ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)のCEOであるマーク・トンプソン氏に対して、米DIGIDAYがインタビューを実施した。今回の取材で彼は、2019年のサブスクリプション戦略、ポッドキャスト分野における大きな計画、そしてFacebookとの関係性について語ってくれた。
2018年、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は自らが達成したマイルストーンを誇らしく宣言した。11月1日の段階で、サブスクリプション登録者数が400万人を越えたのだ。主に広告に依存していたビジネスから消費者からの収益で大部分を賄う会社への移行において重要なステップである。
「Netflix(ネットフリックス)やSpotify(スポティファイ)といった他分野の大手デジタルサブスクリプションたちと同じ視点を持つようになった。そしてそれは成果を見せたと思っている」と米Digidayに語ったのは、同紙のCEOであるマーク・トンプソン氏だ。
トンプソン氏がニューヨーク・タイムズへとやって来たのは2012年のこと。彼はBBCのトップとして8年間務めていた。今回の取材では2019年のサブスクリプション戦略、ポッドキャスト分野における大きな計画、そしてFacebookとの関係性について語ってくれた。
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――400万人のサブスクリプション登録者は非常に大きな達成だ。2018年における登録者数増加の理由は何だと考えているか?
まず一番に、我が社のジャーナリズムがある。2018年は、ジャーナリズムへの投資が、成果を大きく見せた年だと私は考えている。ここ数日だけでもFacebookに関する重要な報道を行ってきたし、ワシントンDCからも、中間選挙の結果に関する幅広い視点を提供し、ホワイトハウスにおける最新の話題も提供する良い報道をしてきた。
英国のブレグジットに関する報道も良くできていた。我々のジャーナリズムがいかに異なっていて、オリジナリティを持っているか、そして調査報道に我々がかけている支出の大きさを人々に理解してもらうという点で、我々が上達してきている。それによって本当に成果が現れてきた形だ。
非常に素晴らしい大きなスクープ報道が数多くなされてきた。ホワイトハウス内部のスタッフが現状を知らせたいと思い、その相手としてニューヨーク・タイムズを選んだ。夏の終わりに匿名で書かれた記事がそれだ。素晴らしいコンテンツに対する投資がサブスクリプション業務を成長させているということが、私にとってはもっとも大きなことだ。
また、マーケティング戦略やデジタルプロダクトの仕事に関しても上達を続けていると思う。エンゲージメントを高め、読者たちがスマートフォン上でもサブスクリプション登録してもらうように促すための取り組みがその例だ。
――2019年は、どのようなタイプのサブスクリプション登録者をターゲットに捉えるのか
2019年も、同じテーマとなるだろう。アメリカではエンゲージメントを見せるユーザーの範囲をより若い世代へと広めるための方法を検討している。
ポッドキャストの「デイリー(The Daily)」は、年齢層の高いオーディエンスよりもニューヨーク・タイムズというブランドに対する印象が明確ではない若いオーディエンスをエンゲージする点で上手く行っている。このオーディエンスの3分の2以上が40歳以下で半分は30歳以下となっている。これはほとんどの新聞オーディエンスと比べて、はるかに若い年齢層となっている。2019年、テレビ番組「ウィークリー(The Weekly)」をHulu(フールー)とFXでローンチするが、そこでもニューヨーク・タイムズというブランドと我々のジャーナリズムをより若いオーディエンスに紹介することになる。
ジャーナリズムに継続してフォーカスすると同時に、マーケティング戦略においては、より多くの女性に、ニューヨーク・タイムズが毎日の欠かせない読書・視聴のソースとして考えてもらうことを目的としている。以前はオーディエンスのうち大部分が男性に偏っていたが、ニュース、論説、そして特集という分野で女性にアピールするものを見極めることが、私たちの取り組みのひとつとなるだろう。
また、海外の登録者数を拡大することも継続する。2019年には海外の登録者数の成長が国内よりも大きくなることが希望だ。
――2018年にニューヨーク・タイムズが直面した最大の課題とは何か?
デジタルにおける課題に素早くソリューションを提供するために、異なる部門における取り組みを効果的に調整すること。これが我々にとって内部の最大の課題だった。多くのメディア組織同様、部門ごとに分かれた仕事スタイルが根強く記憶に残っている。縦に掘り進められた特定の責任を担う形から、よりフレキシブルなチームワークへと移行することが課題だった。
ジャーナリズムという点では、ニュース編集室や論説部門のスタッフたちはかつてないほど激しいニュースの流れに継続して対応していることが挙げられる。国内でも海外でも、ニュースという点において信じられない時代になっている。
――タイムズ社はデジタル広告に据えるフォーカスを大きくした。この移行はなぜ起きたのか?
我々の強みとなるデジタル広告ビジネスを作りたいと思っている。価値がある、思慮深いオーディエンスがやって来て、深いエンゲージメントを見せる、ハイクオリティなブランドが我々だ。このエンゲージメントとオーディエンスのクオリティは、広告主にとっても価値があるものだと考えている。驚くほど安いCPMで膨大な量のデジタル広告が売られているこの時代、私たちは特別な物を提供できると信じているのだ。
特にスマートフォンに対して、エンドユーザーにとって価値がある、エンゲージメントこそが広告主からの良いメッセージとして扱われるべきだ。Tブランド・スタジオ(T Brand Studio)を約5年前に立ち上げたのもその理由からだ。またブランドたちとのパートナーシップを行い、ジャーナリズムに取り組んでいるのも同様の理由だ。我々の強みに貢献できる物を作ろうと挑戦してきている。
最後に我々は、ブランドにとって、本当に安全な環境になろうとしている。それは、自分たちのコンテンツが、我々のブランド上に存在していることに、マーケターが一切の不安を抱かないような状況だ。
――Facebookのアルゴリズム変更はニューヨーク・タイムズとの関係に何か変化を生み出したのか?
Facebookとは一点、非常に具体的な問題を夏に抱えた。これは私も公に語ってきたことだが、Facebookが最初に提案してきたのは、ニューヨーク・タイムズやほかのパブリッシャーによるマーケティングメッセージのすべてを「政治的広告」としてラベリングするというものだった。我々の意見はニュースジャーナリズムは、政治的広告ではないというものだった。そして、タイムズの記事を使って、潜在的なサブスクリプション登録者へとリーチしようと試みたとしても、それは政治的広告とラベリングされるべきではない。この点に関しては議論が行われた。
最終的にFacebookは、社会からのプレッシャーによって考えを少し変えることになった。我々にとってFacebookは、ジャーナリズムを幅広く広めることがメインの利用法だ。また、有料マーケティングチャンネルを使ってサブスクリプションをプロモーションするのにも使っている。その関係性については完全に満足している。Facebookとは深いパートナーシップを持っていないが、信頼し合う、効率の良い、両者にとって理に適っているパートナーシップを持っている。
――2019年の大きなプランにはどのような物があるのか?
ポッドキャストをさらにひとつ上のレベルへと昇華させる。デイリーが成し遂げたことには非常に満足している。ポッドキャストの数をスケールさせ、ポッドキャストに対する我々の取り組みもさらに大きくする。ウィークリーは2019年前半にローンチすることで、我々のプラットフォームはこれまでにない規模になる。消費者テスティング・サイトのワイヤーカッター(Wirecutter)を我々は買収した。しかし、さらに買収を行い、我々のポートフォリオに加えるということも、可能性としては存在している。
Ilana Kaplan(原文 / 訳:塚本 紺)