コロナ以降もっとも早く再開したスポーツはゴルフだ。しかし、ゴルフマガジンのコマース事業が好調なのは、再開が早かったことが理由ではない。入念に準備したアイフィリエイト事業とコマース事業の連携によってファーストパーティデータを得て、それをコンテンツや広告にも活用し、収益が収益を生む好循環を確立しつつあるのだ。
ゴルフは、新型コロナウイルスのパンデミック中に、プロスポーツにおいても娯楽においても最初に再開したスポーツのひとつだった。そして、スポーツへの関心の高まりを受け、ゴルフマガジン(Golf Magazine)とそのサイトであるゴルフドットコム(Golf.com)は、より広範なオーディエンスに対して新しいコマース事業をテストすることができた。
ゴルフマガジンは6月、2019年末に構築したアフィリエイト事業の延長で、小売マーケットプレイス「プロショップ(Pro Shop)」を新設した。ゴルフマガジンのCDO(Chief Digital Officer)を務めるロブ・デキアロ氏によると、この3カ月間、プロショップの販売実績は前月比で3~4倍増だったという。デキアロ氏は、プロショップの売上高について正確な数字を明らかにするのを避けた。
「ゴルフファンやゴルファーは、編集してキュレートされたマーケットプレイスを探している。何かをレコメンドする際、購入を完了するのにウェブブラウザで15のタブを開いているような気分にさせたくない」と、デキアロ氏は語る。
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売上は20倍に
プロショップはただのコマース事業にとどまらない。広告事業に掛かる負担をある程度軽減する目的もあるが、ゴルフマガジンのファーストパーティデータ戦略のすべてに情報を提供し、コンテンツ戦略や広告事業にフィードバックしていると、デキアロ氏は話す。
デキアロ氏は1年半ほど前にゴルフマガジンに加わり、広告売上への依存度を下げることを目標にしていた。そしてプロショップ開設から1〜2年以内に、アフィリエイトとマーケットプレイスから成るコマース事業が、売上全体の30~40%を占めるようにしたいと述べている。
1月以降、ゴルフマガジンのコマース事業は売上が20倍になったと、デキアロ氏は語る。プロショップの前に始められたアフィリエイト戦略は、メディアによる製品のレコメンドがどれほど信頼されているかを知るテストケースになっただけでなく、オーディエンスがどの製品の購入にもっとも関心があるかを把握する手段にもなった。
プロショップのマーケットプレイスは現在、帽子やゴルフバッグなど4500種類の在庫がある。そのすべてがゴルフ製品eコマースプラットフォームのグローバル・バリュー・コマース(Global Value Commerce)のバイヤーがまとめたカタログから編集チームが自ら選んだものだ。グローバル・バリュー・コマースが運営するウェブサイト、グローバルコルフ・ドットコム(GlobalGolf.com)とフェアウェイスタイルズ・ドットコム(FairwayStyles.com)は、ナイキ(Nike)、アディダス(Adidas)、プーマ(Puma)のようなブランドのゴルフ関連の衣料品を販売している。
強化されたアイフィリエイト戦略
編集チームは、読者が特に関心を抱いていると考えられるブランドの製品に注目し、さらに目を引くように、動画やニュースレター、ソーシャル投稿、記事にそれらを盛り込んでいる。「プロショップは、ステロイドで強化したアフィリエイトマーケティング戦略のようなものだ」と、デキアロ氏はいう。同氏の目標は、「コンテンツとコマースの架け橋を縮める」ことだという。
プロショップは、ゴルフ・ドット・コムに組み込まれたが、販売事業はサードパーティ企業のグローバル・バリュー・コマースが運営している。小売パートナーのグローバル・バリュー・コマースは、ふたつのゴルフ関連衣料品のサイトを運営し、ゴルフマガジンのようなメディア企業が自力で構築して規模を拡大すると長い時間がかかる、購入のフルフィルメントや流通すべてに対応していると、デキアロ氏は語る。ゴルフマガジンは販売手数料を得る形だ。
だが、ゴルフマガジンがプロショップを所有、運営することには、手数料以外のメリットがあるとデキアロ氏は話す。ゴルフマガジンのチームは、読者によってショップで生成される顧客プロフィールにアクセスし、ファーストパーティデータ戦略を策定するのに役立てることができる。
「デジタル広告業界の誰もが、広告やピクセルごとにどんな反応が起き、それが取引やコンバージョンにどうつながっているかを追跡できる機能を求めている」とデキアロ氏は述べる。ただし、広告費を獲得するという点では、パブリッシャーは依然として認知度を高める役割を担う存在だと考えられているため、難しい立場に置かれていると付け加えた。
ファーストパーティデータの宝庫
プロショップを通じて生成されるユーザープロファイル経由のデータと、サイト上で販売された製品ごとの記録はファーストパーティデータの宝庫だ。それに、そうしたデータのおかげで、デキアロ氏のチームはオーディエンスが市場で求めているものや購入しているもの、そのほかのトレンドへの理解を深められる。
「一種の無限ループだ」とデキアロ氏は語る。「我々の新たな収益源は、今も主要な収入源となっている広告やパートナーシップに還元されることになる」。
メディアコンサルティング企業クォンタム・メディア(Quantum Media)の共同経営者であるエイヴァ・シーブ氏によると、パブリッシャーが開設するマーケットプレイスの真の魅力は、人々の購入履歴からプラットフォームで生成されるファーストパーティの行動データだという。
「誰にとっても商品を販売することへの参入を阻む障壁はない」と、シーブ氏は話す。商品自体が限定品でもなければ、消費者はAmazonなどのオンライン小売業者でもっと安価や送料無料のものを探すので、プロショップがゴルフマガジンの最終収益に及ぼす影響が非常に大きくなる見込みは薄いという。
[原文:‘One endless loop’: How Golf is using its new retail marketplace as a first-party data play]
Kaygeigh Barber(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:分島 翔平)