デジタル広告の売上が伸び悩むなか、高価格の有料購読に目を向けるパブリッシャーが増えている。数百ドル(数万円)どころか5000ドル(約50万円)、それ以上の年間購読料で、特別なニュースや情報を届けるサービスだ。一見無理目の設定だが、それを可能としている各媒体社の戦略をレポートする。
デジタル広告の売上が伸び悩むなか、高価格の有料購読に目を向けるパブリッシャーが増えている。数百ドル(数万円)どころか5000ドル(約50万円)、それ以上の年間購読料で、特別なニュースや情報を届けるサービスだ。
老舗の「ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)」から、デジタルネイティブの「ビジネスインサイダー(Business Insider)」「インフォメーション(The Infornation)」、新興の「アクシオス(Axios)」まで、さまざまなパブリッシャーが、読者は年間1万ドル(約100万円)もの購読料を払ってくれるだろうと見込んでいる。
営業担当は業界外から選べ
「購読料を1万ドルにするなら、通常版とはまったく別物でなければならない」と、「ポリティコ・プロ(Politico Pro)」のビジネス開発および戦略担当バイスプレジデント、ボビー・モラン氏はいう。
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「ポリティコ・プロ」は政府関係者を対象としており、年間購読料は最低でも5000ドルだ。「すぐには売上につながらないことを覚悟しておかなくてはならない。また、メディア営業の人材は業界以外から雇うことだ」と、モラン氏は続けた。
最後の言葉はパブリッシャーには受け入れがたいかもしれない。しかし、経験者にいわせれば、このようなサービスを販売するには特殊なスキルが必要で、それは従来のメディア営業担当者にはまったくなじみのないものだ。売り込むべき商品は、高額であるだけでなく、消費者にとって馴染みがなく、必要性も感じていないものだ。そのため、販売の過程では何度もミーティングや対話が重ねられ、半年かかることもある。
新卒の若者という選択も
アトランティック・メディア(Atlantic Media)傘下の「ナショナル・ジャーナル(National Journal)」が採用する販売戦略を立案したのは、同社オーナーであるデビッド・ブラッドリー氏が設立したコンサルティング企業、アドバイザリーボード(Advisory Board)だ。同誌は2015年、現在の会員限定の運営形態に移行した。購読料は団体規模により5000~5万ドル(約50万〜500万円)で、特別調査記事、ツール、政府関係者向けの交流イベントなどを取り扱っている。
「ナショナル・ジャーナル」のプレジデント、ケビン・ターピン氏によれば、重要なのは商品を研究者のように熟知し、売り込もうとしているマーケットを理解し、かつ親しみのもてる人物を採用することだ。これにあてはまるのは、大学を出たばかりで営業経験のない若者だ。
「舌先三寸で売れるわけがない」と、ターピン氏はいう。望ましいのは、「デビッド(・ブラッドリー氏)がよくいうのだが、テーブルをはさんで対面した見込み客が、営業担当者を自分の子供に重ね合わせる」ことだ。
対面営業で売上アップ
ポリティコも、「ポリティコ・プロ」の販売担当者を採用する際、このやり方を大いに活用した。モラン氏自身もアドバイザリーボード出身だ。2010年に「ポリティコ・プロ」が発足した当初は、みな電話営業で十分だと考えていたという。しかし、やがて、対面ミーティングの方が複数の見込み客と同時に話せる分、効率的であり、しかもコンバージョン率と売上のアップにつながることがわかった。
いまでは、販売担当者はミーティングの前に相手のことを可能な限り調べ上げ、すでに利用しているサービスやそれに対する満足度を把握するようにしている。加えて「ポリティコ・プロ」の販売担当者は年2回の研修に参加し、そこで購読者から直接フィードバックを受ける。
それに見合うだけの成果はある。メディア担当者がサービスチェックのために連絡する回数を年2回から年4回に増やすことで、継続する購読者の割合は倍になり、購読継続率は約95%に上った。そのため、「ポリティコ・プロ」の販売担当者は顧客へのフォローアップを平均年4回実施する。2016年は購読者数が25%、売上が35%増加したと、モラン氏はいう。
「その場限りの営業にはならない。1週間で済むこともあれば、数カ月かかることもある」。
営業コストへの対処法
この手法の難点は、営業にコストがかかることだ。購読料12ドル(約1300円)でwebマガジンを販売する場合、実入りは小さいがプロセスを自動化できるため販売コストも相対的に低くできる。だが、生身の営業担当者を雇うとなると、その分利幅が削られるため、大きく稼ぐには大きな投資を必要とする。
この問題について、パブリッシャーの対処法はさまざまだ。「ポリティコ・プロ」は経験者を優先的に採用するが、少数精鋭だ。「ナショナル・ジャーナル」は新卒かそれに近い人材を採用し、社内研修を施す(これによりコストを下げている)。「このやり方はうまくいくと確信している。このような特殊なニーズに対応できる社員を育てられるはずだ」と、ターピン氏は語っている。
Lucia Moses(原文 / 訳:ガリレオ)
Image via Getty Images