ニューヨークタイムズ(The New York Times)のメールマガジン戦略が拡大中だ。現在のメルマガ登録者数が1300万件と、3年前から倍増したことを社内メモで明かした。要因は、同社におけるメルマガ数の急増による。2015年夏、NYTは33種のメルマガを定期的に発行。それが現在では、50種を超えている。
ニューヨークタイムズ(The New York Times、以下NYT)のメールマガジン戦略が拡大中だ。NYTは2017年5月30日、メルマガの登録者数が1300万件と、3年前の2倍以上に増加したことを社内メモで明らかにした。
この要因は、同社が発行しているメルマガ数の急増によるところが大きい。2015年夏、NYTは33種のメルマガを定期的に発行していた。それが現在では、50種を超えるメルマガを、少なくともそれぞれ週1回は発行している(加えて、頻度は落ちるがマーケティング中心のメルマガが7種ある)。メルマガの内容は、地域ニュース(「カリフォルニア・トゥデイ」「NYTオーストラリア」)やサービス(「クッキング」「スマーターリビング」)から歴史(1967年という年を通してベトナム戦争を振り返る「ベトナム ’67」)まで幅広い。
NYTのメモによると、この状況において重要視すべきは、メルマガ購読者がサブスクリプションサービスに登録する見込みが、通常のNYT読者の2倍になることだという(毎月読んでいる記事の数も平均的なNYT読者の2倍になる)。サブスクリプションサービス登録者の獲得は、同紙が最重要と見なしている分野だ。
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この1年間のデジタルメディアのあらゆる成長ストーリーと同じく、ここでもトランプ氏の選挙戦が重要な役割を果たした。NYTのエディトリアルプロダクト担当ディレクター、ニコール・ブレスキン氏は、会話体で外交政策について説明するメルマガ「インタープリター」は、登録とエンゲージメントが事前の期待を上回ったと述べている。インタープリターはトランプ氏の就任式の週に開始されており、これが一因だろう。
メルマガ担当者のお仕事
ただ、ブレスキン氏はメルマガの成長について、トランプ氏が大統領に就任するどころか、共和党の候補になる以前から活発になりはじめていたと強調した。そして、NYTのニュースルーム全体を、メルマガの話題とアイデアの情報源とする取り組みを指摘。この取り組みを主導しているのは、NYT勤務歴9年のベテランで、最近まで同紙メトロデスクのデジタル編集者を務めていたエリザベス・グッドリッジ氏だ。
グッドリッジ氏の現在の肩書きはニュースルームニュースレター編集者で、決まったチームがない。そのため、アイデアを求めて「何十もの」オーディエンスチームや部局チームと連絡を取り合っている。
グッドリッジ氏の仕事から、NYTオーストラリアのような明らかなローカルプロジェクトが生まれた。そしてさらに、期間限定のメルマガ「ベトナム ’67」のようなサプライズも誕生。オピニオン部門が数年前に実施した南北戦争に関するシリーズ、「ディスユニオン」の成功の再現を狙って作られ、5月から発行が始まったベトナム ’67は、開封率が80%を超えている。グッドリッジ氏は、これが成功すれば、ニュースルームのほかの部門でも真似できるモデルになるだろうと語った。
プロダクトのイノベーション
プロダクトのイノベーションも重要な役割を果たした。NYTは最近、人気メルマガのひとつ「モーニング・ヘッドライン」の登録ウィジェットをホームページに表示し、また数カ月前には、インタープリターのコラムにメルマガの登録ウィジェットを埋め込みはじめた。
この登録ウィジェットは、デスクトップコンピューターでコラムを読んでいるのがどういう人物かによって内容が変化する。インタープリターに登録していない人には、このメルマガを、またすでに登録している人には、似た話題に関する別のメルマガを表示し、ふたつ以上のメルマガに登録している読者には、ウィジェット自体が表示されない。
NYTが目にしている成功は、2年前にはじまった業界規模のメルマガ回帰が実ったものだ。GoogleやFacebookといったプラットフォームからなんとしても読者を取り戻したいパブリッシャーたちは、エンゲージメントとコミュニティを促進する場として、メルマガのような古いプロダクトに望みを託した。それ以降、メルマガは新しいデザインやマネタイズの実験場になっている。
メルマガというスタイルの妙
グッドリッジ氏によると、NYTでは最終的に、メルマガというメディアスタイルが、メルマガ成長のもうひとつの主因になったという。同紙のメルマガは、インタラクティブなもの、会話風のもの、サービス指向のものなど形式はかなり異なるが、いずれもいつかは削除されてなくなるものであり、これがデジタルメディアにおいて魅力的な特性になっているとグッドリッジ氏は言う。「人々が新聞を好むのは、新聞にはそういう有限性があるからだ。よいメルマガにはそれと同じ体験がある」と、同氏は述べた。
グッドリッジ氏は、「メールを削除するのは実に気持ちがいい」とも言った。
Max Willens (原文 / 訳:ガリレオ)