、ほかのソーシャルプラットフォームもインスタグラムの先例に倣うか、規制当局に強制されると予想している。
「(ラベルが)さまざまなプラットフォームで標準化されることを希望する」。ただし、「先はまだ長いと思う。各プラットフォームが今後も独自のメカニズムを維持すると予想されるためだ」
英国の広告業界団体ISBAの事務局長フィル・スミス氏は、インフルエンサーマーケティングの世界では、多くの問題がクリエイターによる故意のルール違反ではなく知識、教育不足によって起きていると断言する。
「特に握手だけで取引が成立するロングテールの世界では(中略)絶え間なく教育を行い、実際の投稿に間に合うよう必要な情報を提供することが絶対的に正しいと思う」。
「まだ十分に理解できていない」
インスタグラムは英国の広告関連NPO、メディアスマート(MediaSmart)と連携し、若者たちがブランデッドコンテンツについて詳しく学ぶための教材をつくると述べている。今年12月に第1弾を公開し、学生たちがクリスマス休暇を終えた2021年1月、ボリュームのある第2弾が続く予定だ。
インスタグラムがこれから実行する変更は正しい方向への一歩だが、インフルエンサー市場が本格的な成熟期に突入するには長い道のりがある。たとえば、DMで行われるカジュアルな取引の数を考えると、市場規模に関するデータがどれくらい信頼できるかさえわからない。
広告エージェンシー、メディアキッチン(Media Kitchen)のCEOを務めるバリー・ローウェンタール氏は次のように述べている。「インフルエンサーマーケティングがマーケティングにおいて果たしている役割を、我々が構造的、哲学的、心理学的に十分理解できているとは思っていない」。
LARA O’REILLY(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:長田真)