4月29日、2019ニューフロンツ(NewFronts)にてニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は、新しい広告ターゲティングについて語った。これはモチベーション、閲覧中の記事のトピックといったコンテクスチャル(文脈)要素を複数用いて読者をターゲティングするという内容だ。
サブスクライバーを優先に考えるニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は、読者のプライバシーを真剣に捉え、広告戦略はプライバシー観点から開発している。
4月29日、2019ニューフロンツ(NewFronts)のプレゼンテーションにおいてニューヨーク・タイムズは新しい広告ターゲティングについて語った。これはモチベーション、閲覧中の記事のトピックといったコンテクスチャル(文脈)要素を複数用いて読者をターゲティングするという内容だ。
モチベーションにフォーカスを置いた機能を使えば、広告主は読者に特定のアクションを起こしやすい記事にターゲットを絞ることができると考えられている。この機能は2019年の第4四半期にローンチされるとのことだ。トピックでターゲッティングする広告機能では、タイムズのコンテンツは「数百の」異なるカテゴリーに分類される。こちらは次の四半期にローンチ予定となっていると、広告イノベーション部門シニア・バイスプレジデントのアリソン・マーフィー氏は言う。
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「これは我々にとって賭けだ」
2014年以来、ニューフロンツに参加してきたニューヨーク・タイムズは、これまでこのプラットフォームで新しいフォーマットの宣伝をしてきた。バーチャルリアリティ、ストーリーテリング能力といった具合だ。しかし、ニュースは広告カテゴリーとして、いまだに広告主たちから慎重に扱われており、またプラットフォームにとっては、あまり都合の良くない分野における広告支出を巡って、パブリッシャーたちが競っている状況だ。そんななかでニューヨーク・タイムズは、コンテクスチャル広告の発表に脚光を浴びさせることに決めた。2時間に及ぶプレゼンテーションでは、ケーブルTV番組「ザ・ウィークリー(The Weekly)」についての知らせ、そして音声分野への投資についての情報、そしてポッドキャストについて語られたが、マーフィー氏はニューヨーク・タイムズの社員のなかでは2番目にもっとも長いスピーチ時間を抱えた。もっとも長くステージに立ったのは広告・マーケティング・ソリューションのグローバル責任者であるセバスチャン・トミッヒ氏だ。
「これは我々にとって賭けだ。まだ意見として完成していない段階だが、ひとつの意見が存在している。それは現時点で、精密なオーディエンスターゲティングへの業界の軌道修正があまりにも進んでおり、その結果、収穫逓減が起きるまでになっているというものだ。それをコンテキストにフォーカスを当てることで、とりあえずは、もう少しの収益を増やすことができる、というものだ」と、トミッヒ氏は午前のプレゼンテーションのあとに述べた。
過去数年に渡って、ニュースパブリッシャーたちはニュース分野を広告のフィールドとして敬遠する広告主の態度に対抗しなくてはいけなかった。2018年11月、米DIGIDAYによる400のメディアバイヤーを対象にした調査では、43%がニュースの横に表示される広告を避けると回答している。カテゴリーに対するこの疑いが原因で、パブリッシャーたちはコンテクスチャル広告の売り込み方をさらに洗練させる必要が生じた。
ニュース分野における困難
「ニュース分野はブランドセーフティに対するフォーカスが高まったいまでも、いくつかの広告主にとっては困難さを抱えている。難しい環境において、広告主たちが安全性を感じ、サポートされていると感じてもらうためのステップが、この意図だ」と、メディアエージェンシーPHDのパブリッシュドメディアそしてデジタルダイレクト部門のエグゼクティブディレクターであるジョン・ワグナー氏は語る。
この問題にニューヨーク・タイムズは、いくつかの角度から取り組んできた。ライフスタイルやサービスジャーナリズムといった取り組みは、彼らがサブスクライバー収益に本格的に取り組んだことが一因としてある。
そのほかは、広告プロダクトへの投資が増えたことの成果でもある。たとえば、2018年2月には、記事が読者に湧き起こすかもしれない感情をターゲットにする広告をオファーしはじめた。マーフィー氏によると、それ以来、この感情ベースのキャンペーンを行った広告主は10社を越えるという。コントロール(対照)群と比べて、クリックスルー率が平均して40%向上したとのことだ。ESPNやUSAトゥデイ(USA Today)といった、ほかの大手パブリッシャーたちも多く、感情に基づいて読者をターゲティングできる広告プロダクトを展開している。
ニューヨーク・タイムズの読者グループからクラウドソーシングして集めた情報をプロセスし、マシーンラーニングを活用することで、感情ターゲティングのモデルを構築した。先日発表されたモチベーション・ターゲティングに関しても、類似の方法が使われるだろう。
懐疑的な声と残された可能性
ニューヨーク・タイムズのプレゼンテーションに多くの希望を見出した出席者もいたなかで、この新しいプロダクトが本当に彼らが約束する効果をもたらすかどうか、懐疑的な者もいる。
「『購買意図』があると証明されているかどうか、について私は疑っている。『コンテンツ』の横に表示された『広告』ならどのようなものでも、ブランド価値につながるという大きな仮説を打ち立てている。これは単純に、それまでの成功の仕組みの根本となっていた、エディトリアルと広告ページは壁によって分かれており、エディトリアルの横に配置される広告ページを販売する、という歴史から生まれているだけのように思える」とメディア・バイイング、そしてマーケティングサービスのグループであるCHRメディアグループ(CHR Media Group)のCEO、ピーター・クラーク氏は言う。
しかし現在、ニューヨーク・タイムズはサブスクライバー数の増加を最重要項目として掲げており、ニュースルームはデジタル消費者プライバシーに関する数カ月間に及ぶ調査を開始して、数週間しか経っていない。そんななかでは、サブスクライバーベースを広告主に売るにあたり、もっともプライバシー侵害度が低い方法を選ぶしか選択肢はなかったと言える。
「1年前、2年前に業界のほかの企業と同じ方向に進み、『サブスクライバーの個人情報をシェアする。サブスクライバーについてはあらゆることを知っていて、それを使ってマーケターには人を特定できるようにする』と発表していたら、非常に妙なことになっていただろう。我々はそれと真逆の方向に進んだ。それは正しい気持ちがする」と、トミッヒ氏は語った。
Max Willens(原文 / 訳:塚本 紺)