「ニューヨーク・タイムズ(New York Times)」は1月17日、35ページにわたる社内レポート「孤高を保つジャーナリズム」を発表した。これは、デジタル分野における同紙の弱点に鋭く切り込み、広く読まれた「2014年イノベーション・レポート」を踏まえている。本記事では、その要点を紹介し、解説を加えていく。
「ニューヨーク・タイムズ(New York Times:NYT)」は1月17日、35ページにわたる社内レポート「孤高を保つジャーナリズム(Journalism that stands apart)」を発表した。これは、デジタル分野における同紙の弱点に鋭く切り込み、広く読まれた「2014年イノベーション・レポート(2014 Innovation Report)」を踏まえている。
今回の新しいレポートは、デビッド・レオンハルト氏率いるジャーナリスト7人のチーム「2020年グループ(2020 Group)」による1年がかりのプロジェクトの成果だ。チーム結成は、ニューヨーク・タイムズが、2020年までにデジタル収益を倍増させるという目標を宣言したのがきっかけだった。「前進したが、もっと前進しなければならない」というのが、レポートの要点だ。
「2014年イノベーション・レポート」は、ソーシャルメディアを利用して記事を広め、編集サイドと事業サイドに相互理解をもたらすことがテーマだった。一方、2017年のレポートの主眼は、ニューヨーク・タイムズの日常のジャーナリズムを改善して購読者数の増加につなげる方法だ。「仕事のやり方を変えなければならない」と、レポートは指摘している。
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ふたつのレポートには、もうひとつ大きな違いがある。「イノベーション・レポート」は意図せず流出したが、今回のレポートは公開を前提に作成されたのだ。発表は、編集担当最高幹部のディーン・バケット氏とジョー・カーン氏が作成した覚書と符合している。
この覚書では、レポートに書かれている多くの要因が取り上げられている。具体的には、米大統領ドナルド・トランプ氏に関する報道への500万ドル(約5億6800万円)の支出、編集業務に加えた変更(削減を含む)、より視覚的なジャーナリズムの追加、イノベーション・チームの立ち上げなどだ。今回の記事では、このレポートの要点を紹介し、解説を加えていく。
NYTはまだ退屈すぎる
要点:ニューヨーク・タイムズは、1日200本の記事を作成しており、「あらゆるところに掲載された最高傑作もある」。だが、大きなインパクトがなくオーディエンスに届かなかった記事や、既報のニュースと同じような記事、緊急性がほとんどない」記事、若い読者が違和感を覚える記事が多すぎる。ある記者は、ニュース編集室に関する調査で、「私は記者であり、動画担当者と話したことはほとんどない」と回答した。レポートは、デジタル形式でその日の概況を説明するなど、より視覚的でジャーナリズムらしい形の記事を求めている。
解説:ニューヨーク・タイムズは長年にわたって「クオリティーペーパー」を自称してきたが、若い読者にリーチする取り組みを改善する必要がある。若い読者は、購読者数の増加を左右し、広告主からも大いに求められている。つまり、ニューヨーク・タイムズが認識しているのは、読者が主導権を握っていて、それに適応しなければならないということだ。
NYTはサブスクリプション売上を増やす必要がある
要点:ニューヨーク・タイムズは、自社のサブスクリプション事業がほかの報道機関とは一線を画すると強調。また、昨年はサブスクリプション事業によるデジタル売上が5億ドル(約568億円)に達したが、引き続き成功するには、それをはるかに超える成長も必要だと指摘している。
解説:ニューヨーク・タイムズは、「ワシントン・ポスト(The Washington Post)」や「ガーディアン(Guardian)」のようなほかの大手紙だけでなく、2014年版レポートで目立ったBuzzFeedも一層ライバル視している。
サービス・ジャーナリズムの強化
要点:ニューヨーク・タイムズは、ガジェット推薦サイト「ワイヤカッター(The Wirecutter)」を最近買収するなど、サービス・ジャーナリズムを強化する動きを進めてきたが、「そのポテンシャルを引き出すにはほど遠い」。
解説:ニューヨーク・タイムズは、世界有数の報道機関を自認しているかもしれないが、すべてのパブリッシャーと同様に、維持費の高いニュース編集室から引き出す価値を増やす必要がある。たとえば、ニューヨーク・タイムズのアーカイブにある過去記事をホームページで再び紹介する「スマーター・リビング/より賢い生き方(Smarter Living)」が、そのいい例だ。
雇用の改善
要点:従業員は研修から恩恵を受けてきたが、デジタル分野でのさらなるてこ入れと幹部の多様性が依然として必要だ。「変化に向けた野心的な計画を実行するには、ニュース編集室におけるスキルの適切な組み合わせが求められるが、我々にはまだそれがない」。編集者の覚書によると、採用を主導するために上級編集者が選任される予定だという。
解説:前にも同じことを聞かなかっただろうか? デジタル人材の採用が遅れているという2年前の告白や、かつてはスター級ジャーナリストの受入先だったが、いまは必ずしもそうではないという告白と、かなり似ているように聞こえる。
新しい基準が必要
要点:ニューヨーク・タイムズは、読者を獲得する記事の価値を評価するために、ページビューに代わる基準を設ける試みを進めている。ただし、レポートによると、「ニュース編集室はそうしたページビューについてより明確に理解する必要がある一方で、有効な評価基準はページビューに並ぶほどの成果を上げていない」という。
解説:ほかの多くの報道機関と同じく、ニューヨーク・タイムズが認識を強めているのは、オンラインニュースで大規模化を主眼に置くモデルはページビューにつながる可能性はあっても、価値につながるとは限らないということだ。ただし、メディアの評価やメディアバイイングの新基準は登場していない。
印刷版とデジタルの分離
要点:ニューヨーク・タイムズは昨年、印刷版の日常製作業務の機能を統合する「プリント・ハブ」を設けた。だが、ニュース編集室の組織構造と同じく、重要なスクープは印刷版とデジタルの両デスクに拡散し、記事のインパクトが薄れている。レポートは、ハブの自律性を高め、印刷版としてベストを尽くすとともに、デジタル側を解放して前進させることを求めた。
解説:印刷版とデジタルの融合を数年かけて試みたのち、多くのニュースメディアは進化し、印刷版とデジタルはそれぞれニーズと必要なスキルが異なることに気づいている。
Lucia Moses(原文 / 訳:ガリレオ)
photo by Thinkstock / Getty Images