動画の生産量は増えていても、まだ発展途上で不確かな分野であることは確かだ。パブリッシャーのサイト以外の場所で再生されているのがほとんどであり、こういった場所では再生回数による収益は少なくなる。この点を考慮したうえで、動画への転換で一定の成功をおさめた、5つのパブリッシャーを紹介したい。
動画分野にとって、2017年は良くも悪くも転換期となるだろう。いくつものパブリッシャーが動画に取り組むために、エディトリアルのスタッフを解雇してきている。
業界人のなかには、動画へのこの急転換はパニックによるものだと見ている者もいる。しかし、業界全体が高いCPMを求めているなかで、どこに向かっているのか、ヒントとなる現象を見つけることもできる。先月米DIGIDAYが行った調査では、パブリッシャーのエグゼクティブたちの80%が、さらに多くの動画を来年は制作することになると回答しているのだ。
動画の生産量は増えていても、まだ発展途上で不確かな分野であることは確かだ。パブリッシャーのサイト以外の場所で再生されているのがほとんどであり、こういった場所では再生回数による収益は少なくなる。この点を考慮したうえで、動画への転換で一定の成功をおさめた、5つのパブリッシャーを紹介したい。
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BuzzFeed
BuzzFeedは、読者層のアイデンティティを反映させたコンテンツを制作することにフォーカスを置いているパブリッシャーのひとつだ。短いクッキングビデオから、ドキュメンタリー、そしてTwitterにおけるライブトーク番組まで幅広い種類の動画をさまざまなソーシャルプラットフォーム上で提供している。彼らのデータによると、過去3カ月間では10のプラットフォームにおいて136億ビューが獲得されたという。
またこの数年のあいだ、こういったビデオクリップはウェビーズ(Webbys)、ストリーミーズ(Streamys)、そしてショーティアワード(Shorty Awards)といった各種のアワードを授かってきた。今後はさらに野心的な長尺の動画プロジェクトも予定している。そのなかにはテレビをターゲットとしたものもあるという。
オーディエンスが視聴する場所にBuzzFeedが移動する、という形でプラットフォームにまつわるデータも変わってきている。当初はYouTubeでの動画にフォーカスをおいていたBuzzFeedだったが、そこでの再生回数は16%減って46億回となっている。その一方でFacebookの動画再生回数は10%近くも上昇し391億回となった。これらはタビュラー(Tubular)による2017年最初の8カ月間のデータとなっている。
マイク
マイク(Mic)は動画分野へ注ぐエネルギーを増やすため、として8月に25人のスタッフを解雇した。これは業界全体のトレンドを示唆していると関係者を心配させた。
2100万ドル(約23億円)の投資ラウンドから4カ月後に行われたこのリストラによって、動画制作のためのリソースを増やすことに成功している。昨年の同時期には動画専門のフルタイム社員は25人だったが、現在では30人へと増えた。しかしこの数字だけでは全体像はつかめない。マイクは全社的に動画やビジュアルジャーナリズムの制作プロモーションに協力することを計画している。
動画の再生回数は急上昇している。昨年の7億9200ビューは今年、35億ビューを突破している。タビュラーによると、このほぼすべてがFacebook経由となっている。マイクはトランスジェンダーの人々がターゲットとなった殺人事件を追った動画シリーズ「アンイレイズド(Unerased)」でデッドライン(Deadline)やグラァド・メディア・アワード(GLAAD Media Awards)を受賞している。またSpotify(スポティファイ)と共同でプロデュースした動画シリーズ「クラリファイ(Clarify)」ではデイタイム・エミー賞(Daytime Emmy Award)にノミネートされた。
ニューヨーク・タイムズ
ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は2014年にこのトレンドの前兆に気付いて動画へと方向転換した。100人のエディトリアルスタッフを解雇する一方で、動画担当チームを60人編成と、それまでの倍に増やしたのだ。現時点のスタッフ数は公表していないが、彼らが配信しているチャンネルを見るとオペレーションは継続して拡大していることがよく分かる。タビュラーラブス(Tubular Labs)によると、今年はじめからの8カ月では、Facebook動画は5億9500万ビューに、実に年比較で72%もの成長を見せている。
タイムズにとって動画分野は、それよりも大きなプロジェクトの一部でもある。2017年のニューフロント(NewFronts)プレゼンテーションではポッドキャスト、ほかのマルチメディアストーリーテリング、そして全体のブランドセーフティが強調されている。
タイムズのコンテンツの質の高さは、受賞した数々の賞が証明している。昨年だけでも動画は8のエミー賞ノミネーションを受け取っており、そのほかにもエドワード・R・マロー賞(Edward R. Murrow Award)、17のNPPAベスト・フォトジャーナリズム賞(NPPA Best of Photojournalism awards)を受賞した。短編ドキュメンタリー「4.1マイル(4.1 Miles)」は2017年オスカーにもノミネートされている。これは海上で難民を救うギリシャの沿岸警備隊のキャプテンについてのドキュメンタリーだ。
タイム社
タイム社(Time Inc.)は自分の従来のビジネス部門が縮小するのに応えて動画分野のビジネスをスケールでもって拡大していこうとしている。彼らの動画分野の成長は11四半期、連続で続いている。これは彼らのサイト外の大規模配信を優先することで可能になってきた。この第2四半期において、自社サイト、そして配信プラットフォームを合わせて合計5万以上の動画をパブリッシュし、30億のビューを得ているという。
コンテンツは8つのプラットフォームで配信される。Facebook Watch(ウォッチ)、Snapchat Discover(ディスカバー)、インスタグラム、そして自社のサイトがそれに含まれる。ビューの大部分はFacebookからだが、タビュラーのデータによるとインスタグラムとYouTubeもそれぞれ20%から25%を占めていることが分かる(過去3カ月間)。
タイム社が抱えいる課題は、ほかの多くのパブリッシャーと共通している。それはこのビューをマネタイズすることだ。第2四半期においてデジタル広告収益は年比較で2%減少している。
ワシントン・ポスト
ワシントン・ポスト(The Washington Post)は今年のはじめには40人であった動画スタッフを70人へと倍増させている。また、これらのスタッフを、Facebook上の短尺動画、音無しのクリップから脚本ありの動画、そして長尺のドキュメンタリーと異なる動画プロジェクトを順番に回すことで、スタッフをさまざまに活用している。エミー賞を4つ、マロー賞を4つ、そしてエミー賞ノミネートを3つ獲得した。
多くのパブリッシャーたちは、Facebookのマネタイゼーションが上手くいかないことに不満の声をもらしているが、ワシントン・ポストにとっては少し違うようだ。彼らにとってはFacebook上のオーディエンスにリーチするためのキーとして、ニュースフィードが存在している。2017年の最初の8カ月のあいだにワシントン・ポストのFacebook動画は合計で3億6700万ビューを獲得。これはタビュラーラブスによると昨年の同時期に7700万ビューであったことを考えると、その5倍になっている。
Max Willens(原文 / 訳:塚本 紺)