GDPR もなんのその、NYTの「広告収益」は大きく成長中

一般データ保護規則(GDPR)が昨年施行されたとき、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は完全に安全な方法を取ることにした。

ヨーロッパのページにおいて、すべてのオープンエクスチェンジ広告バイイングをブロックし、その後すぐに行動ターゲティング広告もブロックした。そしてニューヨーク・タイムズ・インターナショナルは、プログラマティックギャランティードにおける文脈・地理ターゲティングと、プライベートマーケットプレイス取引をフォーカスとして据えた。この結果、広告収益の下降は見られていないと、ニューヨーク・タイムズ・インターナショナルのグローバル広告部門シニア・バイスプレジデントのジャン・クリストフ・ダマータ氏は言う。

現在、ヨーロッパのページで動いている広告のすべてはダイレクト販売によるものだ。ヨーロッパにおける正確な収益は語らなかったが、ダマータ氏によると、デジタル広告収益は昨年5月から大きく成長しており、2019年に入ってもその傾向は続いているという。

「我々がヨーロッパにおいて、行動ターゲティング広告を提供していないということは、広告主と我々の関係の邪魔になっていないようだ。ターゲティング性能よりもブランド力の方が強いのかもしれない。収益という観点では影響は見られない。むしろデジタル広告ビジネスは継続して大きく成長を見せている」と、彼は言う。

ニューヨーク・タイムズは昨年秋、短い期間でオープンエクスチェンジによるプログラマティック広告バイイングを試験運用したが、中断している。「すべての要素を考慮して、継続しないことを決定した」と、ダマータ氏は言う。

完全にやめると判断

昨年5月にGDPRが施行されることなって、直前に多くのパブリッシャーたちが慌てて対策を講じた。米国のパブリッシャーのなかにはヨーロッパにおけるページすべてをブロックしたり、広告をすべて撤去するという極端なアプローチを取った会社もあった。USAトゥデイ(USA Today)はヨーロッパにおける広告すべてを取り下げた。この戦略は現在でも実行されている。昨年5月の段階で、ヨーロッパでのアクセスをブロックしたアメリカのウェブサイトは合計1000を超える。違反した場合には、高額の罰金が課せられることを考えると、このような対応も極端ではあっても理解できるだろう。ロサンゼルス・タイムス(Los Angeles Times)は英国やフランスなど一部の国でコンテンツ閲覧を再開しはじめたが、それでも、ヨーロッパのほとんどの国では閲覧できないという表示を出している。

ビジネス全体で見ると、ヨーロッパにおける収益やトラフィックが非常に小さいアメリカのパブリッシャーたちにとっては、こういった極端なアプローチも問題ないだろう。しかし、ヨーロッパからの収益がある程度の重要性を持っているパブリッシャーたちにとっては、このアプローチは継続することができないものだ。

ニューヨーク・タイムズはグローバルで290万人の有料デジタル会員がいる。デジタルニュースの有料登録会員のうち15%はヨーロッパからとなっている。ヨーロッパにおけるデジタル広告はまた、収益源としても重要だ。ニューヨーク・タイムズが抱える読者収益のビジネスモデルにとって、読者のユーザー体験を守ることが非常に重要となる。同意を取るための通知や、ぎくしゃくしたユーザー体験で不快な思いをさせるのではなく、行動広告を完全にやめるという判断をしたのだ。

「はじまりにすぎない」

ヨーロッパからの健全な広告収益ストリームを抱えていたBusiness Insider(ビジネスインサイダー)も同様だ。ヨーロッパではパーソナライズされた広告を流してはいるものの、そのためのデータ利用に同意したユーザーだけが対象となっている。ビジネスインサイダーの顧客サービス・オペレーション・収益部門グローバル・シニア・バイスプレジデントであるマーク・ボズウェル氏によると、オプトインの割合は高くなっており、広告収益は影響を受けていないそうだ。

ビジネスインサイダーのヨーロッパ広告収益は、社全体における広告収益の約10%を占めている。この状況で広告をすべてブロックするには、大きすぎる割合である、とボズウェル氏は言う。彼らがGDPRの準備に着手しはじめたのは2018年の1月のことだ。アクセル・シュプリンガー(Axel Springer)によるオープンソースのCMP(Consents Management Platform:同意管理プラットフォーム)を最初から使っている。

アメリカでもプライバシー関連の法律が施行の可能性を抱えている。その一例が

他国の法案にも対応

昨年5月、GDPR施行の際におけるパブリッシャーたちの慌てっぷりは、米国での法案施行では繰り返されないだろうと、業界のエグゼクティブたちは考えている。業界に精通する情報源によると、CCPAは2020年まで施行されないが、アメリカの3つのメディア複合企業は、CMPパートナーを積極的に探している最中だ。CMPはユーザーがトラッキングされ、パーソナライズされた広告を受けることに同意した、という情報を保存する。そして、その情報をパブリッシャーが抱えるプログラマティック広告パートナーへと送る。

「米大手パブリッシャーたちから、我々の同意戦略に対する関心が改めて集まっている。英国で『とりあえず初日のための』GDPRソリューションを導入したパブリッシャーたちはいま、長期的なプロセスを運営したいと考えている。これはGDPRだけでなく、アメリカのプライバシー法案にも対応できるものだ。英国でも類似の関心を受けている」と、ケーン氏は言う。

これまでのところ、英国個人情報保護監督機関(Information Commissioner’s Office:ICO)は、罰則よりもインセンティブを優遇している。特に米パブリッシャーの管理方法に関してはそうだ。ワシントン・ポスト(The Washington Post)はそれに倣って、トラッキングに対する同意を与えたくないユーザー向けに有料サブスクリプションを開発した。警告の文書という形でICOから注意を受けたが、これ以上の罰則が彼らに与えられる様子はない。

「1年半前に、カリフォルニアのプライバシー法案に対する不安はあるか、と聞かれていればイエスと答えていただろう。しかし、GDPRを経験して、不安はなくなった。ポリシー間の小さな違いはあるけれども、同じフレームワークに修正を加えて適応するだろう」と、ボズウェル氏は言う。

Jessica Davies(原文 / 訳:塚本 紺)